神王国の神都。竜舞う空の神都カラヴェル。カミーユ、屋台街で放つ正義の焼串
ロンデウス神王国は、ベラルーン王国の北東にある。
丁度、カミーユの故郷、クリン村と同等の寒さの土地であり、季節は春ではあるものの、寒さが予想された。
カミーユは、共に連れて行く者として、ユマを選んだ。
神王国についたとして、大司祭の居場所を探らねばならない。
それはカミーユには難行であり、ユマの力が必要であった。
「特別手当が出るならいいさ」
ユマはカミーユの依頼を受け、同行することになった。
カミーユはユマのための防寒着を用意させた。
愛馬に騎乗したカミーユは、ユマを後ろに乗せ、自らの背に抱き付かせる。
そして、見送りに来た妻らやフローラに振り返る。
「エトナ、ロザリア。しばしの別れになりますが、待っていてください。フローラ、留守を頼みます」
カミーユはそう言うと、馬を走らせる。
カミーユの馬は俊足である。カミーユの魔力により、襲歩のまま、何時間でも走り続けることができる。
カミーユは、後ろに乗っているユマの疲労を和らげるため、そちらにも魔力を送った。
カミーユは風のように馬を走らせ、国境付近に到達した。ベラルーン王国と、ロンデウス神王国の間にはカナン河と言う大河が流れている。
通常は、街道沿いにある。この河にかかるカナン橋を渡って国境を越える。
この橋はロンデウス神王国の管理下にあり、国境は僅かにベラルーン側へと寄っている事となる。
さて、カミーユはと言うと、途中から街道を逸れ、雪の残る草原を駆けていた。
ここは国境を守る警備隊からも遠く、目が届かない。
カミーユはそのまま馬を大河へ飛び込ませた。
春とは言え、雪解け水のでできた大河は冷たく、常であれば心臓が止まってしまうかもしれない。
けれども、カミーユが与えた魔力の熱は十分に温かく、馬やエマの体を凍させることはなかった。
対岸に辿り着き、装備を乾かす。
カミーユの魔力による熱で、それ等はすぐに乾いた。
「カミーユ。あんた密輸業でも食っていけるよ」
ユマはカミーユに衣類を乾かしてもらいながら話す。
カミーユは、両手をユマの体に当てている。
「私はそのような事をするつもりはありませんよ。ユマ」
「わかってる。世間話だよ。カミーユ」
ユマは水に濡れないよう、油紙で包んでいた地図を取り出す。
「カミーユ。この調子なら、明日の朝にも神王国の神都カラヴェルに着く。そこから先は、どうするつもりだい」
ユマはカミーユに髪を乾かさせながら尋ねる。
「ユマ、あなたの力が頼りです。大司祭の居所を見つけてください。あとは私が行います」
カミーユはユマの能力を信じていた。
「まあ、そうなるよな。神様には生憎縁がなかったが、まあ、仲良くしてみるさ」
ユマはそう言うと、髪も乾き、再び二人は馬に乗り、風のように駆けた。
朝日に照らされ、神都カラヴェルが見えてきた。
それは、巨大な山の壁面に作られた都市で、壁が削られ、段々になっていた。
その段一つ一つが街区であったり、屋敷であったり、工場であったり、倉庫であったりする。
段と段は階段で繋がれていた。その頂上には、大聖堂があり、その下に王の住まう王宮があった。
建物の上下で身分を表すのであれば、大聖堂の主、大司祭は、神王よりも位が上になるのだろう。
カミーユは神都の上空を見つめる。上空には様々な色の鱗を持つ竜が飛んでいた。その数は十匹以上見えた。
カミーユはフードを被り、愛馬を進める。
流石に、素顔を晒し続けるわけにはいかないだろう。
ユマが馬の手綱を引き、先に進む。
カミーユとユマは、巡礼者とその従者。ということにしていた。
入門の列が進み、ユマが街を守る僧兵に近づく。
ユマは一言二言、僧兵に話し、寄進のための金子を渡す。
「おっさん。おっさん。途中で空に飛んでるものが見えたんだけど、ありゃなんだい」
ユマは僧兵に気安く尋ねる。
「あれは大司祭様が呼び寄せた竜たちだ。この神都を守ってくださるのだ」
ユマが渡した金子の量はやや多かったようで、僧兵は親切に教えてくれた。
そして、カミーユの馬の手綱を引き、神都の門をくぐった。
「ユマ、今日は宿を取って休みましょう」
カミーユは、ユマに宿を頼む。
ユマは流石な者で、すぐに宿を見つけた。
馬を馬屋に入れ、カミーユとユマは部屋で一息つく。
「まだ目玉がフラフラ揺れてる気持ちだ。カミーユ、あんたの背に乗る度に追加の賃金を貰わなきゃ割に合わない」
カミーユは微笑む。ユマの言葉はいつでも、カミーユの緊張した心を和らげてくれる。
「ああ、そうだ。カミーユ。この辺りの宿は飯がないんだ。ここいらの風習で、火を使う調理場は、屋台になって、段の縁側に並んでるんだってさ」
カミーユは頷く。
「では、ユマ。出かけましょう。あなたの慰労も兼ねて、何でも食べてください」
カミーユとユマは遅い朝食のため、屋台に繰り出した。
神王国の神都の屋台街は賑やかだった。さまざまな人々が集まっており、巡礼者の数を多く感じた。
カミーユとユマは、串に焼いた肉や、卵と刻んだ野菜を一緒に炒めた米飯、甘い蜜をかけた林檎。それと、ワインの瓶を買ってきた。
空いている席に座り、カミーユは神に祈り、ユマはこれからの幸運に祈った後に、二人は食事を始めた。
食事をしていると、隣の席が騒がしい。
一人の少女の周りには、荒事を生業としているような男が五人。少女は、その男達に責められている様子だった。
カミーユは食事を続けて、聞き流していたが、一人の男が短剣を振り上げたのを見とめると、男に向かって焼き串を投じた。
それは振り上げた男の腕に刺さり、腕を貫き、男を柱に縫い留めた。
ユマは頭を抱える。これから密やかな捜査だと言うのに。カミーユときたら。
「事情を深くは知りませんが、大勢で囲み、刃物で脅すは見過ごすわけには参りません。あなた達、申し開きがあれば聞き受けます。いかがか」
男達は返事の代わりに、カミーユに向かって殴りかかった。中には刃物を取り出したものもいる。
カミーユは、残った焼き串をその男達に投げつける。それらは皆、手足に刺さった。
もちろん、カミーユは男たちの命を奪うつもりはなく、動脈を避けて投げつけている。
男達は、痛みにのたうち回っている。
カミーユは少女に語りかける。
「離れましょう。そこであなたから話を聞きます」
遠く、僧兵達がこちらの騒ぎを見とめた様子が伺えた。
「ああ、カミーユ。どうしてあんたは厄介ごとを呼び込むんだ」
ユマは駆け出した。カミーユは、まだ状況を飲み込めていない少女を抱えて駆け出した。
こうして、カミーユとユマの、神都での一日目が始まった。




