女泥棒と盗賊。瞬間粉砕。怪力娘の逆鱗に触れた、愚かな盗賊たちの末路
そんなある日。時刻は早朝、王都と、それに隣する湖ももう見えようかと言う頃、道の先から喧騒が聞こえてきた。
騎士カミーユと従者フローラが馬上から様子を伺うと、一人の少女を十数人の男たちが追いかけていた。
男たちの手には抜き身の短刀が握られている。
「フローラ。あなたはここで待っていてください」
カミーユは、愛馬の腹を蹴り、駆け出した。
そして、少女と男たちの間に割って入る。
「事情は知りませんが、割り込ませていただきます。あなた方は何故、この少女を追うのですか」
男たちは、旅装のカミーユを見やり、いやらしい笑みを浮かべる。
「その女は俺たちを裏切った。焼きを入れなきゃならねえ。それとも、綺麗な姉さん。あんたがその代わりをしてくれるのかい」
男たちは下品に笑った。カミーユは背後の少女を見やる。
「あの話はまことですか」
少女は必死に叫ぶ。
「焼きを入れられることなんて何一つしちゃいないさ。あいつら、貴族の家に押し入って、家の人間を皆殺しにしたんだ。だから、仕事を抜けるって言ったら、あいつらキレて追いかけてきたんだ」
少女は早口でカミーユに訴える。
カミーユは再び男たちの方を見る。
「あの少女の話はまことですか」
男たちは下品なニヤつき顔で答える。
「ああ、そうさ。綺麗な姉さん。大人しく俺たちの言うことを聞かないと、殺されちまうかもしれないぜ」
男たちは、カミーユを取り囲むように近づいてくる。
「さあ、さっさと、後ろの女とその馬を差し出して付いてきな。俺たちが可愛がってやるよ」
そう言うと、リーダーらしき男が、カミーユの愛馬に手を伸ばした。
馬は警戒したが、カミーユが首を撫で、落ち着かせた。
カミーユは馬を降り、男の眼前に立った。
「おう、物分かりの良い姉ちゃんだな。いいぜ。優しく可愛がってやるよ」
男は生唾を飲み込み、カミーユの手を取った。
カミーユは静かに、けれどもはっきりとした言葉で告げた。
「あなた方の狼藉、赦すことはできません。あなたはここで縛についていただきます」
カミーユはそう言うと、無造作に、掴まれた腕を振る。すでにカミーユの血の魔力は汲み上げられており、その速度は神速に達した。
男は、掴んだ手を離す間もなく腕を伸ばされ、水平に横に飛び、肘の関節が外れたところでようやく手が離れ、ゴロゴロと勢いよく地面に転がった。
利き腕から激痛が走り、男は顔を真っ赤にして叫んだ。
「お前ら。腕の一本や二本、かまわねえ。その姉ちゃんを捕まえろ」
男のあげる悲鳴にも似た声に、周囲の男たちは従い、カミーユに白刃を向けた。
カミーユの動きは疾い。
身を沈め。左端の男の足首を取ると、そのまま男を、棒切れのように振り回した。
残った男たちは驚愕の表情を浮かべたが、それも一瞬のことだった。
カミーユが腕を振り、捕まえた男を棍棒として、残る十数人の男たちに次々とぶつけていったのだ。
振り回された男は顔から血を噴き出し、ぶつけられた男たちは、胸や肩が凹み。もんどり打って地面に倒れ伏した。
カミーユは男の足首を持ったまま、腕の関節を外したリーダーの元へ歩いた。手に持った盗賊と、十数人の盗賊の仲間は、全て物言わぬ屍と化していた。
「あなたを王都へ連行します。良いですね」
男はガタガタと震えていた。それは、猛獣の前に立つ、哀れな男の姿であった。
カミーユは、愛馬に戻り縄を取ると、生き残った男を縛った。
そして、亡くなった盗賊たちの遺体をうず高く積み、それらの遺体に向かって、熱と炎を投げかけた。
周囲に轟轟と熱風が暴れ、明るく照らす。
遺体は一瞬で灰となった。
既に恐怖で縛られた盗賊のリーダーは、改めて驚愕する。
自分たちは、恐ろしい戦士であり、強力な魔法使いでもある存在に手を出してしまったのだと。
震える男は、大人しくカミーユの引く縄に連行される。
「フローラ、フローラ。こちらへ来なさい」
カミーユは、後方に控えていた従者に大声で指示を出した。
フローラは急いで馬で駆け寄った。
「カミーユ様、火の手が上がりましたが、お怪我はございませんか」
従者は主人の身を案じた。
「何も問題ありません。ところで、この辺りに少女を一人、見かけませんでしたか」
フローラは馬を落ち着かせながら答える。
「先程まで少女が一人いましたが、森の中へ逃げてゆきました。追いましょうか」
フローラの馬術であれば、歩行の少女を捕らえることなど容易いだろう。
「構いません。怪我もしていなかったようですし、きっと無事でしょう。それに」
カミーユは捕えた男を見やる。
「詳しいことは彼に話してもらいましょう」
悪漢を繋いだ縄を片手で持ち、カミーユは話を聞く。
男は凶状持ちの盗賊で、王都の湖畔にある貴族の別荘を襲ってきたと言う。
カミーユは不審に思った。
盗賊たちは、このリーダーが金貨の入った袋を持つ以外は、宝飾品などの戦利品を持ってはいなかった。
「物取りではありませんね。どなたかを狙ってのことですか」
カミーユが盗賊のリーダーに尋ねると、男はカミーユに対して震えながら答えた。
「は、はい。館にいる娘。貴族の娘の命を奪ってこい、と、言われました」
カミーユは静かに問いかける。
「誰の命を奪うように命じられたのですか」
男は、この猛獣の機嫌を損ねないよう、注意深く答える。
「ハイアン侯の娘です。名前はロザリア」
カミーユは静かに促す。
「それで、あなた方はどうしたのですか」
男は恐怖に顔を引き攣らせながら答えた。
「外の衛兵を殺し。ユマ、さっき逃げた小娘に鍵を開けさせて中に入り、使用人たちとロザリア、さんを殺しました」
カミーユは沈痛な面持ちで男を見る。
「誰に命じられて、そのようなことを行いましたか」
男は震えながら答えた。
「フ、フードを被った男です。金だけよこして今夜やれって。他のことは、ぜんぜん知らねえ。本当だ」
カミーユは震える男に命じた。
「その館まで案内してください。検分いたします」
男は悲鳴のような返事をし、少し先を歩き出した。
「フローラ、少し寄り道になります。付いてきてください」
「かしこまりました。カミーユ様。鎧は必要でしょうか」
「不要です。フローラは警戒して付いてきなさい」
こうして、騎士カミーユと従者フローラは、湖畔の館へ向かった。
二人は、恐ろしい惨劇が待っていることを、まだ知らなかった。
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