姉上の訪問。夏の日の終焉と黄金の再臨。カミーユ、家族の安息を守るため独り竜の群れへ
季節はめぐり夏。
カミーユは妻たちと共に、久しぶりにゆったりとした時を過ごしていた。
剣士ローレンに教えてもらった風呂は、夏もさっぱりとした心地よさを与え、妻たちには好評であった。
今は昼下がり、マリーゴールドの黄色を楽しみながら、カミーユは、エトナの膝に乗り、ロザリアを膝に乗せ、フローラに給仕をさせてお茶を楽しんでいる。
「エトナ、あなたの愛はいつも私の心を包んでくれます。あなたの元に戻るため、私は生きているように感じます」
「ロザリア、あなたの愛はいつも私を夢中にさせます。あなたの愛に報いるため、私は日々を過ごしています」
「フローラ、あなたの忠愛は私の心の支えです。これからも末永く、私に仕えてください」
これだけのセリフを言って、皆に心地よさを与えるのが、カミーユのカミーユたる所以である。
皆、カミーユを喜ばせようと、賑やかに茶会は続く。
ふと、ロザリアが口を開く。
「ねえ、カミーユ。王女殿下との結婚は、間も無くだったかしら。お母様がそうおっしゃっていたわ」
ロザリアは花の具合でも確認するかのように、軽やかに尋ねる。
「はい。この夏の終わり頃には、式を迎えられるようです」
エトナは不安げにカミーユに問う。
「カミーユは、王女殿下、即位した女王陛下の妻となられるのですよね。住まいも王宮へ変わってしまうのでしょうか」
「いいえ、エトナ。私はこの度、公爵となります。女王陛下の元へは、この屋敷から通うことになります。私の住まいは変わりません」
「良かった。カミーユ。嬉しいです」
エトナは安心してカミーユに微笑みかける。
「カミーユ様、式の御衣装はいかがなされるのでしょうか」
フローラはお茶を注ぎながら、カミーユに尋ねる。
「はい。サラ・ハイアン侯爵閣下が、私のために衣装を準備していただけることになっています」
「そうよ。お母様にお任せすれば間違いがないのだから」
ロザリアが補足する。
実際にカミーユは何度か仮縫いでハイアン侯爵家へ呼ばれ、衣装の準備は着々と進んでいた。
ハイアン侯爵家を訪ねた際は、無論、カミーユはサラの元で夜を過ごした。
カミーユは眼前のお茶会に意識を戻す。
女たちは賑やかで、ハーブ茶の香りは清々しく、サルビアの花が美しく揺れていた。
そんな時、夏の風が、俄かに強くなった。
空は曇り、夏の日に寒さを感じる。
カミーユたちを覆う影が大きくなり、カミーユたちを日から陰らせた。
その影は小さくなり、金色の煌びやかな美女に姿を変えた。
「愚妹よ。俺が会いに来たのだ。喜びに打ち震えよ」
シド・クオンであった。いつの間にかカミーユの中庭に、金色の美女が腕を組み、立っていた。
カミーユは妻たちの前に立ち塞がり、佩刀に手をかける。
「逸るな愚妹よ。俺が言ったことを覚えているか。滅びの美だ。今日を人の世の滅びの日にしても良いのだ。ただし」
シド・クオンはカミーユを見つめる。
「人の世を滅ぼせるだけの竜を連れて来た。愚妹よ。まずは貴様が戦うことを許そう。他の人間に手は出さぬというのだ」
見ると、北の空に雲霞のような数の竜たちが飛んできている。その高さは高く、巨人たちの弓でも届かないであろう。中には家ほどの大きさの竜たちも混じっている。
「シド・クオン。これはあなたの戯れですか」
カミーユはシド・クオンを警戒したまま尋ねる。
「姉上と呼ぶことを許そう。それ以外の呼びかけには応じぬ」
シド・クオンは不遜な笑みでカミーユを見下ろす。
「姉上、これはあなたの戯れですか。他の者たちには手を出さぬのですね」
「その通りだ。妹よ。あの竜たちを自由にさせれば人を襲おうが、そうでなければ人は襲わぬ」
カミーユに選択の余地はなかった。
「フローラ。弓と矢を」
「はい。カミーユ様」
カミーユはフローラに、カミーユの弓と矢筒を用意させる。
矢筒には、巨人から送られた魔法の矢、ミスリルの矢が入っている。
「場所は王都の北の台地といたします。よろしいですね」
カミーユはシド・クオンに告げる。
「構わぬ。好きに戦うが良い」
カミーユは自らの体に流れる竜の血から魔力を汲み上げ、視線の先、王都の北の台地に向かって空間を跳んだ。
こうして、突如として、カミーユと竜の軍勢の戦いが始まった。




