神都の娼館。娼館の主アナベルの慧眼。見抜かれたカミーユの意図と、大聖堂への秘密の侵入口
カミーユが立つ庭は、娼館の中庭であった。
周りには薄衣で着飾ったたくさんの女たちがいる。
カミーユは周囲を見渡す。
その視線と佇まいだけで、早速、周囲の女たちが魅了される。
女たちからため息が漏れた。
カミーユの前に立ち、煙管を持った女が話す。
「空から降ってきたあなた。カミーユ・ロラン伯爵。事情を教えてもらっても良いですか」
女はカミーユの瞳を見た。
「突然の来訪ご容赦ください。追われていたのです」
カミーユは素直に話す。
「まあ、誰に追われていたのですか」
女は少し大袈裟に尋ねる。
「聖都の僧兵です」
「でしたら、ここにいらっしゃると良いわ。僧兵も、ここでは暴れることは出来ませんから」
カミーユは尋ねる。
「私たちを匿ってくださるのですか」
「ええ、もちろん。あなたはカミーユ・ロランなのでしょう。その行いに誤りがあるはずはないですもの」
女性は嬉しそうに、早口で話す。
カミーユは頭を下げる。
「ありがとうございます。レディ」
女性は煙管を一口吸う。
「レディはやめてください。私はアナベル。この娼館、神の家の主です」
周囲の女たちから、囁き声が聞こえてくる。
「ねえ、アナベル。私たちも話しても良いのよね」
アナベルは頷く。女たちがカミーユに駆け寄る。
「カミーユ様。あなた本当にカミーユ様なのね」
「タブロの戦いは本当のことなのかしら。百人の蛮族を切ったと言うわ」
「ビスタニオ子爵邸からの脱出は、本当のことなの。巨人の姫も助けたって」
「公爵軍をお一人で撃退したと聞いたわ」
「あら、帝国軍もお一人で撃退されたのでしょう」
「帝都からレディを助けた話は素敵だったわ。竜も倒したのでしょう」
カミーユは一人一人に丁寧に答える。
「はい。私はカミーユ・ロランに間違いありません」
「タブロの戦いのことは少し誇張されているようです。私は三十名ほどしか切っておりません」
「子爵邸からの脱出は行いました。その際、巨人の姫、エトナを救出しております」
「リヒテンハイム公爵の軍は、一人で撃退したわけではありません。私一人では勝つことは叶わなかったと思います」
「帝国軍も同じです。私は勝つきっかけを作ったかもしれませんが、勝利を得たのは皆の力です」
「帝都からレディ・ロザリアをお救いしたのは本当のお話です。その際、黒竜とそれに跨る騎士と戦い、これを討ちました」
女たちはカミーユの答えに歓声を上げる。
カミーユの隣に立つユマがいう。
「話も良いが、とにかく休ませちゃくれないかね。カリンも初のカミーユ飛行でぐったりだ」
ユマはカリンの背を摩っている。
カミーユは女たちを見た。
「私たちは逃亡者です。ですが、どうか一時、休める場所を貸していただけませんでしょうか」
女たちは我先にと、カミーユの腕をとった。
案内された部屋は、香が焚かれ、絨毯が敷かれ、座布団や詰め物が並べられており、素足で座ってくつろぐ場所だった。
カミーユは長靴を脱ぎ、絨毯の上に座った。
「あら、慣れていらっしゃるのね」
アナベルがカミーユの座る姿を見て声を上げる。
「はい。普段から、このように座ることがございます」
カミーユは朝の瞑想を思い出す。
「カミーユ。カミーユ・ロラン」
アナベルは煙管を手にしてイタズラっぽく笑う。
「あなた。次はどんな大冒険をしているのでしょうか。教えてくださらないかしら」
カミーユは躊躇する。竜の雛と卵が人を犠牲にして大聖堂で飼われている。このようなことを知れば、その者の身を危険に晒す恐れがあった。
「もしかして、竜の卵と雛でなくって。カミーユ。あなたそれを止めたいのでしょう」
カミーユは一言も喋っていない。ユマもカリンもだ。また、魔法をかけられた気配もなかった。
「ここにいたら。なんだってわかるのです。騎士カミーユが止める事件と言ったら、やはり、これでしょう」
どうやら、アナベルは自身の情報と推測だけでカミーユの意図を言い当てたようだった。
「アナベル。あなたに危険が及びませんか。それが心配です」
カミーユは、秘密を喋るアナベルを案じる。
「ここは女たちの城、神の家なのです。どんなお坊様だって、ここではただの男。どんな権力だって、ここでは意味がないのです」
「わかりました。アナベル。外の騒ぎが落ち着きましたら、私たちはおいとましようと思います。本当にありがとうございました」
「待ってください。騎士カミーユ。あなた大聖堂に行くのでしょう。そこまで行く方法を私は知っています。夜になったら行けますから、それまで大人しく、ここにいてください」
カミーユは、アナベルの言葉が真実であると感じた。
「わかりました。アナベル。あなたの助力に感謝いたします」
こうして、カミーユは、娼館で時を過ごした。




