帝都への侵入。女泥棒の帰郷。カミーユを癒やし、ユマは令嬢の捜索へ
ハイアン侯爵領の領都ルナート。
帝国軍から開放されたここの治安は、捕虜の身から解放されたルナート兵八千に引き継がれた。
これで、国王陛下のご下命は済んだだろう。カミーユはそう思い、ルナートを離れる。
愛馬に跨ったカミーユは、ルナート近辺の森に近づく。その姿に気付き、ユマが姿を現した。ユマを森に待たせていたのだ。
「もう良いのかい」
ユマは問うた。
「はい。用はすみました」
カミーユは答えた。
ユマはすぐに馬に乗り、二人は帝国に向かって駆け出した。
国境周辺の情勢は流動的になっていた。
王国に攻め入った帝国軍と、王国貴族の軍が小競り合いを続けているのだ。
カミーユの愛馬は、国境線を容易に跨ぐ。
本気で駆け続ける馬を止めることなど、誰にも出来はしなかった。
カミーユたちは、そのまま街道を行き、ブログダン帝国の帝都ルブダンまで駆け抜ける。
国境から十時間、ルナートから合わせると二十余時間をかけ、帝都の姿が見えてきた。
時刻は昼過ぎ、夏の日が降り注ぎ、馬の歩を緩めたカミーユとユマは、暑さを感じた。
帝都は高い壁で守られている。幾つかの門があり、市民や旅人が、衛兵に調べられ、税を払い、そこから中へ入っているようだった。
カミーユは愛馬を降り、手綱を握り、ユマとともに列に並んだ。
カミーユは緊張する。
平服を着ているとは言え、自分は敵国ベラルーン王国の騎士であり、その身分が明かされれば、争いは避けられない。
一方のユマは、余裕の表情で列に並んでいる。カミーユを先導するのを、楽しんでいる様子だった。
列はゆっくりと進み、やがてカミーユの番になる。
ユマが小さな体で手を上げ、衛兵の気を引く。
「長旅で疲れてるんだよ。早く入れてくれよ」
「長旅だと。どこから来たんだ」
「国境沿いのサレン村だよ。あの辺り、ベラルーン王国が出張ってきてさ。急いで逃げてきたんだよ」
「なるほど、後ろのものも一緒に逃げてきたのか」
「そうさ。アタシら腹が減ってるんだ。早く通しておくれよ」
「そうか。いや、そこのお前、なかなか良さそうな剣を持っているな。業物であれば、報告と、税を取らねばならぬ。見せろ」
カミーユは剣、見事な作りの柄の魔剣星影を剣帯に佩いている。
今は鞘で隠しているが、魔剣の刀身は光を発しており、耳目を集めることは確実だ。それは避けたかった。
「そいつは柄だけ立派でね。刀身はなまくらさ」
ユマが鞘から星影を抜き放つ。
その刀身は平凡なものであり、何の光も発してはいなかった。
「ふむ、確かにただの剣だな。では、二人で銀貨二枚。馬一頭で銀貨三枚、合わせて銀貨五枚だ」
「高っかいなあ。わかったよ。はい、五枚。確認して」
ユマは銀貨を衛兵に渡し、星影を鞘にしまった。
無事に門をくぐり抜けたカミーユは、ユマに問う。
「ユマ、先程のこと、あなたの魔法ですか」
ユマは先を歩き、前を向いたまま話す。
「そうさ、カミーユ。幻の魔法だ。でも、幻の魔法だって絶対じゃない。使うやつがびびってちゃ、騙せるものも騙せない。気持ちが大切なんだ。気持ちが」
ユマは、カミーユとは違う種類の修羅場を幾つもくぐり抜けてきたのだろう。
カミーユは改めて、ユマとの絆を神に感謝した。
帝都の中は、ベラルーン王国の王都モスカウに並ぶほど人が多かった。
見回すと、市に並ぶ食料に葉物野菜や果実は少なく、根菜や豆に穀物。肉などの売り物が目立った。
ユマは幾つかの保存食用の食料を買い、カミーユに持たせた。
カミーユは、このような、ユマの飾らない性格が気に入っている。
その後、ユマはカミーユを宿に案内する。
この宿は、ユマが昔から知っている宿というわけでは無いようで、彼女が買い物の間の世間話で得た情報から選んだものだった。
喧騒からやや離れ、静かで清潔な宿をカミーユは気に入った。
こういったことは、ユマに任せると本当にうまくいく。
先程見た馬屋も清潔で居心地が良さそうだった。
しばらく自然の眠りをとらせていなかった愛馬も、ここならばゆっくり休むことができるだろう。
カミーユは、ユマに向かって尋ねる。
「ユマ、ロザリア様の居場所を調べたいと思います。御師様は宮殿が怪しいとおっしゃっていました。宮殿の中を探る手段はありますか」
ユマは旅装のブーツから、街中用の履物に履き替えながら答える。
「ああ、ちょっと休んでな。カミーユ。あんたここ最近、全く眠ってないだろう。いくら魔法があるって言っても、それじゃ体が参っちまうぜ。アタシが調べてくるから寝てるんだ。良いな。絶対だぞ」
そう言うと、エマは部屋の外へ出ていき、扉を締めた。
こうして、カミーユとユマは、帝都ルブダンに侵入した。
そして、ユマの単独の冒険が始まる。




