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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで
23/81

巨人族の戦士。森で響く友愛の言葉。怪力娘が勝ち取った、種族を超えた友情

 巨人族の国への出立の日となった。


 鎧を着て、すっかり支度を整えたカミーユ・ロラン男爵は、馬上にて背後を振り返る。


 四頭立ての大きなワゴンの御者台には、従者フローラが座っていた。


 ワゴンには、振り返る竜の紋章が描かれている。

 これは、先日決まったロラン家の紋章になる。


 ワゴンの中には、エトナ姫と、侍女が三名乗っている。


 カミーユの周囲には、クリン村から呼び寄せた十騎の騎兵と、騎士クラリスが並んでいた。


 気がつくと、春は盛りを迎え、まるで夏のような日差しが照り付け、カミーユらの鎧を明るく輝かせた。


 故郷の兵たちは、カミーユの陞爵を喜んだ。


 自分たちも貴族様の兵隊だ。これからは言葉に気をつけねばならんかな。

 などと、軽口を叩き合う。


 カミーユは、故郷の仲間たちの声を聞き、久しく離れてしまったクリン村を思い出す。


「ヘブナーなどは、息災でしょうか」

 カミーユはヘブナーの屈強な姿を思い浮かべる。


「はい。カミーユ卿、いや、ロラン男爵閣下。皆元気で、息災であります」

 兵は、しゃちほこばって答えた。


 カミーユはその様が可笑しくて笑った。

「今までと同じで良いですよ。カミーユと呼んでください」


 兵は兜に手を当て答える。

「はい。カミーユ卿。今まで通りといたします」


 どうやら、兵たちが慣れるまで、もうしばらくの時間が必要なようだった。


「ロラン男爵。行程を教えていただけますか」

 騎士クラリスが馬首を寄せ、カミーユに尋ねる。


「ベラルーン王国の南の端の村まで、十五日かけて向います。その後は、巨人族の領域を、五日間ほど進めば、巨人族の王都へたどり着きます」


 カミーユは、師ゴダールが用意してくれた地図を開く。


 ゴダール曰く、この地図には魔法がかかっており、迷う事はないとのことだった。


「ロラン男爵。巨人族の道は、馬車は通れるのでしょうか」

 カミーユは、自らの考えをクラリスに話す。


「エトナ姫は、馬車で攫われたとおっしゃっていました。おそらく、我々も馬車で移動ができると考えます」


 騎士クラリスは、カミーユの楽天的な考えに異を唱える。


「ロラン男爵。エトナ姫が攫われてから、月日が経っています。その間、天候などで道が塞がれていれば如何なさるおつもりですか」


 カミーユは、自らの考えを素直に答える。


「その時は、馬で参りましょう。馬車を引いている馬は重種馬です。エトナ姫に乗っていただいても問題はないでしょう。私の従者が、そのための馬具も用意しています」


 クラリスは更に反応する。怒りと言っても良かった。


「馬車を引く馬は乗馬用ではありません。エトナ姫は巨人族です。乗馬の経験などお有りなわけはないでしょう」


 カミーユはなるほど、と答える。

「そう言えばそうですね。従者フローラ。あなたにお任せします。もし、その時が来たら、よろしくおねがいします」


 従者フローラは、急に話を振られて慌てて答える。

「はい。精一杯努めさせていただきます」


 騎士クラリスはまだ納得はしていない様子だった。


「大体、巨人の道など。信用なりません。その地図もどこまで当てになるのでしょう」


 カミーユは、師を信頼している。その思いを素直に伝える。


「私の師、ゴダールは偉大な魔法使いです。巨人族にも明るく、心配は無用です。騎士クラリス」


 今回の旅のリーダーは男爵位を持つカミーユである。


 そこまで言われれば、クラリスとしては引き下がるより他にない。


「承知いたしました。ロラン男爵。ご無礼申し訳ありませんでした」


 カミーユは微笑んで答える。

「構いません。騎士クラリス。そのように意見を言ってもらえると助かります。これからもよろしくお願いします」


 このような様子で、旅は続いた。



 さて、巨人たちと人間たちの交流は少ない。


 しばしば、巨人たちが人間の里を訪れて、巨人が狩った獣の皮などと、酒や小麦などを交換するにすぎない。


 戦になれば互いに援軍を出そうという話にもなろうが、幸いなことに、同盟を結んでからは、それを必要とするような大きな戦は起こらなかった。


 旅の途中、皆、巨人たちのことが気になり、食事時にエトナ姫に巨人の国について尋ねる。


 すると、巨人たちは木の上に住んでいると言う。


 木の上に町があり、そこに住んでいるのだと。


「きっと、とっても高い木なのですね」

 フローラは天を見上げて呟いた。


「トテモ、タカイ。ウエマデ、イケナイ」

 エトナ姫は、人間の言葉で答えた。


 カミーユが巨人語で尋ねる。

「エトナ姫のご両親はご健勝でしょうか」


「父王、お父様も。お母様もきっと元気です。でも、私がいなくなり、心を痛めているかも知れません」

 エトナ姫は心配そうに呟く。


「わかりました。それでは早く、エトナ姫の元気な姿をお見せしなければいけませんね」


 カミーユはそう言うと、休憩を終え、出立するよう、兵たちに指示した。


 春の中旬。この頃は天候が変わりやすい。


 しかし、幸いなことに、道中ひどい雨に降られることなく。

 カミーユたちは小村に到着した。


 ここから先は巨人の領域である。


 兵たちが緊張し、馬たちにもそれが伝わる。


「フローラ。道を外れないよう。注意してついて来てください」


 踏み分け道のような地面を見つめ、カミーユは従者に指示する。


「はい。カミーユ様。もちろんです。この子達もみんな良い子で、頭も良くて大丈夫です」


 フローラはカミーユに嬉しそうに答える。馬の調子も良い様子であった。


 踏み分け道をしばらく進むと、大きな木で作られたトーテムの柱が立っていた。


 羽や毛皮。骨で飾られており、その天辺は二階の窓の高さほどはあろうかと思われた。


「ロラン男爵。これは一体」

 騎士クラリスが、その異様な物体を見て警戒する。


 カミーユは、エトナ姫からこの物を聞かされていた。


「安心してください。これは巨人族の縄張りを示すものです。これ自体に危険はありませんが、これから先、巨人に出会っても、礼儀正しく接するようにしてください」


 カミーユはクラリスと兵たちにそう指示した。


 命令は確実に伝わり、クラリスと兵たちは改めて兜の緒を締めた。


 さらに数日進むと、森は深くなり、悪路にあたった。


 ワゴンがガタゴトと揺れる。


 中に柔らかなクッションを敷いてあるが、エトナ姫の体調を思い、カミーユは休息を取ることにした。



「行軍やめ。休め。復唱」


「休め。休め。休め」


 カミーユの声に、散らばった騎士クラリスと兵たちが応える。



 カミーユは馬首を廻らせ、フローラを見やる。

「フローラ。一時間の休息を取ります。あなたもよく休みなさい」


 フローラは巨大なワゴンを操っている。一行の中で、最も疲労が激しい仕事である。


「はい。カミーユ様。お茶はハーブの方がよろしいでしょうか」


 そんな中でも、フローラはカミーユのお茶の心配をする。


「フローラ。私はあなたに休むように言いました。お茶の支度は侍女たちに任せて、あなたは休んでください」


 フローラは不満げであったが、カミーユは許さなかった。


 休憩中、カミーユは師、ゴダールが与えてくれた地図を確認する。


 地図によると、間も無く巨人の国が見えてくるはずだった。


 カミーユが地図を確かめながらお茶を飲んでいると、カミーユの体を流れる竜の血による鋭い聴覚に、遠く大きな足音が聞こえて来た。


 足音から察するに、五人はいるだろうか。


 カミーユは兵たちに伝える。


「巨人族と思われる足音が聞こえました。複数ですが、警戒されるといけません。私が先に向かいますので、あなた達はここで待機してください」


 カミーユの戰場での実力を知る兵たちは、その指示に従った。


 しかし、騎士クラリスは違った。


「危険です。ロラン男爵。巨人たちが何をするかわかりません。せめて護衛かつ伝令のための兵たちを数名お連れください」


 カミーユは答える。

「巨人たちを警戒させたくはありません。それに、騎士クラリス。あなた達は姫の護衛をよろしくお願いいたします。これは大切な任務です」


 騎士クラリスは答える。

「わかりました。姫をお守りいたします」


 さすがの騎士クラリスも、指揮官にそう言われれば引き下がるより他になかった。


 カミーユは愛馬に跨り、足音が聞こえる方向へ進む。


 先から、森の香りに混じって、獣の血の匂いが漂って来た。


 カミーユたちは更に歩を進める。


 すると、森の切れ目から、大きな体が見えた。


 今ここにいる大きな体は、一人のようだった。


 カミーユと同じく、様子を見に来た者かも知れなかった。


「こちらは人間の国の騎士カミーユ。カミーユ・ロラン男爵です。故あって巨人の国にお邪魔する。許していただきたいが、如何か」

 カミーユは、巨人語で呼びかけた。


 木々の向こうから、巨人族の返事がある。

「こちらは巨人族の戦士ダノン。人間の騎士カミーユよ。あなたは何故我々の言葉を使うのか」


「師に習いました。道行きを許していただきたいが、如何か」


 やや間があり、巨人族から返事があった。

「人間の騎士よ。師の名はなんと言う」

 異な問いであった。


 しかし、カミーユは答えた。

「ゴダール。大魔道師ゴダール。それが我が師の名です」


 巨人族の魔力に、戸惑いが混じる。 

「人間の騎士よ。師の名はゴダールに相違ないな」


 カミーユは凛として答える。

「はい。我が師は大魔道師ゴダール。誓ってその名は違えておりません」


 足音がして、木々の間から巨人族が姿を現した。


 カミーユは、人間の女性としては背の高い方であったが、その二倍は背丈があった。


 およそ、エトナ姫より二回りほど背の大きな男であった。


 背も高いが、その巨人は分厚い体をしていた。手が厚い。指が厚い。胸が厚い。首が厚い。脚が厚い。


 それらの肉が、しなやかに連動する様は、野生の猛獣を思わせた。


 これは尋常の戦士ではない。巨人族の中でも偉大な戦士に違いない。


 カミーユは確信を持ってそう思った。


「人間の騎士カミーユよ。歓迎しよう。ゴダールは我らの恩人である」

 そんな巨人から、友愛の言葉が発せられた。


「歓迎ありがとうございます。巨人族の戦士ダノン。私たちは、連れている貴人がいます。その方の案内を頼めますか」


 戦士ダノンはよく見ると、鋼でできた弓と矢筒を背負い、血で汚れた短剣、人間の大きさで言えば刀ほどの刃物を、腰帯に差していた。


 狩りで獲物を捕り、解体の途中であったのかもしれない。カミーユはそう思った。


 巨人の戦士は尋ねた。

「貴人とは何者か。何故、戦士ダノンにその案内を頼むのか」


 カミーユは答える。

「巨人族の姫、エトナ王女殿下をお連れしています。そして、戦士ダノン。あなたのお人柄は誠実な方であると思ったからです」


 戦士ダノンはムムムと唸った。

「騎士カミーユよ。事はそう容易くない事になった。エトナ姫の帰還は、密やかになさねばならない」


 騎士カミーユは凛と尋ねる。

「理由を教えていただきたい」


 戦士ダノンは手についた血を手拭いで拭いながら答える。


「エトナ姫は、今も王城へおられる事になっている。姫の帰還を衆目に晒すわけにはいかないのだ」


 カミーユは事態を理解した。


「わかりました。戦士ダノン。姫の密やかな帰還に協力いたします。姫の入城は夜がよろしいでしょうか」


 ダノンは頭を捻る。


「その方が良いだろう。父王ゾンネには戦士ダノンが話をしておく」


 どうやら、戦士ダノンは巨人族の王、ゾンネへの拝謁が叶う戦士だったようだ。


「戦士ダノン。では、私たちはここであなたの案内を待ちます。それでよろしいでしょうか」


「騎士カミーユ。ここで待つがよい。日が落ちる頃には、迎えに来る」


 そうして、騎士カミーユと戦士ダノンは出会った。

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