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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
戦乱の末、公爵叙勲と女王との婚姻。最強の怪力騎士、ついに国の頂へ
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クラリスの看護。無敵の勇者の綻び。 クラリスの執着と、一線を越えた二人の絆

 カミーユ。カミーユ・ロラン伯爵が意識を取り戻すと、そこは寝台の上だった。


 見ると、鎧は外され、清潔な包帯が体中に巻かれている。

 自身を照らす光源を探ると、魔剣星影が、抜身のままで部屋の隅に置かれていた。


 もう少し視線を動かすと、見知った顔があった。

 腕の良い彫刻家が掘り上げたような美しい顔。

 騎士クラリスが寝台の脇の小椅子の上で舟を漕いでいた。


 カミーユは身を起こす。

 視界の半分が欠けている。

 触れると頭部から右目にかけて包帯が巻かれていた。


 声は出せそうだったので、カミーユは声を掛ける。


「クラリス。騎士クラリス。ここは何処ですか」


 クラリスは、薄っすらと目を開ける。

 そして、上半身を起こしたカミーユに抱きついた。


「ロラン伯爵。ロラン伯爵。生きて、本当に」


 クラリスはその美しい瞳から、涙を流している。


 カミーユは比較的自由に動く右手でクラリスの背を抱きしめた。


「生きています。騎士クラリス。あなたの声も聞こえています。あなたの姿も見えています」


 騎士クラリスは、怯えた子供の様に、カミーユに抱き付いて離れない。

 カミーユは、クラリスが落ち着くまで、背を抱き続けた。


 十分以上時が過ぎただろうか。


「もう、大丈夫です。伯爵。みっともない真似を。申し訳ありません」

 クラリスは涙が止まり、カミーユに謝罪する。


「ロラン伯爵。どこか痛みはありませんか」

 クラリスは離れようとする。だが、カミーユは抱きしめ続ける。


「少し痛みがあります。どうか、このままで」

 カミーユはクラリスの耳元で囁く。


「はい。わかりました。ロラン伯爵」

 クラリスは答える。


 魔剣星影の照らす明かりが、暗い部屋の中、二人を照らしていた。


 十分、三十分、または一時間。


 二人は時を忘れて抱き合っていた。


 カミーユはゆっくりと手を放す。

 クラリスは名残惜しそうに体を離した。


「クラリス。私はどのようにして、ここへ来たのでしょうか」

 クラリスは熱っぽい瞳でカミーユを見つめながら答える。


「はい。ロラン伯爵は、市門の前に愛馬とともにいらっしゃいました。体中から血を流され、とてもひどい傷でした」


 クラリスは言葉を続ける。


「伯爵のお姿に気がついた兵士が、僅かに門を開け、伯爵の馬を中に導くと、馬は膝を曲げ伯爵を下ろしました。そしてそのまま伯爵は倒れられ、ここ、王宮へ運び入れたというわけです」


 カミーユは事情を知り、クラリスに尋ねる。

「私は愛馬に捕虜を乗せておりました。その者はどうなりましたか」


 クラリスは答える。


「虜囚。英雄イザベラは、王宮の一室へ監禁しております。彼女の傷は、肋骨にヒビが入った程度でしたので、解熱の薬草を飲ませ、寝かせております。ロラン伯爵。あなたのほうがよほど重傷でした」


 クラリスは少し責めるように言う。


「わかりました。騎士クラリス。申し訳ありませんでした」


 カミーユはクラリスに謝罪する。

 少し妙な気がしたが、クラリスとの間では、それが心地よかった。


 カミーユは、魔剣の灯りに照らされ、美しく輝くクラリスの顔を見つめて尋ねる。


「騎士クラリス。ここが王宮であることは分かりました。この部屋はどこですか」


 クラリスは寝台に顔を伏せる。


 そして、絞り出すような声で言う。

「王宮の、私の部屋です」


 カミーユは合点がいった。


 ここは王宮であると聞いたが、部屋に王宮の豪華さはなく、簡素なものであり、騎士クラリスの性格を思わせた。


「騎士クラリス。何故この部屋へ」

 カミーユは素直に疑問を発してみた。


 騎士クラリスは寝台に顔を埋めたまま、答える。

「離れたくなかったのです。ロラン男爵。私が、あなたと離れたくなかったのです」


 クラリスは顔を上げ、カミーユを見つめた。

「私は、あなたは絶対に死なない。永遠の存在であると、勝手に安心していました。でも」


 クラリスは再び瞳に涙を湛える。


「あなたは傷だらけだった。今にもその生命が消えかけていた。そんなあなたを見て、私は恐ろしかった。失いたくないと思った。ずっと側にいたかった。だから。私は」


 クラリスはカミーユの眼前に迫り、言葉をぶつけた。

 クラリスの頬には、涙が流れ出していた。


 カミーユはクラリスを優しく抱きしめ、唇でそっと涙を拭った。


「クラリス。私もあなたの側にいたい。ずっと、永遠に」


 クラリスはカミーユに再び抱きついた。

 それは愛おしい人を思い、それを手にしたい欲望に溢れていた。


 カミーユはそれに応える。

 クラリスのつややかな黒髪を抱き、唇を重ねた。


 部屋の薄暗い明かりが、二人に夜を知らせていた。


 こうして、カミーユ・ロラン伯爵と騎士クラリスは、共に夜を過ごした。

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