騎士と竜の巣。竜の孵化場の浄化。ミスリルの神速の矢と紅蓮の魔法、生贄を救う正義の怒り
騎士カミーユと女泥棒ユマ、竜の声が聞こえる竜の巫女のカリン。
三人は、竜の雛と卵が密かに育てられている、大聖堂の地下にやって来た。
カミーユが先行し、ユマとカリンが後に続き、通路から続く階段を降りる。
階段は、螺旋階段となっており、地下の空間に繋がっているようだった。
階段の奥、はるか下から獣の様な吠え声と、水音が聞こえる。
カミーユは後ろを振り返る。
「カリン。この階段の下に、水場があるのですか」
ユマに手を引かれ、カリンは答える。
「はい。この階段はとても深くまで続いていて、そこには竜の産卵所と地底湖があります」
カミーユはカリンに尋ねる。
「地底湖。竜はそこから出入りしていますか」
カリンは答える。
「はい。雛から育った竜が、その地底湖を通じて出入りしています。新たな餌となる人々も、そこから、竜によって運び込まれていました」
カミーユは頷く。
「カリン、今、成竜は何匹、雛は何匹ほど居るか分かりますか」
カリンは足元を確かめながら答える。
「成竜の声が二十匹、雛は百匹ほど、卵は数百、それらの声が聞こえてきます。成竜たちは皆、巣に帰ってきているようです」
カミーユはユマに声を掛ける。
「ユマ、現場でカリンから説明を受けたら、私は竜たちを駆除します。あなたはカリンとともに隠れていてください」
カミーユたちは十分ほど階段を降りる。
筒状の空間は段々と太く、広くなり、眼下に巨大な空間が見られるようになった。
カミーユは下方を指差す。
「カリン。あそこの貯水槽が孵化場。あちらが雛の餌場、こちらに見られるのが成竜の巣で合っていますでしょうか」
「はい。カミーユ様。それで間違いありません。あちらの檻に、眠らされた人々が入れられています」
カリンは更に指を指す。そこには意識を失い、丸太のように積まれた人々が、檻に入れられていた。
「あれは薬か何かですか」
カミーユは顔をしかめてカリンに問う。
「はい。生きたまま。仮死状態にする薬を打たれているそうです。死んでしまったら餌に使えないからと」
カミーユは下方を更に見つめる。二十人ほどの人々が、その場で竜の世話をしているようだった。
「カリン。あなたと同じように竜の声が聞こえる巫女は、他に何人いますか」
カリンは指差す。
「五人います。今、皆、下にいるようです」
「わかりました。他の人たちは聖職者の方たちのようですね。大司祭はいますか」
カミーユは彼らを見下ろす。竜を操り他国を脅かすのは、この者たちであろう。
「いいえ、カミーユ様。大司祭様はいないようです。今ここにいるのは司祭様たちです」
「わかりました。ユマ。カリンを連れて階段の上の方で、待機してください。私は竜を討ち、その卵を破壊します」
カミーユは螺旋階段から壁面に跳ぶ。そして、壁面のおうとつに足を掛け、下半身を安定させる。
カミーユは下方にいる、色とりどりの鱗を持つ竜を見つめる。
これらの竜は、かつてカミーユが苦戦した竜と同じ、馬ほどの大きさがあった。
それが二十匹、巣の上で休んでいる。
カミーユは弓を取り出し、魔法の金属、ミスリルで出来た矢を番える。
それは巨人から送られた魔法の矢である。
そして、カミーユは自らの身体に流れる竜の血から魔力を組み上げ、全身に巡らせる。肩と腕、背筋と胸筋、腿と脚の筋肉が隆起する。
カミーユは弓を引き絞る。竜の体の中心からややずれた位置、心臓の位置を上から狙う。
竜の心臓にめがけて、矢が放たれる。
ミスリルで出来た矢は、カミーユの筋力と弓によって超音速を上回る神速を獲得し、竜の背の鱗をやすやすと貫通した。
鱗を抜けた矢は、筋肉と骨を断ち、心臓に到達し、それを破裂させた。
心臓を抜けた矢は、胸の鱗も貫通し、地面に突き刺さり、周囲を衝撃波で打つ。
カミーユは次々と矢を放つ。竜たちは飛び立つ間もなく、次々と心臓を射抜かれてゆく。
十匹、半数の成竜を瞬く間に倒したカミーユは、飛び立ち始めた竜に向かって矢を放つ。
真竜の鱗も骨も筋肉も貫くミスリルの矢は、飛び立った竜たちも次々と射落としてゆく。
中空でも、即座に十匹の竜、その心臓が射抜かれた。
成竜を射止めたカミーユは、弓を背負い、両手に魔力を集める。
そして、それを熱と炎に変え、竜の雛たちに向かって投げつける。
カミーユが投げつけた炎が、雛たちの間で炸裂する。
それは小さな太陽のように輝き、熱を発し、炎で焼き、衝撃波で辺りを粉砕する。
十数匹の竜の雛がたちまち炭となり、その周囲の者たちも焼きただれた。
カミーユは続いてこれを五度行い、竜の雛たちを焼き尽くした。
更に、カミーユは卵たちにも炎を投げつけ、これらも燃やした。
広大な空間から、一瞬にして、竜の気配は消え去った。
司祭たちは呆然として、壁面に立つカミーユを見上げる。
司祭は残った威厳をかき集め、カミーユに言葉を発する。
「何者か。いずこより参ったか」
カミーユの姿が掻き消え、その司祭の背後に現れる。
「あなたがこの場の上役ですね。大司祭はどこですか」
「知らぬ。大司祭様のことなど、知らぬ」
司祭はそう言って振り返る。カミーユは殺気を感じ、飛び退いた。
司祭の首が落ち、カミーユの首筋を何かがうっすら切り裂いた。
カミーユは自らが感知し得ない攻撃があったことに気が付き、新たな敵の襲撃に身構える。
こうして、カミーユは竜の住処を破壊し、新たな敵との戦いに備えた。




