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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで
24/80

カミーユと豆の木。巨人の姫を背負う剛腕。怪力娘、月下の絶壁を翔ける

 騎士クラリスはカミーユ・ロラン男爵を問い詰めた。


「ロラン男爵。エトナ姫を密かに王宮へお戻しするとはどういうことですか。何故、そのようなことを約束したのですか。我々はベラルーン王国の代表として参ったのです。それをコソコソと盗人のような真似をするなど、陛下の意に沿わぬことではありませんか」


 カミーユはそういう考えもあるものかと思う。


 そして、自身の意を伝える。


「国王陛下はエトナ姫をお国に返すよう。私に御下命くださいました。その手段は仰せではありません。そして、私の男爵の地位で、ベラルーン王国の代表が務まるとは思えません。王はたとえ密やかにでも、エトナ王女殿下をお国に戻したい。そうお考えであると、私は考えました。それに」


 カミーユは言葉を続ける。


「私たちが出会った巨人の戦士ダノン。彼は誠実なお人柄であると思います。そのような方の要請を断るわけには参りません」


 カミーユは、巨人の戦士を信頼するという。


 クラリスは棘のある言葉を放つ。

「巨人の戦士などの言葉を。ロラン男爵、あなたは信じるというのですか」


 流石にカミーユはたしなめる。

「騎士クラリス。私たちは巨人の国へ来た来訪者です。巨人たちを信じなければ、互いの心は結ばれません」


 そのようなこと。


 騎士クラリスは言葉が喉まで来たが、飲み込んだ。

 これ以上の言葉は、ロラン男爵。

 ひいては国王陛下への抗命となりかねない。


「騎士クラリス。あなたの忠節。しかと受け取りました。私は嬉しく思います。これからも忌憚なく、私に意見をください」


 カミーユは騎士クラリスを褒め、この会話は終えられた。


 カミーユと騎士クラリス、騎兵十騎。

 それにフローラが操るエトナ姫を乗せたワゴンは、森の中で夕刻を待った。


 皆の元に小さな虫が集ったが、カミーユは自らの血から汲み上げた魔力を、自身の体の外まで満たして、皆の近くに集る羽虫の侵入を防いだ。


 そんなカミーユたち一行に、近づく足音があった。


 木々の間から、巨人族の戦士ダノンが姿を現したのだ。


 兵たちは俄かに現れた巨人に驚きの声をあげるが、カミーユがそれを制す。


「皆、落ち着いてください」

 カミーユは人間の言葉で兵たちを制した。


 そして、巨人語で声を掛ける。

「戦士ダノン。お待ちしておりました」


 戦士ダノンは立派な鎧をまとっていた。

 それは獣の革で作られていた。


「約束違えず待ってくれて感謝する。騎士カミーユ。して、姫は何処に」


「ワゴン。荷馬車の中におられます。お会いになりますか」


「是非に」


 愛馬を降りたカミーユは、ワゴンに近づき、戦士ダノンの望みをエトナ姫に伝える。

 エトナ姫は了承した。


「戦士ダノンにございます。エトナ姫、お久しゅうございます」


 カミーユはワゴンの戸を開ける。エトナ姫の姿が夕日に映えた。


「父王ゾンネの戦士ダノン。久しいですね。父王、王妃はご健勝ですか」

 エトナ姫は、王族の威厳を持って、戦士に尋ねた。


「はい。お二人とも姫のお戻りを願っておいででした」

 戦士ダノンは平伏する。


「カミーユ卿から話は聞きました。私は未だ王宮にいる事になっているのですね」


「はい。その通りにございます」

 戦士ダノンは頭を伏せたまま答える。


「王宮へ戻るには、蔓のきざはしを登らねばなりません。夜でも灯りがあり、目立つのではありませんか」


 戦士ダノンは面をあげ、答える。

「夜半であれば、恐らくは大事には至らないかと」


 戦士ダノンは困っていた。


 王宮までは、大樹を廻る豆の木の階段を登らねばならない。


 そこは灯りに照らされており、夜半でも人目を避けられる保証はなかった。


「失礼。差し出がましいまねをお許しください」

 カミーユは、二人の困った様子を感じ、声をかけた。


「姫のお部屋は大樹にある。それは確かでしょうか」


「はい。カミーユ卿。私の部屋は王宮の大樹にあります」


 カミーユは頷く。

「では、そのお部屋に窓はお有りでしょうか」


 エトナ姫は不思議なことを言うカミーユに答える。


「はい。窓はあります。それがどうかいたしましたか」


 カミーユは、エトナ姫に向き直り答える。


「ご無礼大変恐縮です。私が姫を背負い、大樹を登り、闇夜に紛れて、お部屋までお連れしたく存じます」


 カミーユは驚くべき提案をする。


 戦士ダノンはカミーユを見やった。

「姫に対して無礼であろう。それに、人間のそなたに、そのような事できようはずもない」


 しかし、エトナ姫は嬉しそうに微笑んだ。

「それは良い考えです。カミーユ卿、お願いできますか」


「はい。この身に変えましても」

 カミーユは膝を付き、エトナ姫に剣を捧げた。


 かくして、カミーユとエトナ姫、それに戦士ダノンは、巨人族の王都へやって来た。


 カミーユは、フローラや残りの者たちを騎士クラリスに任せ、待機するように命じた。


 王都には、天をつくような大樹が無数に生えており、それらには巨大な豆の蔓が巻き付いていた。


 槍を持った巨人族の兵士たちが、階段となった豆の蔓を登ってゆく。


 大樹と豆の蔓。更にそれをつなぐ豆の蔓の橋。


 それらによってできた都市。

 それが巨人族の王都であった。


 時刻は夜半。人通りは少ないが、巨人族の衛兵たちは見回りをしている。


 カミーユは、後背のエトナ姫に語りかける。

「エトナ姫。お加減はいかがですか」


 エトナ姫は、ワゴンから取り外されたソファに座っていた。

 そしてソファに体を縛り、落ちないように固定している。


 そのソファを、カミーユは担いでいた。

 カミーユの怪力があれば、造作もない事であった。


「はい。カミーユ卿、不都合はありません。このまま進んでください」


 戦士ダノンはその様子を見て、改めて尋ねる。

「騎士カミーユ。人間の戦士とは、皆そのように屈強であるのか」


 カミーユは微笑んで答える。

「皆が私と同じとは思いません。私は私にできることをしている。それだけなのです」


 戦士ダノンはそれ以上は何も尋ねなかった。


 そして、騎士カミーユを、一際巨大な幹をもつ、とある大樹に導いた。


「これが王宮の大樹だ。騎士カミーユ。王女殿下を頼む」

 カミーユはその言葉に微笑みで答えた。


 騎士カミーユは、エトナ姫を背負い、垂直の木肌を登っていく。


 常人であれば、何も身につけなくとも、登ること自体困難な垂直の壁面。


 カミーユは、その握力をもってして、眼前の巨壁を攀じ登って行く。


 途中、灯りのある場所、人のいる場所は避ける。


 カミーユの身に流れる竜の血に由来する瞳は、暗闇を明るく見通し、それらは容易いことだった。


 どれだけ登っただろうか。


 下にいる戦士ダノンの姿が一つの点になるほど登った頃、エトナ姫が後背から振り向き、カミーユに声をかけた。


「カミーユ卿。あれです。あの灯火の掛かる窓が、私の部屋です」


 こうして、カミーユは、大樹と豆の木を登り切り、姫をお部屋へ届けた。

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