竜の巫女。生贄の告発。カミーユ、禁忌の真実を抱き、娼館へ駆け込む
カミーユとユマは走り続けた。
神都の僧兵たちから身を隠す必要があった。
騒ぎの現場から十分ほど離れ、路地裏を見つけると、カミーユは、横抱きにかかえていた少女を下ろした。
「事情をお聞かせ願えますか」
カミーユは片膝を付き、少女を見上げた。少女の警戒心を和らげるためである。
少女は警戒しつつも、口を開いた。
「急いでいるのです。だから助けてもらいたくて、でも、あんなに乱暴な人たちとは思いませんでした」
カミーユは理解を示した。
「わかりました。さぞ怖い思いをしたことでしょう。もう安心です。悪い者どもは近づけません」
ユマがカミーユを促す。もっとよく聞けと、カミーユの背を蹴るのだ。
「あなたが何をしようとしているのか、事情をお聞かせ願えますか」
カミーユは再度問うた。
少女はカミーユの誠実な人柄に触れ、話をすることにした。
「私は修道女でした。ある日、司祭様と僧兵たちが現れて、私を大聖堂へ連れて行ったのです。そこには大勢の人々が囚われておりました。皆、竜の雛と竜の卵の餌となるのです」
少女は異なことを言った。卵の餌とはいったい。
「卵の餌とはどう言うことでしょうか」
カミーユは尋ねる。少女の顔に恐れが広がった。
カミーユは少女の頭を撫で、ゆっくりと落ち着くのを待った。
「人の血を浴びせるのです。卵を人の血が入った容器に浮かべるのです。そうすると、卵が早く孵るのです」
少女はすがるように、カミーユの左手を握った。
「そして、私は生まれた卵と雛の言葉がわかるのです。卵も雛も、もっと食べさせろと言います。雛たちは放っておくと、互いに互いを食べてしまいます。それを言葉でやめさせ、やめさせて」
少女の言葉は途切れ途切れになる。カミーユは少女を抱きしめた。
「私は、言葉で、雛を別の場所へ誘導しました。大勢の人のいるところです」
少女は言葉を続けた。カミーユに懺悔をしているようだった。
「竜はすぐに大きくなり、各地へ連れてゆかれます。体の大きなものたちは残され、つがい。卵が生まれます。それらを導く者、私たちを、大司祭様や司祭様たちは、竜の巫女と呼んでおりました」
少女は涙を流しながら言葉を紡ぐ。
「私、これは、いけないことだと思って、逃げ出して」
カミーユは告白した少女の涙を拭い、ユマに向き直った。
「ユマ、事態は思っていたよりも悪い様子です。私はこれらの出来事を、やめさせねばなりません」
ユマは答える。
「まあ、竜がネズミみたいに増えてるのはまずいだろうね。小麦じゃなくって、人間を齧ってるのも胸糞悪い」
ユマは泥棒ではあるが、殺しや人攫いはしない仁義を持っていた。
カミーユは頷くと、少女に語りかける。
「私たちはあなたに助けてもらいたいと思います。私はカミーユ。こちらのものはユマ。あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
少女は涙を止めて答える。
「カリンと申します。騎士さま。なのですよね」
少女カリンは、カミーユの立ち振る舞いから言い当てた。
「はい。私は騎士です。ベラルーン王国から参りました。カリン。これ以上、竜に人が苦しめられることがないよう。協力をお願いします」
路地裏でそのように話していると、僧兵の一団がこちらへ向かってくるのが見えた。
カミーユはユマとカリンを抱え、建物の屋根に跳躍し、その上を駆けて逃げ出す。
あの男たちがカリンのことを喋ったのだろうか、街路には僧兵が溢れていた。
「ユマ。どこか良い場所を思いつきませんか。休める場所を」
カミーユは屋根の上を駆けながらユマに尋ねる。
「あんた。アタシがなんでも知ってると、いや、待てよ。カミーユ。あんたなら、どうにかできるかもしれない。ああ、多分、あれだ」
宿のある区間に、一際大きな館のようなものがあった。
ベラルーン王国の王都モスカウの貴族が住まう邸宅に似ていた。
「あそこですね。わかりました」
カミーユは跳躍し、館の屋根を飛び越え、その中庭に降り立った。
そこは明るく、緑に溢れ、花の香りに包まれた中庭であった。薄衣を着飾った大勢の女たちが、中庭に降り立ったカミーユたちの様子を伺っている。
カミーユの前に、煙管を持った女が進み出た。女はカミーユが腰に佩く剣を見とめる。
「イザベラではありませんね。あなたが噂のカミーユ・ロラン伯爵でしょうか」
女は横向きに紫煙を吐き出して、カミーユに向きなおる。
「そうです。私はカミーユ。ここはどこになりましょう」
女は答える。
「ここは神の家。女たちの館です」
カミーユは不思議そうに尋ねる。
「女性の館。ですか」
女は煙管を吸い、紫煙を長く吐き出した。
「そうです。騎士さま。ここは癒しの館。娼館です」
こうして、カミーユは、神都の神の家、娼館にたどり着いた。




