ユマの冒険。帝都の酒場の聞き込み。ユマが暴く、竜の翼と尖塔の独房
時刻は夕方、カミーユを宿に休ませたユマは、王宮近く、安酒の飲める酒場に足を運んだ。
ユマは昼勤を終え、酒と食事を取りに来たであろう、若い一人者の衛兵に目をつけた。
「うわ。なんだよこの唐変木。酒がこぼれちまったじゃないか」
ユマは、狭い店内を行き交う人にぶつかり、ジョッキを傾け、その衛兵に酒を少しかけた。
「ああ、あんた。すまなかったね。わざとじゃないんだ」
ユマは本当に申し訳無さそうに謝罪する。気の良さそうな衛兵は、笑って許してくれる。
「本当にごめん。お礼にその酒はアタシが奢るから、許してよ」
その衛兵は、ちょっとしたことで大げさに謝られ、悪い気がしなかった。
「そうなんだ。すごいじゃない。知らなかったわ。素敵ね」
ユマは衛兵のちょっとした自慢話を聞き、大げさに褒めそやす。
「そういえば、ベラルーン王国のお姫様が捕まったらしいんだ。先輩がそう言ってた」
ここで問い詰めても話は終わる。ユマは更に話を合わせた。
「そうなんだ。そんな遠くから、すごいわね」
ユマは衛兵に酒を注ぐ。
「そうなんだよ。なんかさ。ここだけの話し、空飛ぶ竜がそのお姫様を連れてきたって言うぜ。竜なんて人を見たら食っちまうって話なのにな。可笑しいだろ」
衛兵は噂話を又聞きしたのだろう。竜の話をユマにする。
「そうなのね。知らなかったわ。でも、あなたは衛兵さんだから、私たちを竜から守ってくれるんでしょう。素敵だわ」
ユマは衛兵に酒を注ぐ、先程から強い酒を注いでいる。
「そうさ。俺に任せとけ。任せとけば、大丈夫」
やがて衛兵は酔いつぶれて眠ってしまった。
ユマはその場を離れ、王宮へ向かう。
夜の王宮は静かで、衛兵たちが多く見回りしていた。
ユマは目立たぬよう、装束を黒色に改めている。
いつも着ている服の裏地が、黒色で出来ているのだ。
ユマは垂直の石の壁を素手で登る。
これは、ユマの身の軽さによって行える。神業であった。
王宮の庭に降り立ったユマは、木陰に忍びこみ、巡回する衛兵たちの動きを確認する。
そして、衛兵の監視の目がそれた隙に、今度は王宮の壁をよじ登る。
先程の外壁と違い、王宮の壁には窓などの突起物があり、ユマにとって、その壁は登ってくれと言わんばかりであった。
王宮の屋上に出る。
遠くの塔から衛兵が監視をしているであろうが、ユマの黒い装束は、屋上において、監視の目から姿を隠してくれる。
ユマは、王宮の屋上付近で、広い平面を探した。
竜の姿は衛兵たちにあまり見られていない様子だった。竜が降り立ったのは。建物の高い場所に違いない。
王宮中央には沢山の塔が立っている。中でも最も高い尖塔。その中腹にバルコニーがあった。それは王宮で最も高い位置にあるバルコニーで、塔に付けるにしては、不自然なほど広かった。
不自然なところ、他と違うところには、お宝がある確率が高い。
ユマは自らの経験、勘を信じて、その塔をよじ登る。ユマは自身の周囲に幻の魔法をかけて、塔の壁面と一体化して登ってゆく。これで、周囲の塔から姿を見られることはなかった。
ユマはバルコニーを望む位置まで到着した。
バルコニーをよく観察する。
バルコニーの床は木製だったが、そこには真新しい傷が無数にあり、何らかの爪を持ったものが、そこを歩いたことを伺わせた。
ユマは尖塔を更に登る。尖塔の突端の近くには鉄格子のはまった窓があり、どうやら部屋があるようだった。
ユマは格子から中を覗いた。
無論、自らの身体は幻で消している。
そこには簡易な寝台があり、女がひとり寝かされていた。その顔にはサラ・ハイアンの面影があった。
「ロザリア。ロザリア・ハイアンだよな。その姿勢のまま、動かずに、アタシの話を聞くんだ」
ロザリアの体がびくりと動く、しかし、それ以上の動きを見せることはなかった。
「アタシはカミーユの家のもので、ユマっていう。カミーユは、あんたを助けるためにこの帝都に来ている」
ロザリアはユマに言われたとおり、黙って聞いている。
「カミーユはあんたを助けに来る。今夜だ。もうしばらく待ってな。お嬢ちゃん」
ロザリアはカミーユが助けに来ると聞き、寝台の毛布で顔を覆った。嬉しさで声が溢れそうだった。
ユマは言うべきことは言い、やるべきことはやったと思い、格子窓から離れた。
そして、先程の順路を逆に戻り、王宮を脱出した。
こうして、冒険は成功し、ユマはカミーユのもとへ戻った。
カミーユのロザリア奪還劇が始まる。




