王子から譲られた婚約指輪。怪力娘カミーユ、いつの間にか「王家の嫁」へ成り上がる!
カミーユは、父王ゾンネに巨大な毒針を献上する。
それはもちろん、黒鉄の飛竜のものであった。
「父王陛下、黒鉄の飛竜の毒針でございます。どうぞお収めください」
父王ゾンネは巨人族の剣ほどの大きさのある。巨大な毒針を受け取った。
「確かに受け取った。千人戦士カミーユ。大義であった」
カミーユは頭を一度たれ。言葉を放つ。
「もったいなき御言葉。感謝いたします。ところで、次の任務はございますでしょうか」
父王ゾンネは、膝をつき頭を垂れるカミーユを見つめる。
「ない。戦士の任ご苦労であった。もう良い」
カミーユは再度頭を下げた。父王ゾンネは言葉を続ける。
「千人戦士カミーユよ。これは偉大な勇者に対する。余の願いとなる」
父王ゾンネは一旦言葉を区切った。
「我が息子にして、これより戴冠するカミン。これの後見人となってはくれぬか」
カミーユは驚き尋ねる。
「後見人ですか。何故私にそのような大任を」
父王ゾンネは答える。
「千人戦士は国の宝であり、国王が幼ければ、これを補佐することになる。今この国には千人戦士が二人いる。戦士ダノンと戦士カミーユだ。余は、二人がカミンの後見人となることを望む」
カミーユは答える。
「おそれながら、父王陛下。私はベラルーン王国の騎士でございます。二国に仕えるわけには参りません」
父王ゾンネは答える。
「国に仕えよとは言わぬ。では、エトナの配偶者の父と言う立場ではどうか」
カミーユは流石に驚く。
「父王陛下。私などに恐れ多いことにございます」
父王は父の顔となり、カミーユに語りかける。
「エトナ。あれがそなたを好いていることはよく分かる。そなたが良ければの話となるが、なにより、千人戦士の番となるは、我が国の女子の誉れである」
巨人の国でも、ベラルーン王国でも、同性同士の婚姻は珍しいものではなかった。
ここまで言われれば、カミーユに選択肢はない。
「お申し出ありがたく。エトナ姫を頂きたく思います。されど」
カミーユは言葉を続ける。
「私の言を聞き届けていただければ幸いです。まず、私は一度国へ戻らねばなりません。また、今後もベラルーン王国にて政務に当たることとなります。エトナ姫とはベラルーン王国にて、家庭を築きたく存じます」
カミーユは更に言葉を続ける。
「加えて、カミン王子の戴冠が控えております。これはお国の大事。エトナ姫の婚姻と、時期をずらすがよいかと存じます。よって、エトナ姫と私は、まずは婚姻の約束。婚約を交わしたく存じます」
父王ゾンネは答える。
「なるほど、婚姻の約束。そのようなものがあるのか。うむ、そなたがそう望むのであればそれで良い。カミンの後見人の話も、儀礼的なものである。この国におれとは言わぬ。これでそなたの望みは叶うか」
カミーユは答える。
「はい。父王陛下におかれましては、我が意を組んでいただき恐悦の極みにございます」
父王ゾンネは付け加える。
「言うまでもないが、エトナの名誉の回復。および賠償については、その婚約をもって、なされたものとする」
カミーユは父王に再度頭を深く下げ、拝謁の場を辞した。
カミーユにとって、婚約は初めてのこととなる。巨人族の婚姻とはどのようになされるものであるのか。カミーユは巨人の戦士たちに話を聞こうと思い、戦士の大樹の食堂を訪ねた。
そこは祝宴の嵐であった。
巨人族の戦士たちはエールを浴びるように飲んでいた。
騎士クラリスと従者フローラ。それにカミーユの兵たちは、巨人の戦士たちに囲まれ、祝われていた。
それはまるで、御輿を担ぐ祭りのようであった。
「千人戦士が来られたぞ」
カミーユの来訪に気付いた戦士が声を上げた。
すぐさまカミーユは抱き上げられ、いつもの席に座らされた。
「黒鉄の飛竜はどのように倒したのだ」
「飛竜は群れをなすと聞く。それはどのように対処したのか」
「巨人の毒針は大きいと聞く。それはどれほどの大きさであったのか」
「黒鉄の飛竜は強かったか」
巨人族の戦士たちは、カミーユに質問の嵐をぶつけた。カミーユは一つ一つ丁寧に答える。
「黒鉄の飛竜は、私の弓矢で心臓を打ち抜き、倒しました」
「飛竜の群れは、騎士クラリスと、騎兵たちが引き付け、相手をしてくれました」
「巨人の毒針は、丁度あなたたちの持つ。剣ほどの大きさです」
「黒鉄の飛竜は、凄まじい生命力をもっていました。腹から背までを矢で射抜いても、それを意に介さずに襲いかかって来ました。とても強い生き物でした」
巨人たちはうんうんと唸りながら、カミーユの話に耳を傾けた。
「よくわかった。では、飲んでくれ、千人戦士カミーユ。今宵は宴にしようぞ」
カミーユはジョッキを預けられ、飲むように急かされる。カミーユはジョッキに口をつけ、エールを飲んだ。よく飲んだと思ったが、巨人族のジョッキはやはり大きく。エールは半分以上残っている。
見ると、カミーユの兵の中には、酔ってテーブルに突っ伏しているものもいる。
今宵は何も言うまい。
カミーユは兵たちをなすがままに任せ、巨人族の戦士たちに尋ねる。
「戦士の皆様。あなたがたの間では、女性に求婚する時、なにか贈り物をしますか。また、それはどのようなものでしょうか」
戦士たちは再びカミーユに集まった。
「肉だ肉。女人は肉を欲しがっている」
「馬鹿を言え、女人には宝飾品だ。ネックレスなど好まれるだろう」
「宝飾品であれば、ブレスレットの方が良い。手を使うたびに、思い出してもらえるのだ」
「何を惚けたことを言っておる。指輪だ指輪。鍛冶師の手による指輪が最も好まれるのだ」
カミーユは、皆の意見を整理する。
肉以外はみな、人間の女性に送るものとそう変わらないようだった。
「宝飾品を作る職人は、この国におられますでしょうか」
戦士たちは答える。
「鍛冶師だ。俺達の武器を作る鍛冶師は、細やかな宝飾品も作ってみせる」
カミーユは礼を言う。明日、鍛冶師のもとに向かうことにした。
そして、今宵は大いに飲み、騒いだ。
翌朝、カミーユはフローラの頭を胸に抱いていた。茶色の髪が指に絡まり心地よい。
フローラの額に唇を触れさせ、目を覚まさせないように離れる。
そして、師の教え通り、座禅を組み、朝の瞑想をする。
昨日の自身の炎の魔法。その威力は以前に比べて格段に増していた。
これも、師の勧めた瞑想の賜物に違いない。
カミーユは改めて師の偉大さを思い、瞑想に入った。
朝食の食堂は静かだった。どうやら、巨人族にも二日酔いというものはあるらしい。
静かな食堂の中、見慣れない巨人の少年が居た。背の高さはカミーユを少し上回る程度だった。
少年は、カミーユのことを見つけると、駆け寄ってきた。
「あなたは、千人戦士カミーユですか」
カミーユはテーブルを降りて答える。
「はい。私がカミーユです」
少年は安堵の表情を浮かべる。
「よかった。僕、いや、余は、王太子カミン。千人戦士カミーユ。君にお礼を言いたくて来たんだ」
カミーユは片膝を付き礼をする。
「王太子殿下と知らず。ご無礼をはたらき申し訳ありません」
少年カミンは、カミーユに向かって手を振る。
「よしてよ。今日は本当にお礼を言いに来ただけなんだ。僕のために毒針を取ってきてくれて、本当にありがとう」
カミーユは頭を垂れる。
「もったいなき御言葉。光栄にございます」
少年カミンは拗ねたような声を出す。
「本当にそういうのはいいからさ。教えてよ。カミーユはすぐに国に帰ってしまうの」
少年は不安そうに言葉を続け、尋ねた。
「もうしばらく、こちらにいる予定です。鍛冶師に頼み事があるのです」
少年の目が輝く。千人戦士が鍛冶師に頼み事をするのだ。どんなことであろうか。
「カミーユ。何を頼むのか、僕に教えてくれないか」
カミーユはやや悩んだ。しかし、いずれ分かることだった。素直に答えることにする。
「エトナ姫へ贈る指輪を依頼しようと思っています」
少年は予想外の言葉に一瞬呆気にとられる。そして、これは良い機会だと気持ちを切り替える。
「カミーユ。余はそなたに礼をしたい。その指輪、余に任せてもらえぬか」
カミーユは少年の意外な言葉に驚く。
「どのようなお話でしょうか。お礼などと」
少年は言葉を続ける。
「余の祖母が遺した指輪がある。それを与える故、姉上に贈るがよいでしょう」
カミーユは言葉を挟む。
「いけません。そのように大切なもの」
少年はカミーユに答える。
「大切なものだからこそだ。余はお祖母様の遺したものを活かしたい。それは亡きお祖母様も望まれるであろう」
カミーユは再度の辞退は無礼に当たると判断した。
「御心推察いたします。では、ありがたく頂戴いたします。殿下、その指輪、大切に使わせていただきます。それと」
カミーユは言葉を続ける。
「父王陛下にも申し上げましたが、私はベラルーン王国にて、働くこととなります。その際、この国、彼の国と、カミン王子のお国のお名前がないことは、今後の両国の発展に触ろうかと存じます」
カミン王子はなるほどと頷いた。
「国名を決めるとは、僕らでは思いつかない発想だった。カミーユ、君はどんな名前が良いと思う」
カミン王子はカミーユに問うた。
カミーユはしばし考える。師ゴダールの書物にあった師の友人の巨人の名、それがガルムと言った。
「ガルヘルムという名は如何でしょうか。我が師ゴダールのこの国の友人の名からいただきました」
カミン王子は頷いた。
「大賢者ガルムのことだな。僕もその名前は知っている。なるほど、千人戦士カミーユ。その名前は検討しておくよ」
こうして、カミーユはカミン王子と交流を深め、エトナ姫へ贈る指輪を得た。




