王宮での逢瀬。不器用な美の結晶。カミーユが宝とした、王女の清らかなる涙
カミーユが王都に帰還した翌日。
カミーユ・ロラン伯爵は、王宮へ向かう。神王国での出来事を、国王陛下に報告する必要があるのだ。
カミーユは紋章の描かれていない馬車で、使用人の通用口を使って王宮へ入った。
カミーユはその華麗さ、凛々しさで目立つが、それでも人の目を忍ぶ必要があった。
カミーユは、謁見の間ではなく、応接室に通される。これは、話の内容が公にはできないからだ。
カミーユが応接室に入ると、国王ゲオルグは既に椅子に座っており、その隣には王女アナスタシアも臨していた。
カミーユはアナスタシアの存在に驚きつつも、立礼し、首を垂れる。
「礼は良い。そなたも座るのだ」
国王の言が発され、カミーユは向かいの椅子に座った。
「神王国での働きを聞かせてもらおう」
国王はカミーユに問う。
王女はこのままここにいるようだった。
カミーユは話す。
「神王国の大聖堂。その大司祭は邪教に手を染めていました。竜の信奉する貪欲の女王と呼ばれるものです。私は大司祭を討ち、その信仰の過程で彼らが育てていた竜を尽く討ち果たしました」
国王ゲオルグは驚くが、カミーユのこと。と、気を取り直す。
無論、臨席する騎士クラリスも表情を変えることはなかった。
「神王とは会ったのか」
「はい。神王カルナス陛下は大司祭の専横に苦労されていたご様子でした。私の働きは、目の上の瘤を取ることとなったようです」
「なるほど、神王とは話ができそうであるな。ところで」
国王ゲオルグは王女アナスタシアを見た後、カミーユを見つめる。
「今年中と決めていた婚姻について、話を進めようと思う。両人異議はないな」
カミーユは黙って首を垂れる。
アナスタシアは頷く。
「聖堂を至急修復しておる。夏が終わる頃は形になろう。さすれば婚姻の儀を行う。また、アナスタシアの戴冠もその際に行う。良いな」
カミーユは改めてアナスタシアを見つめる。
彼女の瞳は泉のように静かであるが、その奥に僅かに熱を持つように、カミーユには感じられた。
「無論でございます。陛下」
「問題ありません。陛下」
二人は返事をし、改めて結婚を意識した。
「陛下」
カミーユが言を発する
「何か」
国王が問う。
「アナスタシア王女殿下と、語らいの時間を、いただけませんでしょうか」
アナスタシアの表情は変わらない。
国王は答える。
「ふむ、良いだろう。これからでも良いか」
カミーユは答える。
「はい。王女殿下、お願いいたします」
王女はカミーユを見上げ、頷く。
「はい。お願いします。ロラン伯爵」
カミーユが王女の手を取る。後ろにはクラリスが侍っている。
「中庭へ参りましょう」
カミーユは王女の手を引き、中庭へと歩み出た。
初夏の緑が輝き、眩しく目を焼いた。
カミーユはガーデンテーブルにアナスタシアを導き、椅子を引き、座らせた。
自身も隣に座る。
中庭には、カミーユたちを遠巻きに見る者たちもいた。
カミーユは侍女を呼び、お茶を用意させる。
お茶が供され、しばし陽の光を浴びる。
カミーユは隣の王女を見つめる。
夜が似合うと思っていた王女は、陽の光のもとでもなお美しかった。
「アナスタシア王女。私、伝え忘れていたことがございます」
アナスタシアは大きな瞳を開いて、表情でカミーユに問う。
「アナスタシア王女、あなたは美しい。そして、私はあなたを愛おしく思います」
カミーユは言葉を切り、アナスタシアの手を取った。
「アナスタシア。私と共にいてくれませんか」
アナスタシアはカミーユの瞳を見つめる。
「私は、それで構いません。ごめんなさい。この様な言葉しか思いつかなくて」
そう云うアナスタシアの瞳からは、真珠のような涙がポロポロと流れている。
「悲しいわけではないのよ。カミーユ。私は愛嬌もなく、あなたに笑顔を捧げることも出来ません。陛下の命で、あなたの隣にいるのが許されるのかと考えると、涙が止まらないのです」
アナスタシアは涙も拭かず、カミーユを見つめている。
「ありがとうございます。アナスタシア。あなたの心の内を示してくださって」
カミーユはアナスタシアの涙を優しく指で拭った。
「その涙を、私の一生の宝といたします。私はあなたを愛し、守り続けます。そのために、あなたの隣りにいさせてください」
「ええ、ええ。ありがとう。カミーユ。私を愛してくれて。私もあなたを愛しています」
アナスタシアはカミーユの手をそっと抱いた。
こうして、カミーユとアナスタシアはお互いの気持ちを確かめあった。




