表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/61

TASさんが空の旅をするようです



「……それで、話はこれだけか?」

「いや。もう一つ頼みがある」

「聞こうじゃないか」

「ワイバーン便に乗ってくれ」

「それはまた、どうしてだよ?」

「私達はワイバーン便で東方面のディバーグ帝国に向かう。貴方は北方面に向かって欲しい」


 んー……?

 てっきり、一緒に来て欲しいと言うのかと思いましたがどうやら違うみたい。

 そんな事をする理由が分からないよ、お姉ちゃん。

 そう思ったのはトイチさんも同じらしく、不思議そうにしています。


「うーん……これだけお金貰ったんだから別に構わないんだが、理由を聞かせて欲しいな」

「ワイバーン便を利用する際、書類に記録が残る。私達が東方面に逃げたと思わせないように、書類をすり替えて追手を撒く」

「……君、本当に見た目通りの歳?」

「十五歳。発育が悪いのは認める」


 水浴びした後とか、いつも嘆いてたもんね……

 街のみんなにも、見た目の割にしっかりしてると良く言われてました。

 その度にお姉ちゃんは微妙な顔をしてたなぁ。


「なるほど……ところで、すり替えるってどうやるの?」

「私がなんとかする」

「……そうか。深くは聞かない事にするよ」

「助かる。では、そろそろ行こうか」




◆ ◆ ◆




 街外れにワイバーン便はありました。

 結構遠かったですが、歩いていたのは多分一時間くらいです。

 道中で水や食料を買ったりしたので、実はあんまり遠くないと思う。

 二階建ての建物の横に、たくさんの木造の小屋があります。

 小屋にはそれぞれ番号が振られているみたいです。


 ところで私、ワイバーンって見た事がないのです。

 一体どんな見た目なんでしょうか?

 私が知ってるのは、翼があって尻尾に毒があるって事くらいです。


 お姉ちゃんの話によると、ワイバーンは普段翼舎と呼ばれる小屋に待機させているらしいです。

 しかし、手前側に見える小屋の隙間からはワイバーンの姿が見えません。

 もしかしたら、もっと奥に行けば見えるかもしれませんね。


「ここがワイバーン便か……お貴族様しか使わないから、来るのは初めてだな」

「早く行くよ。そろそろ神父が私達の脱走に気付いて追手を放った頃よ」

「……何故それが分かるのかは聞かないでおくよ」


 私もトイチさんにならって聞かない事にしましょう。

 きっと、凄い感じの何かしらをしたんです。


「……いらっしゃいませ。何処に行かれますか?」


 建物に入ると、まるでお貴族様に仕える人みたいな服装をした人が出迎えてくれました。

 受付の人でしょうか。

 私達の姿を見て、心なしかあまり歓迎していないように見えます。

 笑顔を浮かべてはいるのに、なんだかそんな感じがします。


 中は見た目と違ってかなり小綺麗にしてありました。

 高そうな調度品も、あちこちに置かれています。

 正直に言うと、外観と内観に結構な差がある気がします。

 お貴族様が利用する場所だから綺麗に整えたかったけど、お金が足りなかったのでしょうか?


「私達はガスパールに、こっちのおっさんはアガーテに」

「……ご料金は?」

「ほら」

「ほれ」

 

 お姉ちゃんは数枚の白金貨を懐に入れて、残りの白金貨を渡します。

 トイチさんも同様です。

 その中身を確認すると受付の人は一瞬驚いた様な顔をしましたが、すぐに表情を戻します。


「了解致しました。すぐにワイバーンを用意させます。丁度、二頭待機中ですのですぐに出発できますよ」

「ああ、頼む……それにしてもこの部屋の調度品は素晴らしいな」

「え? あ、ああ……ありがとうございます」


 お姉ちゃんの突然と褒め言葉に一瞬驚いた受付の人ですが、満更でもないようです。

 私は違和感を覚えます。

 お姉ちゃんは、唐突にそんな事を言わないです。


 何でだろうと考えていたら、私は目撃しちゃいました。


 お姉ちゃんが、受付の人の手元に用紙を置いている事に。


 ……す、凄い。

 盗んだ瞬間がまるで分からなかったです。

 受付の人もまるで気付いていないみたい。

 お姉ちゃんが犯罪の道に足を踏み外しそうでちょっと怖いくらいだよ!


「では、それぞれ十一番舎と十二番舎にご案内します」

「ええ」

「分かった」


 受付の人……ではなく、別の人が案内してくれるようです。

 私達が乗るのは十二番の方だって。

 ワイバーンかぁ……乗り心地とかどうなのかなぁ。

 ん、ちょっと待って?


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

「何?」

「乗り物酔い大丈夫?」

「心配しないで。ワイバーン便には備品に酔い止め薬があるから」


 へー……そうなんだ。

 なら酔っても大丈夫かな?

 さっき受付の人に差し出した袋を返して貰う必要はないと。



 建物を出て先程見た小屋の間を歩きます。

 私達が乗るワイバーンの姿が小屋の間から見えてきました。


 身体の大半を覆っているのは、鼠みたいな体色に蛇みたいで硬そうな鱗です。

 鷹の様な鋭い目付きで、先端が鏃状になっている尻尾があります。

 前足は翼になっていて、皮膜はコウモリにちょっと似てる。

 身体全体に革製の鞍を装着されています。


 全体的に、どちらかと言うとカッコいい感じです。

 可愛さは……あんまりないです。


「キュルルルー」

「よしよし……」


 あ、鳴き声はちょっと可愛いかも。


 ワイバーンの頭を撫でている若い男の人がいる。

 ゴーグルを頭に付けていて、服のあちこちが汚れている。

 私達には気付いていないようで、何だか楽しそうな表情を浮かべています。

 この人と一緒に空の旅をする事になるのかな?


「……ゴルド、お客様だ」

「えっ、あっ……し、失礼しました!」


 ゴルドと呼ばれた人は、慌てて姿勢を正して私達に向き直ります。


「お、おほん! ご、ごきげんよう! 本日はお日柄も良く……」


 ゴルドさんは察しの悪い私でも分かる程に緊張しながら噛み噛みの挨拶をしました。

 変な汗も出てるし、視線は私達の方に向いてすらいません。

 流石に私でも、もう少しまともに挨拶ができると思います。


「違う、その挨拶はこの場では適切じゃない。まあ、この三名様はお貴族様じゃないからそこまで厳しく言わないけどな」

「あ、はい……ふぃ〜首が飛ぶかと思ったぜ〜」


 ゴルドさんは私達が偉い身分ではない事を知ってほっとした様子です。

 そう言えば、ワイバーン便はお貴族様ばかりが使うんでした。

 勘違いするのも無理はないです……私達の服装は平凡な町娘なんだけど。


「お前を貴族の前に晒す訳がないだろう。そんな事したら、利用客が半分以下に落ち込むだろうな」

「え、そこまで言います?」


 案内の人がやや辛辣気味です。

 何か事情でもあるのかな?

 まあ……私達にはあんまり関係ないよね。


「とにかく、お前はこの二人をアガーテまで運べ」

「はーい、了解しました。ではお二人さんはこちらにどうぞ」


 そう言ってゴルドさんはワイバーンの方へと私達を誘導します。

 ワイバーンは背を低くして私達が乗りやすいようにしてくれています。

 中々賢い生き物みたい。


「ああ。行くよアルタ」

「う、うん。よ、よろしくね? ワイバーンさん」


 私はワイバーンに挨拶をしてみました。

 ワイバーンは一瞬私の方を向きましたが、すぐに正面に向き直ります。

 なんだか仕事人みたいで格好良いです。

 人じゃないけど。


 早速、ワイバーンに触れてみます。

 意外とゴツゴツとしてないくて、滑らかな肌触りです。

 想像よりも触り心地が良くてびっくりしました。


「わぁ……」

「ふふん、エルフの肌触りは凄いだろう?」


 え、エルフ?

 あの、人の住むところから離れた森の奥深くに住んでるって言う?

 耳の長くて長生きな……人間には使えない魔法を使えるらしい、あの?


「種族名の方じゃなくて、この子の名前なのさ。古い言葉で十一って意味だよ」

「へー……そうなんだ」


 数字が名前、かぁ。


 私達姉妹の名前は捨てられていた時に付けていた名札から取っている。

 本名ではなく、名札の殆どが汚れて見えなかったのだ。

 辛うじて読めたのは「タス」と「アルタ」の部分。

 だから、私とお姉ちゃんの本当の名前は別にあるんだと思う。


 立派な名前じゃないけど、お姉ちゃんと違って私はこの名前を気に入っている。

 このワイバーンも、自分の名前を嫌ってなければいいと思いました。


 ワイバーンの背中に乗ります。

 前に座ったのはお姉ちゃんの方です。

 そのすぐ後ろに私が座っています。


「……よし、しっかり鞍に捕まってろよ? では、離陸だっ!」


 手綱を握ったゴルドさんが声を張り上げます。

 パチンと音が鳴ると、私は浮遊感を覚えました。


「わぁ〜〜〜〜!」


 飛んでる! 私達、今飛んでるよ!

 しかも、馬車よりもずっと速く動いてる!

 まるで風になったみたい!


「凄い凄い!」

「ふふん、そうだろう? この子は飛ぶ速さもウチの子の中では一番速い子だからね!」

「へぇ〜。これならたしかに、一日で到着できそう!」

「そうだな」


 お姉ちゃんは淡々とした返答です。

 表情は前を向いているから見えませんが、無表情な気がします。

 そう言えば酔い止めを飲んだ記憶が無いんだけど、大丈夫かな?


「お姉ちゃん、酔い止めは……」

「問題ない。どう動くかが分かっていれば、そうそう酔わない」

「お、姉の方は酔いやすい人か。なら、一応酔い止めが……あれ?」


 ゴルドさんは身体のあちこちのポケットを漁りますが、何も出て来ません。

 全部空っぽです。


「……酔い止め忘れちゃった。てへっ」

「だ、大丈夫お姉ちゃん? 一回戻る?」

「平気だ。寧ろ……いや、なんでもない」


 何やらお姉ちゃんが口を濁らせました。

 これはきっと、何か隠し事があります。


 お姉ちゃんの話によると、夜は途中の街で泊まるらしい。

 そして、翌朝に出発するらしい。

 その時にでも聞いてみようかな。


「いんやぁ、しっかし初めて俺お客様乗っけてるわー」

「え、そうなんですか?」


 ゴルドさんは、ワイバーンととても仲が良さそうだとは思ってました。

 結構昔から仕事してるんじゃないかなって。


「いや、ね? 俺って敬語が苦手じゃん? お客様の大半はお貴族様じゃん? だから普段はワイバーンの世話係してるのよ。と言うか、今では寧ろそっちがメイン業務だわな」

「はぇぇ、そうなんですね。ワイバーンさんも貴方に懐いてましたし」

「おっ、分かるかい? へへっ……嬢ちゃんになら、ワイバーンも懐くかもなぁ」


 おお、私がワイバーンと信頼関係を?

 うーん……たしかに興味がない事もないかも。

 空を飛んであちこち旅すると言うのも、案外素敵かもしれません。


 こうして私達は王都を旅立ち、故郷の街アガーテへと戻って行きました。


空旅とか言いつつ、殆ど移動中の描写はカットするつもりと言う……

TASさんに長いムービーは禁忌なのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ