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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
戦乱の末、公爵叙勲と女王との婚姻。最強の怪力騎士、ついに国の頂へ
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エルベの戦い。超音速の強弓、城門を熔かす焦熱。伯爵カミーユ、軍を恐怖で跪かせる。

 カミーユ・ロラン伯爵は、ベラルーン王国の国境沿いの丘、エルベ村を望む位置にあった。


 ベラルーン王国は比較的寒冷な地方にあり、本来夏も過ごしやすい。


 しかし、この日は太陽が厳しく照りつけ、陽炎は立ち、汗が吹き出た。

 騎馬と荷馬は疲労困憊の様子であった。


「行軍やめ。休め。復唱」

 カミーユの声が夏の明るい日差しの中響いた。


 先頭のカミーユが振り返って命じたのだ。

 猛暑の中、騎乗した兵たちは主である騎士の命に従い、大声で応える。


「休め」「休め」「休め」

 積み重なる疲労がその命令を待ち焦がれていたのだろう。兵たちの声は大きく響いた。


 丘を下り、森の木陰に入り、そこで休ませる。

 カミーユは兵と馬に水を取るように命じた。


 連れている兵は、副官ヘブナーを含めた十騎と、従者フローラが率いる僅かな輜重隊。


 伯爵家の兵隊としては、寡兵と言わざるを得ない。

 カミーユの陞爵が早すぎて、兵士の育成はおろか、調達すら間に合わなかったためだ。


 寡兵ではあるが、ロラン伯爵の軍は、勇壮な旗を持っていた。

 その軍旗は振り返る竜とリボン、それに百合の花で飾られた新たな伯爵家の紋章が描かれている。


 目指すエルベ村は、ブログダン帝国との国境付近にあり、ベラルーン王国貴族ハイアン侯爵領の一部となる。


 しかし、現在は侵攻したブログダン帝国の支配下にあった。


 カミーユ・ロラン伯爵と副官へブナーは、ふたたび丘に戻る。


 そして、カミーユは自らの身体に流れる竜の血から魔力を汲み上げ、それを自身の目に集める。

 カミーユの視力は何倍にも拡大し、遠く見えるエルベ村を、仔細に観察することができた。


「ヘブナー。侵攻してきた敵軍は、エルベ村を要塞化しているようです。櫓が二基あり、堀が掘られ、木の柵がめぐらされ、強固な門があります。兵の規模は凡そ五百。物資の備蓄も行われているようです。これをどう見ますか」

 カミーユは、信頼する副官に尋ねた。


「カミーユ様。エルベ村は国境間近の村です。帝国軍がここを通過せず要塞化するのは、二つの狙いがあろうかと思います。一つ目はこれを恒久的に手に入れ、新たな国境を線引く事。二つ目はここを補給点とし、さらなる侵攻を企てること。私は後者が濃厚と思います」


 カミーユは頷く。

「早馬の報せにより、国境を超え侵攻したブログダン帝国軍はおよそ二万。エルベ村を奪うだけには、あまりにも大きな兵団です。敵はすでに、我が国、ベラルーン王国の奥深くへ侵攻していると見てよいでしょう」


 この先、王都モスカウとの間には、ハイアン侯爵領の領都ルナートがある。


 カミーユは女侯爵のことを思う。

 ハイアン家当主のサラ・ハイアン侯爵は、カミーユの後見人であり、また、カミーユの愛人でもあった。


「ヘブナー、二万の軍勢をどう見ますか」


 主人カミーユに尋ねられ、ヘブナーは答える。


「ブログダン帝国の兵は、常備兵で構成されていると聞きます。また、兵は皇帝直下の将軍に率いられており、指揮系統も統一化されております。強兵と言えましょう。対して、我が国ベラルーン王国の兵動員数は十万を超えましょう。しかし、これは各地の領主から兵を集めた場合であり、その大半は農民兵です。ブログダン帝国の戦力は、我が国にとって脅威といってよいでしょう」


 カミーユはヘブナーの評に頷く。


「ヘブナー。ハイアン侯爵領の領都ルナートは、防備は厚く、その兵の数も一万はいると思われます。ルナートがブログダン帝国の軍勢に攻められた場合、どの様になると考えますか」


 カミーユは優秀な副官に問う。


「まず、すぐに落ちることはないと思われます。ルナートの防備は固く、領主の人気もあり、兵たちの士気も高い。対する帝国軍は、常備軍とは言え、宣戦布告もなく攻め入り、大義がない。これは大きく士気に関わる。また、国境から深く侵攻して補給線も伸び、そちらに人員も割かれるでしょう」


 ヘブナーは自身の見解を述べた。


「分かりました。ルナートへの救援は、すぐには不要。そのようになりますね」


 カミーユはヘブナーの言を信用した。

 続く話題に移る。


「眼前のエルベ村。住民の多くはそのまま中にいるようです。これを攻めた場合、住民の被害をどう考えますか」


 カミーユは自らの視力で住民の姿をとらえ、副官に尋ねる。


「エルベ周辺方面の帝国軍五千の指揮は、帝国将軍ルドマンと思われます。この将軍は、攻守バランスの取れる名将です。その部下がエルベ村の軍を指揮していると考えれば、エルベを中継地点にするにせよ。新たな国境の村とするにせよ。住民に対して非道な行いはしないと思います。軍隊との戦いを無事に行えるのではないでしょうか」


 副官ヘブナーは考えを述べる。


「わかりました。では、攻めるといたしましょう」


 カミーユ・ロラン伯爵の軍は。軍と言って良い数であるかは意見が分かれるだろうが、決断が早い。

 軍議はなく、カミーユと副官ヘブナー。二人の相談だけですべてが決まる。


「ヘブナー。騎兵たちのうち、二騎だけこの丘に残しなさい。丘の下のフローラの輜重兵と共に残りは下がり、森にて待機、森の木々にて輜重兵を隠し、私たちの装備を守ってください」


 副官ヘブナーは苦笑する。

「相変わらずの一騎駆けですか。伯爵になられても、騎士カミーユの武名は衰えることを知りませぬな」


 カミーユはヘブナーに指示を続ける。

「敵の数は五百です。多くの兵が逃げる可能性があります。輜重隊の守りを厳にするように」


 ヘブナーは追加の指示を受け、笑顔をやめ、真剣な顔で答える。


「はい。この丘にて、戦況の変化をとらえた場合は、速やかに森の奥へ移動します。敗残兵が村の外にて再集結しようとした場合は、遠方より矢をもってこれを撹乱しようと思います。無論、数は誤魔化してみせますよ」


 カミーユはヘブナーの回答に満足した。

「では、ヘブナー。後のことはよろしく任せます」

 カミーユ・ロラン伯爵と副官ヘブナーは丘の上で別れた。



 カミーユは、愛馬に跨がりエルベ村へ歩み寄る。


 カミーユと、カミーユの愛馬は、白銀に光る見事な鎧を身に着けていた。

 これは、巨人の国から送られた魔法の金属、ミスリルを用いて作られている。

 ミスリルは、軽くしなやかで強靭なことで知られる。


 これらの鎧だけで、通常の百人規模の武具が揃う価値があるだろう。


 カミーユとその愛馬の動きはゆったりとしており、優美と言えるほどの常歩であった。

 白銀に輝く騎馬は、エルベ村の門の正面まで歩み寄る。

 丁度大声を上げれば、門の中に声が届く、それほどの距離まで近づいた。


 櫓にいる兵たちは、カミーユを射ることはしなかった。

 相手は一騎だけであったし、使者は射つなと命じられているからだ。


「カミーユ・ロラン伯爵である。ブログダン帝国軍に告げる。そこ、エルベ村は我がベラルーン王国の村落である。今すぐ村から立ち退き、兵を退かれよ」

 凛とした声が、村まで届いた。


 カミーユはそのまま、三十分ほど待った。


 門が浅く開き、軍装をまとい、馬に乗った者が現れた。

 この者は、カミーユと会話できる距離まで近づき、名乗った。


「ブログダン帝国、大隊長のベルガットです。騎士カミーユ、ご本人でありますか」

 ベルガットの印象は、まさに職業軍人という体だった。


「はい。カミーユ・ロランです。叙爵され、今は伯爵位にあります」

 カミーユは朗々と答える。


「失礼いたしました。ロラン伯爵。伯爵の勇名は帝国まで響いております。お目にかかれて光栄です」

 ベルガット大隊長は、頭を下げた。


「ですが、先程のお話は受け入れることができません。もとより、国境線と呼ばれるものは、ベラルーン王国が一方的に定めたもの。我が国が承諾したものではありません。よって、我が帝国は本来の領域を奪取しているに過ぎないのです」


 カミーユはベルガット大隊長の主張を理解した。

「それは、帝国本国も同じお考えでしょうか」


 ベルガット大隊長は答える。

「はい。自分はそのように理解しています」


 カミーユはベルガット大隊長に感謝する。

「ありがとうございます。そちらの主張は理解しました。これより先は、実力を持って対応させていただきます」


 ベルガット大隊長は答える。

「カミーユ卿と鉾交えるは、武人にとって誉れです」


 ベルガット大隊長は一礼し、要塞化した村の中へ戻った。

 カミーユも一度引き、距離を取った。


 カミーユは弓を取り出した。巨人族の国で作られた、カミーユの弓である。


 矢を番え、弓を引く。カミーユは自らの身体に流れる竜の血から、魔力を汲み上げる。そしてその魔力を全身に行き渡らせる。

 カミーユの肩と腕、背筋と胸筋が隆起し、弓を限界まで引く。


 カミーユは櫓を見つめる。


 そして、矢を放つ。


 矢は音の壁を貫き、一瞬で櫓の柱に衝突した。


 矢は櫓の柱を弾き折り、彼方へ飛んでいった。

 その一撃で、櫓は崩れてゆく。

 櫓の上には三人の兵士がいたが、皆、衝撃波で弾かれた後に、落下していった。


 カミーユはもう一度矢を放ち、二基目の櫓も破壊する。


 要塞化された村の目を潰したカミーユは、弓を仕舞い、愛馬を駆って村に近づく。

 自らの魔力を熱と炎に変え、門に向かって投げつけた。


 閃光と熱、衝撃波が吹き荒れる。

 門は焼けた木くずとなり、それすらも、局所的な熱の発生による暴風で飛び散り、消滅した。


 カミーユは馬を駆って門の中へ駆け込んだ。

 周囲を見回すと、門から外へ出ようとしていた敵兵たちの姿が見えた。


 槍を持つもの、弓を持つもの、盾と剣を持ったもの。

 様々な兵種が並んでいる。


 カミーユは弓を再び取り出した。


 そして、小さな部隊ごとの指揮官に向かって、矢を次々と放った。


 先ほど櫓を破壊したとおり、カミーユの弓の威力は攻城兵器に匹敵する。

 それが人に向かって放たれたのだ。


 圧倒的な速度によって人体に当たった矢は、それを爆散させ、その背後のものも同様に粉砕した。矢の通った後は衝撃波が襲い、周囲の者共をなぎ倒す。


 これらの光景は、兵たちを、現実から悪夢の世界へと突き落とした。


 五百名いた兵たちは身を震わせしゃがみ込み、自らの元へ、悪魔の一撃が舞い降りないことを願った。


 カミーユは弓を下げ、兵たちより一段高い場所にいるベルガット大隊長を見つめる。


「まだ続けますか。ベルガット大隊長」


 ベルガットは周囲を見渡す。立っている兵士は一人もいなかった。

「いや、降参する。カミーユ卿。我々の負けだ」


 こうして、国境沿いにあるエルベ村の戦いは、カミーユ・ロラン伯爵軍の勝利に終わった。

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