娼婦へ化け大聖堂へ侵入。そして、その先の因果。我が妹よ。金色の竜は尊大に言い放つ。血脈を分かつ肉親との出会い
カミーユは娼館で女たちに囲まれていた。
お茶と菓子が振る舞われ、ユマとカリンもそれらを食した。
アナベルには、夜まで待つように言われており、カミーユはその間、女たちの玩具にされた。
女たちはカミーユの話をせがみ、カミーユはそれに答えた。
カミーユの話によって、女たちは空想の中で、山を超え、川を超え、沢山の兵士と戦い、竜を倒した。
お返しに、女たちはカミーユに遊びを教え、カミーユはそれを覚えた。
特に、花の香り当ての遊びや、裏返した札の柄を表返して合わせる遊びは、カミーユは敵無しであった。
五感や記憶力を使う遊びは、カミーユの得意とするところであったのだ。
カミーユは巧みに女たちも勝たせつつ戯れ、楽しい時を過ごした。
やがて夜が来た。
アナベルはカミーユに武器を用意するように言う。カミーユは疾く宿屋に戻り、弓と矢を取ってきた。これらと魔剣星影が、カミーユの武器であった。
アナベルはそれらを確認し、娼館の奥へ案内する。そこにはモザイク模様に見せかけた隠し扉があり、その奥は上に向かう階段が備えられていた。
「アナベル。これは」
カミーユは驚き、アナベルに問いかける。
「司祭様たちは、流石に表から入るわけにはいけませんもの。ここから大聖堂まで続いていますのよ。それに、こちらからあちらへ伺うこともあります。今日はそんな日です。カミーユ卿、身代わりに向かってください。中に入ることができるでしょう」
アナベルの指示により、扇情的な衣装が用意される。
「これはいったい」
カミーユは用意された衣装を見つめる。
「私たちと同じ格好をしていなければ、いらぬ注目を集めるでしょう。さあ」
見ると、ユマとカリンの分もある。
「カミーユ。どうして三つあるんだ。アタシはいらないだろ」
カミーユは考え、答える。
「アナベル。三着分のご用意ありがとうございます。ユマ、私はあなたを頼りにしています。あなたにこの大業を手伝って欲しいのです。お願いします」
カミーユはユマに頭を下げる。
こうされるとユマは弱い。
「わかったよ。カミーユ。国に帰ったら報奨金だからな」
カミーユとユマ、カリンはそれぞれ衣装に着替えた。
「カリン。大聖堂の中の案内はよろしくお願いします」
「はい。わかりました。カミーユ様」
そうして三人は出発した。
秘密の通路を通り、カミーユたちは大聖堂の裏口に近づく。
戸を叩くと、中から侍祭らしき男が現れた。
男は娼婦の事情を知っているようで、黙ってカミーユたちを中に通した。
戸を閉めて、カミーユは中を観察する。
ここは土間で、調理場につながっているようだった。周囲に他に心音は聞こえず、ここには他にこの男しかいなかった。
カミーユは素早く男の背後に周り、襟口を掴んで動脈を絞めた。数秒で男は静かになった。
「殺してしまったのですか」
カリンがカミーユに尋ねる。
「いいえ、気を失っただけです。じきに目覚めます」
カミーユは袋の中から武器を取り出し、身につけた。
「竜の卵と雛はどちらになりますか」
「はい。大聖堂の奥、特別な礼拝室の地下になります」
カミーユたちは素早く移動し、大聖堂の奥へ侵入する。
そして、カミーユたちは奥の礼拝室にたどり着いた。
この礼拝室は立派なもので、天井は高く、柱や壁、調度品には豪華な装飾が施されていた。
この大聖堂が王宮の上に置かれているのも納得できた。
カリンは床の模様を指差す。
「あそこの窪みを押せば、竜の巣へ続く通路へ入れます」
その時、カミーユの聴覚が心音をとらえた。直上から、とてつもなく大きなものの心音が聞こえてくる。
カミーユは武器を確認した後、二人にいう。
「ユマ、カリン。あなたたちはひと足先に通路に入っていてください。私は直上の生き物と相対する必要があります」
「わかったよ。カミーユ」
ユマは、カミーユのただならぬ気配を感じ、カリンの手を取り、秘密の通路に入った。
それを確認したカミーユは、礼拝室の柱を登り、天井へ辿り着く。そして、押し戸を開き、屋上へ出た。
そこには、金色の鱗の壁があった。
それは真竜。巨大な金竜であった。
その大きさは家ほどもあり、屋上に乗っているのが不思議なほどであった。
今、その翼は動いてはいないが、何らかの魔法の力が働いていることは間違いなかった。
トグロを巻いていた竜の首がカミーユに向いた。
「予兆を感じて来てみれば。これは嗤うしかないな」
竜は尊大な口調で話した。人間の言葉であった。
カミーユは身を震わせる。今までの竜とは全てが桁外れだった。
大きさも、魔力も、膂力も、存在感も。
「あなたはなにもの」
カミーユの言葉を遮り竜が言う。
「よくぞそこまで育ったものだ。醜く哀れな娘。我が妹よ」
竜は息をついた。月が二人を照らしていた。
こうして、竜と妹は出会った。




