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TASさんが帝国にやって来たようです



「帝国に着いた」

「……疲れたね」

「私も流石に肩と腕が痛い」


 鳥に運ばれていたのは、大体2〜3時間程度だったと思う。

 それから大きな鳥の巣が見えてきた所でお姉ちゃんの言った通りにロープが切れた。

 落ちて死ぬかと思ったけど、丁度落下地点にクッションみたいな植物が生えていたので助かりました。

 運が良いです。


 また鳥さんに襲われるんじゃとひやひやしました。

 お姉ちゃんによると、羊肉がお気に召したんだろうとの事です。


 それから小一時間程歩くと、道が見えてきました。

 商人さん達からよく使われているらしい遠回りする安全な道です。


 さらに歩く事数時間。

 日が暮れているけど、何とか私達は帝国に辿り着いたようです。

 門の前には入国希望者の列が並んでいます。

 その殆どが馬車でここに来た人達みたい。

 私達みたいで徒歩で来た人は珍しいのかな。


「まずは宿に泊まりたいなぁ」

「ああ、そうだな」


 そう言えば、私達は入国できるのかな。

 王国と帝国は、あまり仲が良くないって聞いたけど。

 門前払いされないか不安です。

 門の前に立っている衛兵さんも屈強そうだし。


 私の内心を知ってか知らないか、お姉ちゃんは列へと並びます。

 幸いにもあまり待たずに私達の順番がやってきました。


「入国理由は?」


 そう私達に問いかけたのは、目に隈があるくたびれた様子の男の人です。

 多分、入国審査官的な人なんだろう。

 帽子が格好良いけど、何だか疲れてそうです。


「王国からの移住です」

「一応聞くが行商手形は?」

「ない」

「なら、入国料を払って貰おう」


 お姉ちゃんはそれを聞いてすぐに金貨を一枚入国審査官さんに渡しました。

 行商手形は聞いた事があります。

 国を跨いで交易を行う商人には必要だとされるものなんだとか。


「……いいだろう。通れ」


 入国審査官さんはお姉ちゃんと渡された金貨を交互にまじまじと見つめながらそう言いました。

 多分、私達みたいな服装の子があっさりと高いお金を出した事が驚き何だと思う。

 とにかく、門前払いされなくて良かったよ。


「問題は起こさぬ様に。次!」


 審査官さんは業務を続けるみたいです。

 もう日が暮れてるのに、中々苦労しているみたい。

 あの様子だと長時間勤務を続けている様に見えます。


「あの宿に泊まるよ」

「え、あ、うん」


 いけないいけない。

 疲れてるんだから、考え事をしながら歩くと転けちゃいそう。

 今は早く暖かいお布団に包まれたいです。


 宿に入ると、恰幅の良いおばちゃんが受付をしていました。


「いらっしゃい、おや、お嬢ちゃんの二人組とは珍しい」

「一泊だけだ。ベッドは一つで良い」

「あいよ。丁度嬢ちゃん達で満室だったから運が良いねぇ」


 運が良いです。

 ……まさか、こんな細かい所までお姉ちゃんが調整しているのかな。


「今日はもう寝よう」

「うん……あっ」


 ぐぅ〜と音が鳴った。

 私のお腹の音だ。

 うう、恥ずかしい……


「あらあら、そっちの嬢ちゃんはお腹が空いてるみたいだね」

「悪いが何か食事を作って貰えないか?」

「お安い御用さ。疲れてるようだし、部屋に持って行くよ。特別にお代はサービスしといてあげるよ」

「あ、ありがとうございます」


 このおばちゃんは良い人みたい。


「その代わりと言っては何だけどさ……ちょいと今洗い物が溜まっててね。そっちの嬢ちゃん、手伝ってくれないかい?」


 ……おっと。

 それが本命?


「いいよ」


 お姉ちゃんは待っていたかのように台所の方へと向かって行きます。

 心無しか、ちょっとイキイキしてるようにも見えます。

 そんなに皿洗いが楽しみなんでしょうか?

 今は秋に入ったばかりくらいだけど、冬のお皿洗いは地獄なのに。


「ほほう、やる気だねぇ。それなら、遠慮なく頼もうかね」

「分かった」

「そっちのお嬢さんには、部屋の鍵を受け取りな」

「はい」


 私は一足先に泊まる部屋に向かいました。

 2階の一番端っこの部屋の扉を鍵を使って開けます。


 中はあまり広くない部屋ですが、清潔でとても綺麗に掃除されています。

 意外と高級宿なのかもしれません。

 ベッドの下を覗いても、埃一つないし。


 ふかふかのベッドの上に腰掛けて、お姉ちゃんを待とうかな。


 そう思ってベッドに触れようとした時。

 ドアが開く音がしました。

 そこには、何故か先程皿洗いをしに行ったばかりのお姉ちゃんがいました。


「お姉ちゃん、皿洗いはどうしたの?」

「全部終わった」

「は、早くない?」

「……終わってから気付いたけど、記録を更新できそうな箇所があった」


 これ以上早くなるの??

 そして、なんでちょっと悔しそうなの???


 やっぱりお姉ちゃんは変人です。




◆ ◆ ◆




 翌朝。

 私が目覚めた時には、お姉ちゃんは既に目覚めていました。

 何故か窓際で身体をほぐしています。

 あ、お姉ちゃん身体柔らかい。

 立ったまま手が足のつま先に届いてる。


「お姉ちゃん、おはよう」

「おはようアルタ。今日は働くよ」

「働くって?」


 お金を稼ぐだけなら、お姉ちゃんは賭博をやる筈。

 つまり、働くのはお金を稼ぐ事以外の目的があるに違いない。


「とにかく、下に降りよう」

「うん、分かった」


 お姉ちゃんと下に降りると、昨日も会ったおばちゃんが床掃除をしていました。

 朝早くから起きているようで感心します。


「おはようございます」

「ああ、おはよう!」


 おばちゃんは目をギラギラさせながら返事をしてくれました。

 な、なんでしょう。

 まるで獲物を目の前にした猛獣みたいな……


「昨日の手際、凄かったよ。嬢ちゃん、よければここで働かないかい?」

「生憎、当てがあるからお断りする」

「当て?」


 そう言って、お姉ちゃんは一枚の紙切れを取り出しました。

 そこには、「入国審査官募集中!」と書かれています。

 他にも「笑顔が絶えない」とか「アットホームな職場」とか……


 入国審査官って、昨日会ったあの?

 お姉ちゃんは、あの仕事をするの?

 あと、そのビザいつ手に入れたの?


「そうかい……気が向いたらいつでも来な。歓迎するよ」

「ああ、また来るかもしれない」


 それは昨日言っていた皿洗いのタイム更新とやらだろうか。

 なんとまあ、妙ちくりんな目的で宿に向かう人です。

 お姉ちゃんと一緒にいると、やっぱり楽しいよ。


「行くよ」

「う、うん」


 お姉ちゃん……なんかあの仕事、辞めた方が良い気がするよ。

 私の勘がそう言っています。

 だけど、その一方でお姉ちゃんだから大丈夫だって考えもあるんです。


 サッと宿を出てスタスタと歩くお姉ちゃんに連れ添いながら私は質問してみます。


「ねぇ、お姉ちゃん。なんでこの仕事なの?」

「この仕事が一番早く終わるからよ」

「一番早く終わる……? どう言う事?」

「あなたは無理に知らなくてもいいから」


 むむむ……これは良く無い傾向です。


 私の事を気遣ってくれているのは伝わっているんです。

 だけど、お姉ちゃんは抱え込む性格だから。

 私にも少しくらい荷物を預けてくれてもいいと思うんです。


 それと、自分だけ知ってるのはちょっと狡いです!


「教えて教えて教えて!」

「……しょうがないなぁ」


 ふふ、私の勝利です。


「私の次の目的は、皇帝と会う事よ」

「皇帝?」

「ええ」


 皇帝は分かる。

 要するに、帝国で一番偉い人だよね。

 でも、なんでその人に会う必要があるんだろうか。


「皇帝は、私達に協力的だから。それで皇帝の力を借りて……」

「力を借りて?」

「……ん、そろそろ着くから静かに」


 お姉ちゃんの視線を追うように横を向けば、昨日私達が通った関所があった。

 昨日の今日で戻って来るとは思いませんでした。


 お姉ちゃんは迷いの無い歩調でズカズカと進んでいます。

 速度こそ私に合わせていますけど、早く行きたそうです。

 【異能】を得てから、妙にせっかちになった気が……


 そして、お姉ちゃんは関所の扉をノックしました。

 数秒もしないうちにドアが開き、昨日も会った入国審査官が出て来ました。


「誰だ? いや、その顔は見覚えがある。昨日入国したやつか」

「士官を希望しに来た」

「……あのな。確かに人手は募集してるが、子供がこの仕事をできる訳ないだろうが」

「わ、私はともかくお姉ちゃんは成人済みですよ!」


 私はそう説得してみます。

 入国審査官さんが私の顔をマジマジと見ますが、やがて溜め息を吐きました。


「……嘘を付いてるようには見えないな。まあ仮に嘘でも手伝ってくれるならどうでもいいか」


 そう言いつつ、入国審査官さんは私達へ中に入るように促します。


 関所の中の部屋は長椅子と布団が置いてありました。

 この人、ここで寝泊まりしているみたい。

 しかし、家にも帰らずに職場で寝るなんて……労働環境が悪いのかな?


 後は洗ってない容器とか、予備のものらしき制服があります。

 テーブルの上には仕事道具らしき物がたくさん。

 それに、誰かから貰ったお土産なのか果物の詰め合わせが置いてある。

 割と整理されてはいるようです。


「それじゃ、よろしく頼む。俺はアゾームだ。二人の名前は?」

「私はアルタと言います」

「タス」

「……そっちは変わった名前だな」


 お姉ちゃんはそう言われても眉の毛一本も動かしません。

 以前から眉毛が直角になるくらい曲がってたのに。


「取り敢えず俺がやり方教えるから、その後は二人でやってみろ」

「いや、いい」

「あ?」

「一人でできる」


 お姉ちゃんの素っ気ない返しに、アゾームさんは不機嫌そうな表情になります。


「あのなぁ……上手く列を捌けなければ俺と家内の首が飛ぶんだぞ?」

「心配しないでいい。大丈夫だから」


 そう言って、お姉ちゃんは服掛けに掛かっている予備の帽子を被ります。


 あ、私も被りたかったのに。


次回 TASさんが入国審査官になるようです。

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