言葉の灯。巨人の姫が人間の国で初めて知った、自分を少女として扱う騎士の愛
カミーユ・ロラン男爵が王都の館での生活に慣れた頃。
ビスタニオ子爵家から助けた娘たちの大半は、ロラン家の侍女として働くことになっていた。
それは、攫われて久しいものは帰る家がなかったり、そもそも親に自身を売られ、帰る気がなかったりと事情は様々だった。
そして、カミーユが助けた娘のうち、館に馴染めない者がいた。
巨人の娘エトナ。
巨人とは言っても、屋敷に入ることはできる。
天井に頭がぶつかるくらいの背丈だった。
小春日和の日。
カミーユは、エトナを中庭に呼び、お茶会を催した。
庭の草花は綻び、春の香りが辺りを包んでいた。
エトナは俯いたまま、カップを摘んで握っている。
カミーユはおもむろに、巨人語で話しかけた。
「ご機嫌はいかがですか。エトナ。私の言葉は、わかりますか」
エトナは驚き、目を見開いた。
「わかります。あなたは何故、私達の言葉を話せるのですか」
エトナはカミーユに問いかけた。
「私の先生、ゴダールが、教えてくれました。エトナ。私はあなたの友達です。困ったこと、なんでも、相談してください」
エトナは涙を流して嗚咽する。
「ありがとう。カミーユ。私はこの国で、つらく、孤独でした。カミーユ。本当に友達になってくれますか」
「ありがとう。エトナ。もちろんです。私はあなたの友達です」
カミーユはエトナの体に精一杯手を伸ばし、抱きしめた。
「暖かい。ありがとう。カミーユ」
カミーユとエトナは、しばし抱き合っていた。
落ち着いた頃、カミーユがエトナに問う。
「エトナ。あなたは、なぜ、この国に、来たのですか」
エトナは悲しそうに答える。
「森にいたところを、野蛮な人間に襲われ、荷馬車に乗せられて運ばれたのです。薬を嗅がされました。父王ゾンネは、今も私のことを探していると思います」
カミーユはエトナの体を撫でる。エトナは巨人の姫であったのだ。
「わかりました。姫。もう、安心です。悪い、人間は、いません。ここには」
カミーユがそういうと、巨人の姫は涙を流してカミーユを抱きしめた。
カミーユは地面から足が離れたが、互いに不安はなかった。
エトナ姫はそれから、カミーユの後をついてくるようになった。
カミーユの朝の瞑想の頃は、エトナ姫はまだ寝ているが、朝食を食べてからは、エトナ姫はずっとカミーユについてくる。
カミーユが執務をしていても、窓からその姿を眺めているし、カミーユが剣士ローレンと木剣で打ち合っていても、ずっとそれを見ていた。
カミーユがほうっておくとベッドの中まで付いてくる。
自ずとカミーユとエトナ姫が話す機会は増え、カミーユの巨人語は堪能になっていった。
「エトナ姫、本日のお加減はいかがですか。暑さや寒さにお困りではありませんか」
剣の修行が終わる夕刻、春とは言え、この時間は寒さがしみる。
カミーユは巨人語で丁寧に尋ねた。
「大丈夫ですカミーユ。食事にも慣れました」
巨人族は肉を良く食す。
ここは王都の真ん中なので狩りに出る訳にもいかない。
パンや粥、野菜が主であり、肉は副菜として供されるのみである。
「ご不便をおかけして申し訳ありません。量が足りなければすぐに仰ってください。間も無く、かの子爵を糾弾する場が設けられます。それまではどうか当家に留まりください」
エトナ姫は、カミーユの手を取り抱きしめた。
「私は、カミーユの元を離れねばなりませんか。お側にいることは許されませんか」
カミーユは、エトナ姫の頭を抱きしめ、答える。
「もったいなきお言葉。誠にありがとうございます。私も、エトナ姫と離れたくはありません。されど、きっと、お父上がご心配なさっています。ことが落ち着けば、一度お国に帰るべきだと思います」
エトナ姫は身を縮める。巨人の仕草で不満を示すものだ。
「そうだわ。私がお父様の元へ帰る時、カミーユもついてくれば良いのです」
エトナ姫は、本当に良いことを思いついたと、笑顔でカミーユに語りかける。
「お誘いいただきありがとうございます。我が王が許せば、ぜひご一緒させて下さい」
やがて夜が来て、いつものようにカミーユのベッドにもぐりこむエトナ姫。
カミーユは俄にエトナ姫を力強く抱いた。姫は驚き、カミーユの体を掴む。
しかし、カミーユがあやすように手を撫でると、力は抜け、すぐにカミーユに身を任せた。
こうして、カミーユとエトナ姫は、親交を深めた。




