新領土の再征服。三ヶ月の不眠行。カミーユ、不埒な豪族たちを狩り尽くす
冬が始まるころ、カミーユは旅路にあった。
カミーユは馬上にあり、側に同じく馬上のフローラを伴っていた。
率いる騎兵は五千名を超え、その連れのものも含めると、二万の大軍勢だ。
さらに、大勢の官僚を連れての馬車の大行列である。
それらの指揮には、故郷のクリン村から呼び寄せた副官ヘブナーを付け、細かな人事も彼に任せている。
なお、彼らの仕事は戦うことではない。
カミーユが戦った後の治安維持が任務である。
さて、時は少し戻り、サラ・ハイアン侯爵の話になる。
侯爵は、カミーユが大領地を得た機会を使って、ベラルーン王国を中央集権国家に作り変えようと画策していた。
もはや、カミーユを除くと、大貴族はサラ本人しかおらず、サラも王国宰相に内定している。
カミーユが女王陛下の配偶者の公爵として立てば、サラは自らの領土も国に返上するつもりであった。
カミーユは、サラの意見に賛同した。
ブログダン帝国の脅威は去ったわけではなく、国境が隣接する諸国も、ベラルーン王国の力が弱まれば、その隙は見逃すまい。
今は先のブログダン帝国との戦争で、王国の国力は低下している。
早急に国力を回復させる必要があった。
そのため、春の種まきが始まる前に、各地に官僚を置き、まつりごとを始める。
これはそのための旅である。
新領地の治安は悪かった。
旧リヒテンハイム公爵派閥の諸侯、騎士たちが各々勝手に領地を主張し、領地を拡大し、税を取り立てていた。
カミーユは、自らの軍勢に先んじてそれらの領地に入り、その弓をもって首魁を討ち取り、後続の兵に治安維持を任せ、官僚にその統治を任せるのだ。
カミーユの愛馬は、カミーユの魔力の助けを借り、国のどこへでも、一日以内に駆けつける。
愛馬は、豪族となった者たちのもとへ、カミーユを運んだ。カミーユは弓で次々と豪族やその郎党を討ち取る。
カミーユはこの仕事を毎日行い、一日で複数の領地の豪族を打ち倒す日も多くあった。
騎兵と官僚の配置は順調に進み、三月も経つ頃には、大方の領地は平定されていた。
「なんとか種蒔きには間に合いましたね」
カミーユは従者フローラに語りかける。
「はい、カミーユ様。本当にお疲れさまでした」
カミーユはこの三月の間、全く眠ることなく、豪族、野盗を狩り続けた。
討ち取った首級は、千ではきかないだろう。
「ヘブナーはなにか言っていましたか」
カミーユは、副官の動向をフローラに問うた。
「ヘブナー隊長は、流石はハイアン侯爵の選んだ兵だ。と、喜んでらっしゃいました。各地への兵の配置がスムーズに進んだようです」
カミーユは満足そうに頷く。
「彼らにはしばらく頑張ってもらいましょう。最初の計画通り、官僚や騎兵たちの任期は五年とし、期間が経てば、王都から新たな官僚、騎兵を送り出し、交代させます。それまでの辛抱であると、王国に付いたら、改めて使者を出しましょう」
これは、ハイアン侯爵の腹案である。任期を五年とすることで、表向きは左遷から中央へ戻すように見せかけ、その実、官僚や兵たちの地方との癒着を防ぐのだ。
「カミーユ様は、新領地にお屋敷は設けないのですか」
フローラはふとした疑問をカミーユに呟く。
「私が新領地へ行く時は、旧リヒテンハイム公の館を利用します。もっとも、その機会はあまり多くはないでしょうけれども」
カミーユは来年には、女王となる王女殿下を娶り、公爵として立つことになる。
領地の統治も必要であったが、それは優秀な官僚に任せれば事足りる。
それよりも、その時期が来れば、中央での政務、財務の変革が急務となり、王都を離れることはできなくなるだろう。
カミーユ自身、族を狩るために新領地を駆け巡り、そのおおよその土地は把握した。
目下のところ、新領地にいる理由はなかった。
新領地での仕事を終えたカミーユは、道中の村の宿で、久しぶりにフローラを抱いて眠った。
フローラは、倒れるように眠るカミーユをその胸で優しく包みこんだ。
数カ月ぶりの睡眠は深かったが、習慣とは恐ろしいもので、カミーユは日が昇る前には目が覚めた。
目覚めたカミーユはフローラの額に口づけし、毛布の中を自らの魔力で温める。そして、カミーユ自身は寝台を出て、日課の瞑想を行う。
瞑想の後の朝食の際、カミーユは、新領地の治安を将官に任じたヘブナーに任せた。
そして自身はフローラとともに王都へ戻った。
こうして、春が来る前に、新領地の治世の形は成った。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
楽しんでいただけましたら、
ブックマーク、感想、レビューいただければ、
大変嬉しく、励みになります。
よろしくお願いいたします。




