表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで
8/80

侯爵の誤算。騎士を囲い込むはずが、母も娘も恋という檻に囚われる

 ハイアン侯爵家に騎士カミーユが逗留して一週間。王宮への出仕は明日へ迫っていた。


 従者フローラは憤りの言葉を吐いた。

「直ちに出仕することとあったのに、こんなに待つなんて、おかしいです。カミーユ様」


 カミーユは、静かに、しかし厳しく従者を嗜める。

「フローラ。国王陛下はご多忙なのです。けっしてそのような事を口にしてはいけません」

 フローラは身を縮こませ、主人の言葉を受け入れた。


 一週間の公爵邸の逗留。その間、ロザリア・ハイアン侯爵令嬢は、騎士カミーユを側から離すことはなかった。


 カミーユの王宮への出仕を明日に控えた夜半においても、それは変わることはない。


「カミーユ。やっぱり、あなたと寝ると温かいわ。確か、魔力のせい。だったかしら」

 寝衣姿のロザリアは、カミーユに抱きつきながら話した。

「はい。ロザリア様。村の賢者は私の体には竜の血が流れていると申します」

 ロザリアは鈴の音のような声で笑う。

「ああ、可笑しい。じゃあ、私はカミーユにがぶりと食べられてしまうかもしれないのね」


 カミーユは少女が安心して笑っている姿を見て微笑む。

「もし私が竜になったら、背に乗せて差し上げます」

「ふふ、約束よ。カミーユ」

 ロザリアはカミーユの手を握り、目を閉じた。


 翌朝、カミーユは男装の礼服に身を包み、髪を整えていた。

「タイはもう少しボリュームをもたせたほうが良いわ」

 侍女を押しのけ、ロザリアが鏡の前に割り込んだ。

「お嬢様、そのようなことは私どもが」

 侍女が、困り顔で呟く。

「そうね。お前を困らせたいわけではないのよ。でも、タイの形は直してね」


 それから何度もロザリアの横槍が入るも、カミーユの仕度がようやく整う。


 そして、カミーユは、つい先ほど、領地から邸宅へ到着した当主。サラ・ハイアン公爵への挨拶へ向かう。


 私兵に伴われ、応接室に入ったカミーユは、侯爵閣下に片膝をつき、頭を垂れた。


「ナイト・カミーユ・オヴ・クリンと申します。侯爵閣下。長きに渡り御邸に留まる事を許していただき、光栄の極みでございます」


 ハイアン侯は、カミーユに告げる。


「久しぶりですね。騎士カミーユ。あなたは覚えていないかも知れないけれど、十歳のあなたを騎士に推挙したのは私だったのよ」

 サラ・ハイアンは、悪戯っぽく笑った。


「それは。私、田舎者ゆえ、存じ上げておりませんでした。誠に申し訳ございません」

 カミーユは、慌て、さらに深く頭を下げた。


「良いのです。騎士カミーユ。若年のあなたには苦労をかけたと思います。見事役目を果たし、嬉しく思います」


「もったいなきお言葉、身に余る名誉です」


 カミーユは、この女性、サラ・ハイアンは自身を試しているのだと思った。


「顔を上げなさい。騎士カミーユ」

 サラ・ハイアンは、カミーユに命じた。


 カミーユはサラに顔を向ける。十人もの子供を産んだにも関わらず。サラの美貌は今なお輝いていた。


「騎士カミーユ。まるでつぼみが綻んだようですね。あなたの成長を嬉しく思います」

 サラはカミーユの前進を見つめる。それは熱い熱情の瞳であった。


 サラは口調を変える。子を案じる母の口調だ。


「よくロザリアを助けてくれました。母として礼を言います」

「は、お家の方々全てをお救いできず、申し訳ございません」

「良いのです。それに、手引きした者も、ようやく分かってきました」


 カミーユの体に緊張が走る。

「それはまことに。いえ、そのような事、私などに」

 お家の名誉に関わる事である。一介の騎士の聞いて良い話ではない。


「良いのです。騎士カミーユ。私はあなたを身内と思っています。あなたもそう思う事を期待します」


 サラの言葉に、カミーユは困惑した。それほどの好意を持ってもらう由縁を思いつかないのだ。


「騎士カミーユ。先ほども言いましたが、あなたを騎士に推挙したのは私です。あなたの現在に対して、私は身内として、責任を感じています」

 サラは言葉を続ける。


「此度の褒賞についても、私から陛下へ口添えさせていただきました。私やロザリアの騎士として、これからも尽くして欲しいのです」


 なんとも直接的な勧誘であった。カミーユは、自らの王都での派閥の有り様を、求められているのだ。


「私の剣は、国王陛下のものです。その御心に沿うのであれば、侯爵閣下の意に従います」


 カミーユは国王の名を出した。この国、ベラルーン王国の権威である国王に、カミーユも当然、剣を捧げている。


 サラはそんなカミーユを見る。その瞳は熱情を帯びており、カミーユに色香を匂わせた。

「警戒しなくても大丈夫です。私、サラ・ハイアンは国王派の忠臣です。国王陛下の意のままに働きます」


 サラは満足したように微笑んだ。

「さあ、もう出立の時間ですわね。騎士カミーユ、あなたは従者と共に我が家の馬車に乗って王宮へ向かいなさい」


 カミーユは頷いた。


「ありがとうございます。ハイアン侯爵閣下。御恩は決して忘れません」

 カミーユは鞘に入ったままの剣を突き出した。


「あなたに剣の忠誠を」


 サラは熱に浮かされた瞳で、満足そうに微笑んだ。


 こうして、騎士カミーユはこの母子に剣を捧げ、忠誠を誓うこととなった。


 そして、カミーユは、陰謀渦巻く王都の権力闘争に巻き込まれることとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ