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剣と竜の世界に生まれて 〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜  作者: 林美鈴
爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで
15/80

鉄格子は技術で、心の鍵は気高さで。不器用な騎士と泥棒の脱出

 ビスタニオ子爵は満足げに美酒を呷った。


 あの、ハイアン侯爵の子飼いの男爵、カミーユ・ロランを捕らえることに成功したのだ。


 カミーユの爵位は武によって叙勲されたもの。

 不覚をとって行方不明になったとあれば、衛兵も王宮も早々に動くことはないだろう。


 そして、自分には最高の手駒がいる。


 魔法使い、邪術師カーペリオン。


 このものは、邪眼を用いて犠牲者に示唆を埋め込み、操ることができる。


 この示唆は、犠牲者自身が認識することはできず。予め定められた条件のもとでのみ、発現する。


 例えば、目標と二人きりになったら、相手を殺す。

 そのような暗殺者とすることも可能なのだ。


 初めはハイアン侯爵の末娘を使う予定であったが、使った手下達との行き違いで、娘を殺してしまいそうになり、その計画は頓挫した。


 しかし今、改めて、強力な手駒を手に入れたのだ。


 カミーユは、恐ろしい戦士だ。


 魔法の示唆を与えた上で、サラ・ハイアンの元に送り込めば、かの女の息の根を止めることができる。


 ビスタニオ子爵は、自らの完璧な計画に陶酔する。

 あとは果報を寝て待つだけなのだ。



 王都のビスタニオ子爵邸の地下には牢獄があった。


 これは、ビスタニオ子爵の邪な欲望を満たすべく、女たちを入れるために作られたものだ。


 異種族も入れられるよう、大きく、頑丈に作られている。


 カミーユは、一際頑丈な牢獄に入れられた。

 手枷足枷の先は、牢獄の中央の太い柱に繋がれている。


 監獄には、他にも何人か虜囚がいるようだったが、会話は聞こえなかった。


 カミーユの檻の側には看守がいる。

 カミーユは、まずは体力を温存しようと、その瞳を閉じた。


 何時間か経っただろうか、あの魔法使いが看守を連れてやってきたことに、カミーユは気がついた。


「カーペリオン様、お気をつけください。囚われの者。カミーユ卿、失礼。カミーユは、蛮族百人を討ち取る豪のものです」

 カミーユの勇名は、看守にまで響いていた。


「問題ない。あの手枷足枷は、アダマンタイトでできておる。巨人でも壊せぬよ」


 カミーユは瞳を閉じたまま、廊下の会話に耳を傾ける。


「わかりました。では、私はここで待機させていただきます。カーペリオン様、どうかお気をつけて」


「恐れすぎだ。相手は小娘だぞ。噂に踊らせられるな」

 カーペリオンは牢の中に入ってきた。


 カミーユは、気付かぬふりをして目を閉じる。


「起きよ。起きられよ。カミーユ卿」

 カミーユは目を開き、魔法使い、カーペリオンを見やる。


「おはようございます。魔法使いどの。今日はお一人なのですね」

 魔法使いカーペリオンは、余裕を持ったカミーユの態度に苛ついた。


「私のことは良いのです。カミーユ卿はご自分の心配をなさるがよろしい」


 そう言うと、魔法使いはカミーユと目を合わせる。


「我が名はカーペリオン。カミーユ・ロラン男爵。我が魔法に従属し、その心を差し出すのです」


 カーペリオンは魔法を使い、大仰にカミーユに語る。


「我が示唆を受け入れよ。カミーユ卿。サラ・ハイアン侯爵と出会った時、隙を見て彼女を亡き者とするのだ」

 魔法使いはカミーユに命じる。


 魔法使いは自身の魔力を瞳に集め、カミーユの心を侵食しようとする。


「さあ、我が示唆を受け入れるのです」


 カミーユは、魔法使いの瞳を見返した。

 同時に、自らに流れる竜の血から魔力を汲み上げ、全身に行き渡す。


 しばし時が過ぎた。

 魔法使いは息を吐く。


「そんな。有り得ぬ。我が魔力で侵食できぬ心など、あろうはずがない」

 魔法使いはヨロヨロと立ち上がる。

 呆然とし、自信を失っていた。


「カーペリオン様。お加減は大丈夫でしょうか」

 看守が魔法使いの身を案じる。


 カーペリオンは、今更ながら動揺を抑え込んだ。


「さすがは勇名轟くカミーユ卿。一日で魔法が掛かることはないようだ。時間がかかる。明日も続けると、ビスタニオ閣下にお伝えする。お前は看守の役割を果たすこと」


 カーペリオンは、階段を登ってゆく。看守も後に続いた。


 ビスタニオ子爵。


 看守と魔法使いが話す声から、カミーユはこの館の主人の名を知る。


 そして、看守が一時的にいなくなったことで、カミーユは鉄格子に近づき、牢獄の中を探索する。


 周囲に小さな心音が幾つか聞こえる。


 隣の牢獄と、正面の牢獄からはしっかりとした心音が聞こえた。


 なかでも、正面の心音はとても大きなものだった。

 見ると、毛布にくるまる姿も大きい。


 カミーユは小声で隣の存在に声をかける。


「聞こえますか。私はカミーユ。よろしければあなたのお名前を教えてください」


 隣で起き上がる音が聞こえる。

 隣り合った牢獄なので互いの顔は見えない。


「名前なんて聞いてどうするんだよ。墓に名前でも彫ってくれるのかい」


 カミーユは、少女の声に聞き覚えがあった。

「もしやあなたは、街道で盗賊に追われていた少女ではありませんか」


 少女の声から緊張感が解ける。

「ああ、あの時の騎士さんか。盗賊を押し付けちまって、すまなかったね」


「良いのです。あの、あなたのお名前は、ユマ様であっていますでしょうか」


 少女は身を震わせる。

「よせよ。様だなんて。寒イボが出るぜ。そうだよ私はユマ。曲がり指のユマ。様なんてつけて呼ぶんじゃねえぞ」


「わかりました。ユマ。あなたも捕まったのですね」

 カミーユは、久しぶりのまともな会話に安堵する。


「のんびりとした騎士さんだな。いいか、アタシたちは捕まっちまったんだぜ。すぐに縛り首になるかもしれないんだ。もっと悪けりゃ、あの子爵の慰みものだ」


 カミーユは、少女の気高い心を感じ取った。この少女は、自らの死よりも、尊厳を傷つけられることを嫌う気高さがある。


「ユマ。あなたはどのように捕まっていますか」


 ジャラリと音が鳴り、隣の鉄格子から、手枷のついた手が差し出される。


「これさ。手枷さえ無けりゃ、こんなところすぐに逃げ出してやるのに」


 カミーユは、尋ねる。

「手枷がなければ、逃れることができるのですか」


 ユマは答える。

「当たり前さ。アタシを誰だと思ってるんだい。曲がり指のユマと聞けば、その道の者たちは一目置くってもんさ。どんな鍵だって開けられるんだ」


 自信満々のユマに、カミーユは少し愉快な気持ちになる。


「ユマ。あなたの手枷を取ります。その代わりに、私の手枷、足枷を外していただけますか」


 ユマは訝しんで尋ねる。

「なんだいそりゃ。アタシの手枷を取れるなら、あんた、自分の手枷をとって、さっさと逃げればいいじゃないか」


 カミーユは、自身の手枷をジャラリと鳴らす。

「私の手枷はアダマンタイト製なのです。私では、これを外すことができないのです」


 ユマはため息をつく。

「あんた。よっぽど警戒されてるんだな。安心しな。仕掛けは変りゃしない。アタシの手枷を外してくれるんなら、あんたの手枷も外してやるよ」


「ありがとうございます。ユマ。それでは、鉄格子から、出来るだけ手を出して伸ばしてください」


 カミーユは自らの血から汲み上げた魔力を集める。


 そして、ユマの手枷に集中させ、両手の間を熱で焼き切った。


「熱っ。と、確かに切れたね。すごい魔法だ」

 ユマは感嘆の声を上げる。


「ちょっと待ってな」

 そして、カチャリと小さな音がして、ユマがカミーユの牢獄の前に現れる。


「うわ。本当にアダマンタイトの手枷だね。あんた一体何やったんだい」

 ユマは驚き尋ねる。


「どうやら陰謀に巻き込まれたようなのです。あ、一度牢獄に戻ってください。看守が来たようです」

 カミーユの聴覚が、看守の来訪を感じ取った。


「わかったよ。でもそれは大丈夫だ」

 ユマは、掴んだ毛布の切れ端に息を吹きかけた。


 すると、魔法の幻が現れる。ユマの姿は消え、隣の牢獄には変わらずユマの姿があった。


「アタシも少しだけ魔法は使えるんだ。看守をやり過ごすなんてわけないさ」

 そして、看守が現れる。


 カミーユとユマの牢屋の様子を見て、そのまま戻ってゆく。


「魔法とはすごいものなのですね」

 カミーユは感嘆の声を上げる。


「あんたがそれを言うかね。まあいいさ。入るよ」


 そう言うと、ユマは食器と釘で拵えたピッキングツールを使い、カミーユの牢屋の鍵を開けて中に入る。


 その見事な腕前に、カミーユは目を丸くする。

「何驚いてんだい。さあ、まずは足枷だ」


 ユマはアダマンタイト製の足枷に手を伸ばす。


 こちらも鍵があるかのようにカチャリと開く。

「次は手だね。ほら見せて」


 ユマはカミーユの手枷も簡単に外してしまう。


「ユマ。あなたがいたこと。救ってくれたことに感謝します」

 カミーユは立ち上がり、騎士の立礼をする。


「よせよ。お互い様だろ。で、これからどうするんだい。さっきの魔法で火事でも起こして、その隙に逃げるかい」


 カミーユは答える。

「逃げることは確かに行います。しかし、ここに囚われている人々も、救いたいと思います」


 ユマは驚き、カミーユの正気を疑う。

「アタシたちだけならともかく、長く捕まっている奴は無理だ。まともに歩くこともできなくなってる。もう一度言う。助けるのは無理だ」


 カミーユはユマの手を取る。


 ユマの手には、先ほどカミーユが手枷を焼き切った時にできた火傷がわずかに残っている。


 カミーユは自らの血から汲み上げた魔力をユマの手に注ぎ込んだ。

 火傷は消え、美しい皮膚が現れた。


「驚いた。これもあんたの魔法かい」


 カミーユは頷く。

「歩けない方、怪我をした方、心を病んだ方は、私が癒して差し上げます。皆ともに逃げましょう」


「わかったよ。そっちの牢獄には、巨人族の娘がいる。食事を抜かれて弱っちゃいるが、あんたの魔法なら治せるんだろう」


「わかりました。ユマ、皆を救う間は、あなたの魔法で私たちを隠してくださいね」


「ああ、わかったよ。カミーユ」


 カミーユは、次々と牢獄の格子を捻じ曲げ、中に入り、女性たちを救ってゆく。


 女性たちは身も心も酷く傷つき、それは哀れな様であった。


 カミーユは、彼女たちを抱きしめ、癒し、励ました。


 倒れた巨人の女性も救い。

 手枷を捻じ取る。

 巨人の女性の背丈は、天井に届いていた。


「アナタハ。タスケテ、クレルノ」


「はい。あなた方をお救いします。どうか私についてきてください」


 カミーユの凛々しい姿に、巨人の娘は涙を流す。


「アリガトウ。ワタシハ、エトナ。ハヤク、ソトニ、デタイ」


 こうして、カミーユと女泥棒ユマ、そして助けた女たちは、牢獄を脱出した。

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