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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
戦乱の末、公爵叙勲と女王との婚姻。最強の怪力騎士、ついに国の頂へ
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王女の秘密。規律を超えた忠誠 。 二人の孤児が結ぶ、後宮の庭園での真実の誓い

 敵軍の盟主リヒテンハイム公は、カミーユの誘導に従い、大人しく王宮を歩いた。


 そして、王女殿下の待つ拝謁の間に向かう。

 この国、ベラルーン王国では、謁見の間は国王陛下のみが使用することが出来る。


 その他の王族は、一つ格下の拝謁の間を使うことになっていた。


 拝謁の間には、王都防衛戦に参加した貴族たちが集まっていた。

 また、正面の一段高い椅子の脇には、近衛副団長のライデンと、近衛騎士のクラリスが控えている。


 リヒテンハイム公は中央で両膝をつかされていた。

 カミーユはリヒテンハイム公を連行したものとして、その側で立礼する。


 衛兵の声が高らかに告げる。

「アナスタシア・アレクセイ・プラソール王女殿下、ご入来」


 扉が開かれ、王女アナスタシアが入場する。

 アナスタシアはゆったりと歩き、豪奢な椅子に腰を掛けた。

「面をあげよ」


 カミーユは礼を解き、顔を上げた。

 両膝を付き、頭を垂れたリヒテンハイム公爵は頭を上げることはなかった。


「聞けませぬな。王家の血を引かぬ者の言など、聞けませぬな」

 リヒテンハイム公爵は、頭を上げ、王女を睨んだ。


「アナスタシア、お前はどこの馬の骨ともしれぬ養女の身でありながら、王座につこうとしている。これは簒奪ではないか。我はそれを阻止せんがため、兵を挙げた。御国のためだ。ただただ、御国のためだ」


 カミーユは驚いた。このような言を、リヒテンハイム公が発するとは思わなかった。

 しかし、居並ぶ諸侯はざわめいたが、驚く様子はなかった。


「国王陛下に子はおられぬ。そこで連れてこられたのがこの娘だ。見栄えは少しは整っているかもしれぬが、赤の他人。このようなものにベラルーン王国の、その高貴な血筋を絶やされるわけにはいかぬのだ」


 通常、このような言葉が王女殿下に向けられたならば、衛兵も黙ってはいない。

 しかし、リヒテンハイム公爵というその身分が、衛兵の動きをためらわせていた。


「よって、王弟殿下のその御長子、王甥リヒャルト・アウドムラ・プラソール殿下こそが、王位を戴冠するに相応しいお方なのだ。それを邪魔立てするものこそが、国に唾する逆臣である」


 リヒテンハイム公はいつの間にか立ち上がり、大声を発していた。

 しかし、その言葉は、立ち並ぶ王女派の諸侯の心を打つことはなかった。


「我こそは、我こそは真なる忠臣であるのだ。貴様ら風見鶏とは違うのだ。そして、貴様のような下賤の血を持つものとは違うのだ」

 リヒテンハイム公は居並ぶ諸侯を見渡した後、女王殿下を指さして叫んだ。


 流石にカミーユは看過できず、リヒテンハイム公の両腕を押さえた。


「貴様も同じだ。ハイアンの女狐の犬め。尾と尻を振り、伯爵位を手にした田舎者が、図に乗るな」

 リヒテンハイム公爵は、カミーユの手から逃れようとするが、それが叶うはずもなかった。


 カミーユはリヒテンハイム公を跪かせ、口をふさぎ、腕を捻った。

 その痛みにより、リヒテンハイム公は完全に制される。

 カミーユは王女殿下を伺った。


「リヒテンハイム公、主張はそれだけですか」

 王女陛下の美しい声が響いた。その声は、王族としての気品に溢れていた。


 カミーユはリヒテンハイム公の口をふさいだ手を離し、弁明の機会を与える。


「もう十分話した。あとはあの世で貴様らを祟るのみよ」

 リヒテンハイム公は唾を吐く。それが王女殿下に届くことはなかった。


「死ぬことは許しません。リヒテンハイム公。あなたは国王陛下がお戻りになった後、改めて処断されることになるでしょう」


 アナスタシアは、近衛副団長ライデンを見る。

「王弟ミハイル殿下と、王甥リヒャルト殿下はどうなりましたか」


 ライデンは答える。

「王女殿下にお答えいたします。王弟ミハイル殿下と、王甥リヒャルト殿下におかれましては、リヒテンハイム公の陣幕におられたところを見つけ、保護しております。なお、リヒテンハイム公の軍勢は瓦解し、現在はそれらの追撃を行っているところです」


 アナスタシアは頷いた。


「ならばよいのです。両殿下は丁重にお持て成しなさい。部屋からはお出になることのないように」

 アナスタシアは王弟、王甥、両名の軟禁を指示した。


 アナスタシアは諸侯を見渡す。

「リヒテンハイム公の蜂起は、ブログダン帝国の侵攻と呼応したことは明白です。この中に、私の身分に不満があるものがあれば申し出なさい。名乗り出た者の財貨は保証し、帝国へ送り届けます」


 王女アナスタシアは諸侯を威圧した。無論、異を唱えるものはいなかった。


「カミーユ・ロラン伯爵」

 王女アナスタシアは、カミーユに視線を移した。


「此度の働き、誠に見事でありました。邸宅へ戻り、英気を養うこと」

 カミーユは頭を垂れる。そして、リヒテンハイム公を衛兵に預ける。


 王女殿下は立ち上がり、拝謁の間を退出した。


 カミーユは自らの館へ戻る。

 従者フローラは未だ前線のエルベ村におり、館が広く感じられた。


 カミーユが鎧を脱ぎ、戦塵にまみれた体を湯で清めている頃、王宮より、使者が便りを届けに来た。


 カミーユは自室で手紙を確認する。王族の封蝋が押されてあった。


 ナイフで封を開け、文面を読む。

 それはアナスタシア王女からの手紙であり、密かに会いに来てほしい。庭園の噴水で待つ。と言う内容であった。


 カミーユは直ちに動き出すことが出来なかった。


 王女殿下の居場所と言えば、後宮となる。国王陛下の許可なく、後宮へ入ることは不敬に当たるだろう。


 しかし、王宮にただ一人残った王族であるアナスタシアを、見捨てるわけにはいかなかった。


 カミーユは簡素な男装の礼服をまとい、魔剣星影を佩いた。


 そして、自室の窓から外に飛び出た。カミーユはそのまま王都の屋根の上を駆け、王宮へと到達する。


 王宮へ到達したカミーユは、一度息を大きく吸い込んだ。


 そして、王宮の屋根も駆け抜け、後宮の区域へとたどり着く。

 屋根の上から見渡し、噴水を見つける。そこには小さな人影が一つ、長椅子に座っていた。


 カミーユは跳躍し、王女殿下の眼前に着地する。


「カミーユ卿は空からいらっしゃるのね。まるで鳥のよう」

 アナスタシア王女は、庭園に立つカミーユを見つめる。


 カミーユは立礼し、王女殿下の視線から顔を外す。


「こちらを向いて、カミーユ卿」


 カミーユは面をあげ、王女殿下を見つめた。夜の帷の中にあっても、王女の姿は際立ち、輝いて見えた。


「カミーユ卿。今日のことは謝ります。でも、あなたを除け者にしたわけではないのよ」

 カミーユは、何を言われたか分からず。王女の顔色を伺った。


「私が実子ではなく養女であること。王都の貴族であれば、誰でも知っている公然の秘密。カミーユ卿は王都に来て日が浅く、ご存知なかったようだけれども」

 王女殿下は星灯りの下、カミーユに語りかける。


「昔日、王妃陛下がご出産なさる時、不幸があり、母子共に亡くなりました。その時、生き残って、生まれたとされたのが私です」

 王女は、まるで今朝食べたメニューを答えるかのように、平坦に話す。


「私は実の両親を知りません。カミーユ卿。あなたもそうだと聞きました。まことですか」

 王女はカミーユに問いかける。


「はい。王女殿下。私は実父、実母を知りません」

 カミーユ卿は王女の瞳を見つめながら答える。その瞳は宝石のように輝いて見えた。


「同じね。私たち。同じだわ」

 王女は長椅子から立ち上がった。カミーユより頭ひとつ分背が低い王女は、カミーユを見上げた。


「カミーユ卿、カミーユ。私のこと、守ってくれますか」


 カミーユは一歩下がり、首を垂れる。

「はい。国王陛下に剣を捧げた時より、王女殿下もお守りすることを誓っております」


 アナスタシアはカミーユに詰め寄った。

「そうではない。そうではないわ。カミーユ。私のため、私だけの為に、誓ってちょうだい」


 カミーユは王女殿下の言葉に、断るすべを持たなかった。

「はい。私、カミーユ・ロランは、王女殿下をお守り奉ることを、剣と神に誓います」


 カミーユは片膝を立て、礼をした。

 王女は右手を差し出した。


「カミーユ。私にも誓ってちょうだい」

 カミーユは手を取り、恭しくその甲に口付けを捧げた。


「はい。お誓いいたします。アナスタシア」


 こうして、カミーユはアナスタシアと境遇を共有し、忠誠を誓った。

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