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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君色のこころ

(なごむ)、今日遊び行っていい?」


一夏(いちか)が声をかけてくる。


「いいけど…」


けど。

いいんだけど。


「じゃあ一緒に帰ろう」


俺の手を取る一夏。もやっとする。嫌なわけじゃない。むしろ嬉しい。俺は一夏が好きだから。でも一夏にとって俺は“友達”。だったら友達らしくいてくれないと困る。


「手はいいだろ」

「えー、なんで」

「離せって」


ただでさえ一夏はかっこよくてモテるのに、こんなにベタベタしていたら視線が怖い。なにをやっても注目を集める一夏と、なにをしても普通で地味な俺。そんなふたりが、付き合っているわけでもないのにくっついているのはおかしい。一夏は誰にでも分け隔てなく優しいから、俺にも優しい。それだけ。だから勘違いしちゃいけない。

手を離させて並んで歩く。隣の一夏を少し見上げると、一夏も俺を見ている。


「なに?」

「一夏こそ、なに」

「別に?」

「ふーん」


視線に特別な意味を持たせたくなってしまうくらい俺は重症だ。すぐに目を逸らす。


「もうどっか向いちゃうの?」

「前見ないとあぶないだろ」

「そうだね」


また手を繋ごうとするから避ける。すぐ友達らしくないことをしようとする一夏。その度に俺がどんな気持ちになるかなんて知らないから、そういうことができる。そんなところも…憎いけど、好き。


「…一夏、また告白されてたな」


あ、嫌な話題振ってしまった。


「うん。気持ちは嬉しいんだけどね…」

「付き合うの?」

「断った」

「そう。…まあ、俺には関係ないけど」


本当は関係ないなんて思えないし、嫉妬する。俺が伝えられない気持ちをまっすぐぶつけられる人達が羨ましい。

だったら俺も伝えればいいんだけど、今の関係が壊れるのが怖くて言えない。


「和」

「なに」


この声の感じ…たぶん、また。


「和が好きだよ」


思わずちらりと一夏を見てしまう。すごく優しく微笑んで俺を見ている。これ、本当に苦しくなるからやめてほしい。


「ふーん」


“俺も一夏が好き”。


それが言えたらどんなに幸せだろう。でも俺と一夏は友達。一夏の向けてくれる気持ちが友達としての“好き”だってわかっているから素っ気ない返事をしてしまう。普通は友達にそんなこと言わないんだって、一夏は気付いていない。


帰宅して俺の部屋に一夏を連れて行く。麦茶を持ってきたら、部屋で一夏は床にごろんと横になっていた。


「一夏、眠いの?」

「暑くて疲れた。クーラー最高。学校の行き帰りヤバすぎ」


麦茶の入ったグラスをふたつローテーブルに置くと、一夏が身体を起こした。


「一年中夏休みでもよくない?」

「一年中夏とか無理。それより一夏…」


言いかけてはっとする。


「なに?」

「いや、なんでもない」


一夏、もうじき誕生日だな、って言いそうになった。そんなこといちいち覚えているっておかしいかもしれない。


「そう?」

「うん」


一夏が『いただきます』と麦茶を飲む。喉の動きをじっと見てしまった。


「和、映画観よ。俺が選ぶ」

「やだ」

「なんで?」

「一夏が選ぶ映画は信用できない」

「ひどいなぁ」


笑う一夏は能天気だ。一夏が選ぶ映画って、キスシーンとかベッドシーンが入っているものばかり。そういうの、気まずいから嫌だ。すぐ隣にいる一夏を意識してしまう。


「俺が選んでいいなら映画観ようか」

「和が選ぶの?」

「うん」

「選んで!」


わくわくと自分のスマホを差し出してくる一夏。更に能天気なことに、一夏のスマホの壁紙は俺と一夏で撮った写真だ。俺がこれを見る度にどんな気持ちになるか、わかっていない。


「これがいい」

「どれ? アニメ?」

「うん。嫌?」

「いいよ」


一夏が俺の肩を抱いて身体をくっつける。


「近いよ」

「だってスマホの画面小さいから近付かないとふたりで観れないじゃん」


ほらほら、とぐいぐい肩を寄せてくる。


「じゃあタブレットにしようか?」

「スマホでいーの」


わけわかんない。小さくて見づらいなら大きい画面にすればいいじゃん。どきどきしながらふたりで肩をくっつけて映画を観る。


「…ねえ、和」


少しして一夏が声を掛けてきた。


「なに」


スマホを見たまま答える。


「俺、もうじき誕生日なんだけど」

「……そうだっけ」


本当は知っているし、さっき言いそうになった。


「うん。それでさ、プレゼント欲しいんだけど」


プレゼントの催促? 一夏っぽくない。


「なにが欲しいの。高いものは無理だよ」

「値段なんてつけられないものが欲しい」

「なにそれ」


一夏を見ると、一夏も俺を見ている。真剣な瞳にどきどきする。値段のつけられないものってなんだ。


「和の恋人にして」


………。

聞き間違い?


「は?」


聞き返すと、一夏は真剣な瞳のまま俺をじっと見ている。


「和の友達じゃなくて、恋人になりたい」

「………」


なんで?

俺の気持ちがバレた?

いや、一夏が俺の恋人になりたいって…。


「もう和を友達として見るの無理。ずっと苦しかった」

「え…」

「和は全然俺に興味ないし、それなのに距離は近いから『友達らしくしてくれ』って何度も思った」


それは俺のほうだ。言葉が出てこない。

一夏は続ける。


「こんなにずっとそばにいてくれるってことは和も俺のこと好きなのかなって思って『好き』って言ってもスルーだし」

「それは……そうだろ」


だって友達でいないとって………え?


「俺、和が好きだよ。恋愛の意味で」

「………」

「だから誕生日に和の恋人になれる権利が欲しい」


なにを言っているんだろう。俺が一夏を恋人にする? 逆だろ。俺が一夏に恋人にしてもらうんじゃ……。


「返事はイエスしか聞かない」

「……横暴だな」

「そうしないと和は俺を意識してくれないから、めちゃくちゃ頑張ってる」

「なにそれ」


俺が一夏を意識しないなんて、それだけ気持ちを隠せていたのかと思うと嬉しいような寂しいような。おかしくなってきて笑いがこみ上げる。


「なんで笑ってんの? 俺、真剣なんだけど」

「自分の馬鹿さ加減がおかしいんだよ」

「は?」


知らなかった。一夏も俺と同じだったなんて、気付かなかった。こんなの答えは決まっているじゃないか。


「いいよ」

「え」

「今すぐ一夏の恋人になる」


抱きつくと一夏が固まった。顔を覗き込んでみたら真っ赤になってる。それが俺にもうつって、顔が熱くなっていく。


「俺をあげるよ」


一夏が更に頬を染める。真っ赤な状態からもっと赤くなっていてちょっと可愛い。俺の言葉が理解できない、というような顔をしている。


「和…は、俺が…好き、なの?」

「うん」

「いつから」

「仲良くするようになってからすぐ好きになった」


あっと言う間に一夏で心がいっぱいになった。ずっと一夏のことばかり考えていた。一夏しか頭になかった。


「……そういうことは早く言ってよ」

「一夏だって早く言ってくれれば、とっくに俺をあげてたよ」

「そういうことはあんまり言わないで」

「?」


早く言えと言ったり、あまり言うなと言ったり。なんなんだ、難しいな。


「俺、男なんだよ」

「知ってる。俺も男」

「だから和がそういうこと言うと、色々したくなっちゃう…」

「………」


色々。


「だから一夏の選ぶ映画ってキスシーンとかベッドシーンがあるの?」

「え?」

「俺、いつもふたりで観ててどきどきしてた」

「………」


一夏が俺の顔をじっと見て、それから身体を剥がされた。強引に。


「無理! 和、くっついちゃだめ!」

「なんで?」

「……俺の理性は豆腐よりも簡単に崩れることが今わかった」


わけがわからないからもう一回抱きついてみたら、一夏は逃げた。なんか寂しい。追いかけようとしたら遠くに逃げられた。


「だめ! 和、だめ!」

「じゃあ一夏からしてよ」

「え」

「一夏、抱き締めて?」


両手を広げて言ってみる。一夏は真っ赤だ。


「和ってそういう感じなの!? 心臓もたないんだけど!」

「そういう?」


そういうってなんだ。どういうのだ。わからないから、また抱きついてみた。一夏の心臓の音が聞こえるみたい。ぎゅっと力をこめたらまた俺を剥がそうと一夏がもがく。


「和!」

「……ずっと一夏が好きだった。友達らしくしてくれなくて腹が立つくらい」

「そんなの、俺もだよ…」


ふたりで笑って抱き締め合う。馬鹿みたい。ふたりで同じこと考えていたなんて…もっと早く素直になっていればよかった。


心がひとつになった。




END

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