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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
戦乱の末、公爵叙勲と女王との婚姻。最強の怪力騎士、ついに国の頂へ
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サラの救出、奪われたロザリア。報いる術なき空虚な武勲。カミーユの武功が、ベラルーン王国の秩序を揺るがす

 カミーユは、愛馬に載せた予備の衣類に着替え、近衛兵団のもとへ向かった。


 青竜から受けたやけどは、自らの体に流れる竜の血から魔力を汲み上げ、その魔力で癒やし、皮膚も髪も艷やかさを取り戻していた。


 竜の被害は激しく、そこここで、酸によるやけどを痛がる兵士が倒れていた。


 カミーユは馬を降り、自らの魔力を両の手に集める。

 そして、それら兵士一人ひとりの体に触れ、やけどを癒やしていった。


 カミーユの周りには、いつしか人の列ができていた。

 軽いやけどを負ったものは自らの足で、より重いやけどを負ったものは、戦友に支えられ、カミーユのもとへ集まった。


 カミーユは、それら負傷した兵士をいたわり、傷を癒やしていった。


 数時間の時が過ぎた。


 日が赤く染まり、夕焼けの頃になっても、怪我人の列は止むことはなく、カミーユは竜の力の大きさを、改めて感じることとなった。


 やがて、誰かが、かがり火を焚き、カミーユの治療所は夜も続けられた。

 カミーユは今が夏の日であることを感謝した。

 治療した兵士が凍えぬことに安堵する。


 そんな折、兵士たちの列が割れた。

 国王ゲオルグ陛下が、カミーユのもとを訪れたのだ。


「カミーユ・ロラン伯爵。兵士たちの手当て、まことに大義である」


 カミーユは顔のみ国王に向ける。

 礼をしないことは無礼であったが、今も兵士に手をかざし、やけどを癒やしている途中なのだ。


「良い。そのまま続けよ。ロラン伯爵、あの恐ろしき竜の遺骸が、これより後方の場所で見つかった。脳に矢が刺さり、背から鱗を貫く傷口があった。それもそなたの武勲であろう」


 カミーユは返事をせず、治療に専念する。

 眼の前に傷ついた兵士は無数におり、今ここで、自らの武勲を誇る気になれなかったのだ。


「ロラン伯爵よ。そなたの武勇、また、兵への治療は、追って褒賞を与える。今はそのまま治療を続けること」


 カミーユは兵に手を当てたまま答える。

「ありがたき御言葉、私はこのまま治療を続けさせていただきます」

 そう答えると、国王はその場を離れ、去っていった。


 そのまま夜は更け、治療を求める兵隊の列が途切れたのは、空が白み始める早朝のことだった。

 カミーユは自らが治療した兵たちから離れる。


 夏の朝の爽やかな空気がカミーユの頬を撫でた。

 カミーユは地面の上に座り、座禅を組み、瞑想する。


 一時間ほど時間が経っただろうか。カミーユを呼ぶ声が聞こえる。


「ロラン伯爵。ロラン伯爵。朝食の支度が整いました」

 カミーユは兵士に連れられ、食事の場所へ案内される。


 そこには焚き火があり、暖かな粥が用意されていた。

 麦粥には割いた干し肉が入っており、程よい塩味が食欲をそそった。


 カミーユが食事を終える頃、一人の近衛騎士がカミーユに言付けを伝えに来た。


 それは、国王陛下の軍議に出席せよとのご下命であった。


 カミーユは直ちに髪を結い上げ、支度をする。


 鎧は溶けてなくなってしまったため、予備の男装の礼服を身に纏い、同じく予備の剣帯に魔剣星影を佩いた。


 カミーユは軍議の場である陣幕に侵入する。


 もはやカミーユ、カミーユ・ロラン伯爵の武勇と勇姿は、国王軍に浸透しつつあり、顔と姿を見ただけで、衛兵はカミーユを通した。


「カミーユ・ロラン伯爵。参上しました」


 カミーユは、国王陛下、並びに集った諸侯に礼をする。また、その場には近衛団長のジルバもいた。


「良くぞ来た。ロラン伯爵。夜通しの仕儀となるが、事情の説明をせよ」

 カミーユは軍議の席につき、国王陛下並びに諸侯に向かって説明する。


 リヒテンハイム公爵が国王陛下不在の王都モスカウを狙って蜂起したこと。

 それを、王都軍とカミーユの働きにより撃退し、リヒテンハイム公、並びに共に蜂起した王弟殿下、王甥殿下を軟禁していること。


 王女殿下の命により、カミーユが国王陛下親征軍の助力に向かったこと。

 そして、親征軍が青竜に襲われているところを目撃し、これを打ち倒したこと。

 その後、竜によりやけどを負ったものを明け方まで治療していたこと。


 国王陛下は頷き、諸侯らは驚愕した。


 カミーユの武勲は、もはや王国貴族の枠に収まるものではなかった。

 国難を幾度も助けた英雄であった。


 これらに見合う対価は、国王陛下でも下賜する事はできまい。

 カミーユの功績を考えるにつれ、諸侯らは恐怖した。


「近衛団長ジルバ殿。この辺りで青竜。真竜の目撃情報は過去にありませんでしたでしょうか」

 カミーユは近衛団長に尋ねる。


「ロラン伯爵。そのようなこと、聞いたことはございません」

 カミーユはその返事を聞き頷く。


「わかりました。青竜による被害はどの程度あったでしょうか」

 カミーユの質問に、近衛団長は答える。


「目下のところ確認中ですが、近衛軍総数四千に対して一千。民兵一万一千に対して同じく一千。諸侯軍一万五千に対しても一千。およそこれらの兵士が亡くなったものと思われます。怪我人については、ロラン伯爵が対処くださり、回復しております。ロラン伯爵のお陰で、保護するべき怪我人もなく、兵総数は二万七千。十分に継戦能力を維持しております」


 国王陛下は頷く。

「ロラン伯爵」


 カミーユは立礼する。

「はい。陛下」


「まずはそなたの武勇に頼るより他にない。ハイアン領、領都ルナート、それを包囲する帝国軍本隊一万五千に、そなたの武力を示してはくれぬか」


 近衛団長ジルバは言葉を挟む。

「陛下、それはあまりにも」


 しかし、カミーユはそれを受諾する。


「承知いたしました。必ずやその任務、果たします」


 近衛団長ジルバはカミーユの武力に頼り切りのベラルーン王国の未来を案じる。


 このままでは、ベラルーン王国の兵団は張り子の虎となり、カミーユのみが、その武力の源となってしまう。


「国王陛下、せめて近衛兵一千をロラン伯爵にお付けすることは叶いませんか」

 近衛隊長ジルバは上奏する。


「ならぬ。ロラン伯爵の神脚は、その駿馬によるものである。これに追いつく馬が他におらぬ以上、供をすることはならぬ」


 国王陛下の強い言であった。諸侯並びに近衛団長ジルバは、頭を垂れるより他になかった。


 お下知を受け、カミーユは陣幕を退出した。


 愛馬に弓と矢、水と食料、それに少しの着替えと身の回りの物を載せ、カミーユはハイアン侯爵領の領都ルナートへ駆け出す。


 カミーユは自らの身体に流れる竜の血から魔力を汲み上げ、自身と愛馬に魔力を行き渡らせる。


 カミーユは昨夜は一睡もしていなかったが、充実した魔力により疲労を感じることはなく、一路ルナートへ駆け抜けた。


 領都ルナートには、カミーユの後見人にして愛人のサラ・ハイアン侯爵。ならびに、ロザリア侯爵令嬢がいる。

 カミーユは馬脚を急かせた。



 四時間後、日が天頂からわずかに下がった頃、カミーユは領都ルナートを望む位置に来た。


 領都の市壁には、ブログダン帝国の軍旗がたなびいていた。


 つまり、一週間ともたずに、領都ルナートは陥落したことになる。


 カミーユは周囲を観察する。すると、剣戟の音が僅かに聞こえた。急ぎそちらへ馬を走らせる。

 カミーユの嗅覚に、マーガレットの花が香った気がした。


 前方に帝国軍たちが見える。侯爵軍の兵士を取り囲んでいる様子だった。


 カミーユは弓を構え、次々と超音速の矢を放つ。


 帝国軍の兵たちはこれらの矢を受け破裂した。

 兵が集まっているところでは、一つの矢で複数の者たちが飛び散り、衝撃波でさらなる兵が吹き飛ばされた。


 ここにいた帝国軍の兵は百人余だった。カミーユはそれらを蹴散らし、侯爵軍の元へ進み出た。


「王国伯爵、カミーユ・ロランです。救援に参りました。そちらは侯爵家の方々ですか。戦況をお教えください」


 すると、侯爵軍の中から、フードを被った人影が飛び出してきた。

「カミーユ。ああ、カミーユ」


 それは愛しい女性の声だった。カミーユは馬を降り、女性を抱きしめる。


「サラ。よくご無事で。心配いたしました」


 女性は、サラ・ハイアン侯爵その人であった。


 サラは抱きつき、カミーユの唇を吸う。

 カミーユは抱きしめた手を背に回し、それに応えた。


 しばしあり、カミーユはサラに事情を聞く。


 どうやら、間諜により領都ルナートの市壁の門を開けられ、そこに帝国軍の奇襲を受け、領都ルナートの防備は崩壊。


 そして、サラはここまで落ち延びてきたらしい。


 ルナートと言えば、士気高く、忠誠心の溢れた兵士たちの守る街。

 ここに現れた間諜。カミーユは邪術師カーペリオンの影を感じた。


「ロザリア様はいかがなされましたか」

 カミーユはサラに尋ねる。


「ロザリアは、攫われてしまった。私より先に逃がしたのだけれど、竜と騎士が拐ったの。それで、今はその行方がわからないの」


 カミーユはサラの言葉を聞き、自らが出遅れたことを知る。


 カミーユは悩む。今すぐロザリアのもとへ飛んでゆきたい。


 しかし、ロザリアの居場所はわからず、今はサラ・ハイアン侯爵を安全な場所へ届ける必要があった。


 カミーユは、我が身が二つ無いことを悔やむ。


 こうして、カミーユはサラ・ハイアン侯爵を救出し、退却を選択した。

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