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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで
19/81

強制連行。法廷相談の主役、カミーユを連れ去るサラの情熱

 サラ・ハイアン侯爵からの早馬が来たのは、ビスタニオ子爵の館の脱出事件から、一週間が経った頃だった。


 王都では、早咲きの花が春風に揺れていた。


 カミーユは、中庭の見えるサンルームで、手紙にナイフを入れ、内容を確認した。

 手紙は二通あった。


 それらを読んだカミーユは微笑み、手紙を懐に仕舞った。


「カミーユ様。お知らせが何であったか、お伺いしてもよろしいでしょうか」


 フローラがおどおどと話す。

 主人の手紙の内容など、従者が知るべきではない。


 けれども、拉致事件の当事者として、その解決を見届けたいという好奇心が優った。


 カミーユは、そんな従者の様子を見て微笑んだ。

「侯爵閣下がいらっしゃいます。日時は一週間後。お持て成しの準備をお願いします」


 従者は襟を正し、立礼の構えを取る。


「かしこまりました。今すぐ手配し、万全に整えて見せます。あの、侯爵閣下は何名でお越しかお分かりになりますか」

 フローラは、張り切りつつも不安気に尋ねる。


 ここは王宮ではない。


 立派な侯爵閣下の一団が到着しても、入る間も無いかもしれない。


 カミーユは、自らの仕事を精一杯にこなす従者を愛おしく思う。

「安心してください。ハイアン侯爵閣下の御一行は、六名でいらっしゃいます」


 フローラは驚き反芻する。

「六名でございますか。それはあまりにも」


 少ない。


 侯爵閣下ほどの立場であれば、街中のちょっとした移動でも、二十名を上回る共周りが着くはずだった。


「はい。六名です。ですので、このサンルームでお迎えすることにいたしましょう。フローラ、そのように取り計らってください」

 カミーユはそう言うと、懐中の手紙をそっと撫でた。


 従者はすぐに退出し、忙しく屋敷を走り回っていた。


 サラ・ハイアン侯爵の手紙は、季節の挨拶と、来訪の日時と人員とが書かれたシンプルなものだった。


 言葉の代わりに、マーガレットの押し花が添えられていた。


 もう一通の手紙は、ロザリア・ハイアン侯爵令嬢からのものであった。


 それは、自身を招待しないカミーユをなじるものであり、カミーユと、どれほど会いたいかが、伝わってくる、いじらしいものだった。


 カミーユは家来に命じ、薔薇の花をロザリアに贈るように手筈した。

 もちろん、カミーユの手紙も添えさせる。


 それは、カミーユがロザリアに会いたく、しかしながら情勢が危険であり、あなたを危険に晒すことはできないと言う、その身を案じる内容だった。


 最後に、またあなたを抱いて、語り合いたい。と、言葉を締めた。



 侯爵閣下が来るまでの間、カミーユは修行に明け暮れた。


 朝は師ゴダールの元で瞑想をして過ごし、昼は剣士ローレンと共に剣を学んだ。


 剣士ローレンとの修行は、カミーユに懐いた巨人族のエトナ姫が、離れて見ているのが常だった。


 剣士ローレンは、散々カミーユを木剣で叩いた後に言葉を放った。

「カミーユ、お前は五感が鋭敏すぎる。だからそれに頼り、気配を感じることに鈍感だ」


「気配。ですか」

 カミーユは、剣士の言葉を反芻する。


「ああ、そうだ。この気配は、殺気とか、聴勁とか呼ばれるものだ。相手の動きは、もう相手がその動きを始めた頃にしか見ることはできない。だが、それじゃあ遅すぎる」

 ローレンは、木剣をカミーユの喉元に突きつける。


 カミーユは一歩も動くことはできなかった。


「気配は、攻めにも使える。今、俺はお前の気配の隙を付いた。人間誰しも気配の波を持っている。その弱ったところに剣を突きつければ、自ずとその剣は当たる」


 ローレンは言葉を続ける。

 この男は、カミーユが思っていた以上に、面倒見が良い男だった。


「カミーユ、まずは五感に頼るな。相手と己の気配を感じ取れるようになれ、この鍛錬は単純で退屈だ。それに」

 ローレンは言葉を切った。


 庭木は桃色の蕾を綻ばせようとしていた。


「カミーユ、この修練で、お前は獣の剣を失い、ただの見習い剣士に成り下がっちまうかもしれん」

 ローレンは、一度完成した武技を手放し、最初から作り上げる苦労を語った。


 カミーユは自らの願いを話す。

「構いません。私はもっと強くあり、皆を守ることができるようになりたいのです」


 ローレンは答える。

「そうかい。じゃあ、打ち合いの稽古はしばらくお預けだ。カミーユ、お前を三歳の、剣を握りたてのガキとして扱う。剣を一から叩き込む。まずは素振りだ。千本やるぞ、俺のやりざまを真似てみろ」


 そんな経緯で、カミーユは剣士ローレンの指導を受けた。



 こうしているうちに、一週間は瞬く間に過ぎた。


 カミーユは礼装に着替え、門の中で馬車を待つ。


 馬車の音が聞こえ、家来が侯爵閣下の来訪を告げると、カミーユはすぐに門の前に出て、サラ・ハイアン侯爵を歓迎した。


 サラの供回りは本当に五人しかおらず、御者と先導する騎兵二人、それと馬車に共に乗る家来と侍女が全てだった。


 カミーユは知らないが、騎兵二人はきっと名のある武芸者に違いない。


 カミーユはサラの手を取り、馬車から下ろす。

 その冷たく滑らかな指先は、カミーユの鼓動を高鳴らせた。


「カミーユ・ロラン男爵。当主自らの出迎え、感謝します」

 サラ・ハイアン侯爵閣下は、型通りの挨拶をした。


「侯爵閣下。荒屋ではございますが、精一杯のおもてなしをさせていただきます。どうぞこちらへ」


 カミーユは、侯爵閣下一行をサンルームへ案内した。


「あら、アーモンドの花が美しいわね」

 サラは、サンルームから見える木の花を褒めた。


「閣下の紹介くださった庭師が良い働きをしてくれています。さあ、どうぞこちらへ」


 カミーユは、サンルームのテーブルにサラを案内し、椅子をすすめ、座らせた。


 自身は向かいの席に座る。


「侯爵閣下、改めて、遠路お越しくださり、誠にありがとうございます」


「ロラン男爵、挨拶はそのくらいで良いわ。ここにいるものは安心できるもの達です。まずは子爵のことを教えてちょうだい」


 カミーユは冷静に答える。

 わ

「ビスタニオ子爵閣下は、当家にご逗留いただいております。我が家の縄をいたく気に入られ、身につけていらっしゃいます。また、健康にも気を使われておられ、とても塩分の少ないお食事を召されていらっしゃいます」


 サラ・ハイアン侯爵は、笑みを浮かべて頷いた。

「わかりました。子爵の手の者は来ましたか」


「はい。数度。これは子爵閣下のお忍びの逗留ゆえ、知らぬ存ぜぬでお帰りいただきました」


 サラはカミーユの仕業に舌を巻いた。とても男爵に成り立てのものの動きではない。


「ロラン男爵の応対に、子爵閣下もさぞやご満足なさっているでしょう。男爵はどこでそのようなことを学ばれたのか気になります」


「お恥ずかしながら、私は北方にて蛮族と武力による交流がございました。彼らの中では高貴なものもおりましたので、浅学ながら必死に考えた次第です」


「わかりました。ロラン男爵。ところで、ビスタニオ子爵の家を離れる時、女たちの中に、巨人の娘はいましたか」


 侯爵は、半ば確信を込めて尋ねた。


「はい。体がお弱りでしたので、当家にて英気を養っていただいております」


「その娘、名をエトナと言いませんでしたか」


 その名は当然カミーユも知っている。


 サラの意図を読むため、カミーユは尋ねる。

「はい。その少女が何か」


 侯爵は頭を押さえた。


「そのエトナは巨人族の姫です。巨人族たちと、我々ベラルーン王国は、友好関係にあります。その姫がビスタニオと言う小悪党に囚われていたとなれば、大事になります」


 カミーユはエトナ姫のことを思う。

 姫は素直に国に帰られるのだろうか。


「わかりました。エトナ姫は、奴隷商から直接お助けしたことにした方が、よろしいでしょうか」

 カミーユは提案する。


「そうね。そうなれば良いのだけれど。肝心の姫が子爵の話をしてしまったら水の泡のお話なのよ」

 ハイアン侯爵は、カミーユを頼った。


「かしこまりました。エトナ姫には、私から、ことの次第をお伝えし、必要があれば、お話を合わせていただくように頼みます」


 サラはカミーユの魅力を信頼している。

「任せたわよカミーユ。エトナ姫には、もうしばらくここ、ロラン男爵家に逗留いただきたいのだけど、構わないかしら」


「もちろんです。姫にはそうお伝えいたします」

 サンルームの光が柔らかにカミーユを照らしていた。


 サラの勘が働いた。

「あなた、もしかして、エトナ姫のこと、知っていたわね」


 カミーユは素直に答える。

「はい。ご本人からお伺い致しました」


 サラは呆れつつも確認する。

「それで、寝たの。寝てないの」


 カミーユは率直に答える。

「光栄にも慕われ、寝所を共にしたことがございます」


「あなた。そう言うセリフも嫌味にならないのは才能かしらね」

 サラ・ハイアン侯爵は、改めてカミーユを見つめた。


「カミーユ・ロラン男爵。あなたは今夜、我が家へ来なさい。明日執り行われる。真実の間。ビスタニオ子爵とあなたの審問会の打ち合わせが必要です」


 打ち合わせならばこの場でもできるだろうが、カミーユはそんなことを言う野暮ではなかった。


「お誘いありがとうございます。家内のものに申しつけます。このまま発たれますか」

 サラは答える。


「ええ、今すぐよ」


 サラは、自身の心がこれほどまでに乱されるとは、予想外のことであった。


 こうして、カミーユは、ハイアン侯爵家に向かった。

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