静かなる凱旋と愛の長風呂。家族の温もりと古竜シド・クオンの謎
季節が春の盛りを迎える頃。その昼下がり。
カミーユは神王国からベラルーン王国の王都モスカウへ帰還した。
愛馬にまたがり、ワゴンを連れた、ささやかな一行であった。
カミーユは久しぶりに我が家へ帰り、妻らの歓迎を受けた。
妻のエトナにロザリア、それに従者のフローラである。
皆、目に涙を浮かべ、主人の帰りを待ち侘びていた。
「カミーユ。怪我はありませんか」
「カミーユ。どうしてもっと早く帰ってこなかったの」
「カミーユ様。ご無事で良かった。ところでこの方々はどなたですか」
カミーユは妻らの言葉に答える。
「エトナ。心配をかけました。怪我もなく無事です」
「ロザリア。遅くなって申し訳ありません。買い付けたお茶があります。後で皆で楽しみましょう」
「フローラ。後ろの者たちは竜のために拐われた人々です。我が家で保護します。支度をお願いします」
カミーユは振り返り、ユマに告げる。
「ユマ、金庫からあなたの報奨金を取り出し、受け取ってください」
ユマは呆れて言う。
「カミーユ。本当にイカれてるぜ。泥棒に金庫番をさせるんだからね」
そうして、カミーユは日常を取り戻した。
早速、カミーユは風呂に入り、旅の汚れを落とし、旅路のことを思い出す。
神王国では色々なことがあった。なかでも、恐ろしい力を秘めた竜、シド・クオン。このものはカミーユを妹と呼んだ。
もし、彼女がカミーユの姉であるならば、和解の道はあるのだろうか。
そもそも、自身は何者であるのか。
カミーユは思考の袋小路に迷い込んだ。
そんな時、賑やかな声が聞こえて来た。妻たちが風呂にやって来たのだ。
「カミーユ。疲れてはいませんか。心が落ち着く香油があるのです」
「エトナ。その香油、ちょっと貸して。カミーユ。私がマッサージしてあげるわ。そこに横になりなさい」
「ロザリア様、奥方にそのような事をさせるわけには参りません。ここは従者である私が」
カミーユは微笑み、暗い考えを頭から追い出す。
そして、カミーユはフローラの胸の傷を気にしたが、妻たちは気にしておらず。受け入れているようであり、カミーユはその様に安心する。
「ありがとうございます。では、ロザリアから、順にお願いします」
カミーユは侍女に飲み物を運ばせ、たっぷり二時間ほど、妻たちとの入浴を楽しんだ。
入浴の後、夕食を取り、国王陛下へ事の次第を伝える手紙をしたためたカミーユは、師、ゴダールの秘密の部屋を訪れた。
師は、細かく複雑なガラスの容器を操り、何かを作っている様子だった。
「カミーユよ。長旅ご苦労であった」
「はい。旅の途中にお導きいただき、ありがとうございました」
師はガラスの容器を置き、カミーユに向き直る。
「シド・クオンについて調べた。このものは古竜である」
「こりゅう、ですか。それはいったい」
カミーユは師に尋ねる。
「うむ。真竜、真の竜は成長する。その段階を分けると、雛竜、若竜、成竜、古竜、神竜。となる。それぞれの成長に、数百年から数千年かかる。自ずと、階梯の高い竜の数は少なくなる」
「では、シド・クオンは数千年生きているのですね」
「そうじゃ、カミーユよ。そなたが戦った真竜たちは、馬ほどの大きさであったな。それ等は若竜である」
カミーユは俯く。
「御師様。竜たちは、どれほどの数いるものなのでしょうか」
「竜は北方の大深林のさらに北、極北の山脈に住んでおる。そこには火山もあり、暖かな地方もあるようじゃ。そこには神竜の総べる国があるという。名をリベリオンという」
「御師様。神竜とは、貪欲の女王とは違うものですか」
師ゴダールは答える。
「うむ、共に竜の神ではあるが、袂を分かつ存在であるな」
カミーユは重ねて師に尋ねる。
「御師様。竜は竜の言葉を話しますか」
師は答える。
「うむ。竜の言葉がある。無論、ワシは覚えておる」
「御師様。その言葉、私にもお教えください。きっとすぐに必要になる時が来ると思うのです」
「で、あろうな。よかろう。授けて進ぜよう」
こうして、カミーユは王都モスカウに帰還した。しかしそれは、新たな戦いの準備の時でしかなかった。




