"君"と"貴方" ー1ー
「私のコト、見たい?」
落ち着いた、しっとりとした声。透き通るようなその響きのなかに、僕は確かに生気を感じた。耳にかかる暖かい吐息に変な汗をかいてしまう。僕はドギマギしながら目のやり場に困った。
変な所に視線を向けていたらどうしよう、失礼はないか......
彼女は、透明だったから。
「ふふっ、貴方、まだ慣れないのね。こんなにも近くにいるのに姿は見えないなんて、ヤッパリ不思議よね......」
もう、時間がない。
「君に、伝えたいことがあって来たんだ」
彼女は少し目を見張った後、ふっと優しく微笑んだ。姿は見えないのに、わかってしまうんだ。
これは、僕が彼女と共に過ごした、16歳の夏休みの話だ。
夏のあのうっとうしい暑さの中、ふと脳に映し出される懐かしい日々や、大切な人との思い出ら自分という存在についての思考が止まらなくなるあの感じをまとめてみたくなって書きはじめました。




