血の繋がり。黄金の美女シド・クオン。因果を説き、滅びを愛でるカミーユの姉
「ここで俺と出会うもまた運命か。妹よ。人の世で何を見た」
金色の竜はカミーユに問いかける。
「私はあなたを知りません。私はカミーユ。カミーユ・ロラン。私を妹というのであれば、まず、名乗りを行うべきでしょう」
カミーユは巨大な竜を見上げて言う。
竜は嗤った。
「俺を前によく言った。流石は血を分けた妹と言ったところか。良い。その胆力の褒美に教えてやろう。俺の名はシド。シド・クオン。心に刻め。この偉大な名を」
カミーユは両足に力を込める。この竜、シド・クオンの声は、それだけで暴風のようにカミーユに圧力を与えた。
「私と妹と言うのなら、それは何故でしょうか」
竜は更に嗤う。
「しれたこと。因果よ。ここでお前と俺が出会ったこと、それがなによりの証左である」
それは、カミーユに理解できる説明にはなっていなかった。
しかし、この竜は確信を持っており、その自負がカミーユに伝わった。
「シド・クオン。あなたは何故ここにいるのですか」
カミーユは言葉を発した。
「滅びの美を観に来たのだ。人の世の滅びを」
竜は不吉なことを言う。
「人の世は滅びません。あなたがそれを為すのなら、今ここで私が止めます」
カミーユは剣に手をかけた。もう恐れはなかった。
「逸るな。妹よ。観に来たと言ったであろう。人が滅びるはその業によってである」
そう言うと、竜の体が眩しく輝いた。光が収まると、そこには金色の装飾品を纏い、しなやかな筋肉でその身を包んだ美の結晶。
一人の美女が立っていた。
「やはり、人の世では、人の身の方が何かと都合が良さそうであるな」
美女。シド・クオンは、月の光に照らされ、より一層輝いて見えた。
「シド・クオン。あなたは神王国の竜たちに関わりがあるのですか」
カミーユは人の身に転じた竜に問う。
「人の業の炎に、竜の雛という薪を焚べたことを、関わりというのであればその通りであろうよ。妹よ。それを聞いて如何する」
美女は腕を組み嘲笑う。
「私は人々を惑わすものを討たねばなりません。シド・クオン。あなたをです」
カミーユは剣を抜く。
「逸るなと言った。妹よ。お前との語らいはまたの巡りとしよう。機が熟したことは見た。お前が足掻くのであれば、それも一興。良き肴となろうよ」
そう言うと、美女。シド・クオンの体は消えた。
圧倒的な気配も同時に消え去る。
カミーユは肩で息をした。
もし、今ここで戦っていれば、勝てたかどうかわからなかった。
姉と妹。カミーユは突如として突きつけられた肉親の話を反芻する。
竜の戯言と、聞き逃すことはできなかった。
カミーユは、竜、シド・クオンの気配が完全に消えたことを確認すると、屋上から礼拝堂に降り、ユマとカリンの姿を探した。
ユマとカリンの二人は、通路の影に隠れていた。カミーユが近づくと、二人は抜き身の剣を持ったままのカミーユに注目した。カミーユから、強い殺気を感じたのだ。
「どうしたんだい。カミーユ。親の仇にでも会ったのかい」
ユマは、異様な雰囲気のカミーユに語りかける。
カリンは隣で震えている。
カミーユは改めて、自らが魔剣星影の白刃を晒していることに気がつき、それを鞘に収めた。
「申し訳ありません。手強い敵に出会い、逃げられたところだったのです」
「あんたから逃げるなんて、よっぽどのやつなんだね。カミーユ。もう平気かい。いつもの薄ら笑いを見せてくれよ」
ユマは良く気がきく。カミーユの微笑みを、会話で引き出した。
「ユマ。ありがとうございます。私はもう大丈夫です。カリン、怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」
カミーユはユマに礼を言い、カリンに詫びる。
「とんでもありません。騎士カミーユ。私は平気です」
竜の巫女カリンは首を振る。
「それよりも、屋上に竜がいませんでしたか。騎士カミーユ。あなたが逃した敵は、竜ではありませんでしたか」
カリンは竜の声が聞こえる。屋上のシド・クオンの声も聞こえていたのだろう。
カミーユは優雅に頭を下げ、カリンに頼む。
「カリン。屋上での会話は秘密に願います」
カリンはカミーユに見惚れ、慌てて話す。
「はい。もちろんです。秘密です。わかりました」
ユマはカミーユに言う。
「それで、この階段の先に行くことでいいのかい」
「はい。竜を育てる陰謀を砕かねばなりませんから」
こうして、カミーユとユマ、カリンは、聖堂の地下へ向かった。




