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祈りを断ち切るお願い


「誰も、望んで……?」

「私は勿論、お姉ちゃんだって本当はそんな事望んでない筈だよ!」


 他人の為に自分を犠牲にする。

 とても感動的で美しい話だと思います。

 だけど……私は、そんなの望んでいないから。


 私は自分で思っていたよりも我儘なのかもしれません。


 お姉ちゃんは既に心が耐えられる限界まで到達しています。

 これ以上……苦しむくらいなら、いっそ終わりにしたい。

 私の幸福の方を優先しているけど……

 多分、そっちも本音なのでしょう。


 私はそんなお姉ちゃんの気持ちを踏み躙ってでも……願っているんです。

 何よりも大切な……既に叶っている、これからも叶え続ける願い事。

 お姉ちゃんと、いつまでも一緒に居たいと。


「お姉ちゃんが疲れたのは知ってるよ。だからって死ぬどころか存在そのものを消してしまうだなんて、私は認められない!」

「私の存在さえなければ……良い世界になるんだ。どうか、認めて欲しい」

「例えどんな楽園だって、お姉ちゃんが居なかったら意味がないの!」

「……自分の居場所が、地獄でもいいと?」

「お姉ちゃんと一緒なら、地獄でも冥府でも天国でも!」


 どんなに危険な場所でも、二人なら……きっと大丈夫だから。

 私は心からそう信じています。


「私が心から願う本当の幸せは、お姉ちゃんの一緒に居る事。それだけなの」

「……ずっと練り続けて来た計画を、全て手放せって言うの?」

「長い間、それしか考えてなかったんだよね」


 それを全て反故にしてしまうのは……耐え難い喪失感を伴うと思う。

 だけど、それが私の願いを止める理由にはならないから。

 私はこうして言葉を尽くしているんだ。


「私の百万回と、貴女の一回。どちらが重みがあるかなんて、比べるまでもない」

「重さはどうだっていいの。大事なのは……何かに縛られる事なく、心から願う事だよ」

「縛られる……?」

「私の幸せよりもお姉ちゃんの幸せを大切にして欲しいの。お姉ちゃんだって、本当は生きていたい筈だよ」

「私は……アルタが幸せなら……」


 ……そんなに私が心配なのかな。

 でも、きっと本音は別にあるんだと思います。


「私が幸せに笑ってる所……直接見なくて良いの?」

「え……」

「存在が消えちゃったら、きっと見れないよね」

「……別に、良い。私に居場所なんて、もう何処にもないから」


 ほんの少しだけれど……お姉ちゃんの心が、少し揺れたように感じました。

 自らの身を捨てているからこそ、そう言ったのだと思う。

 でも、本当はずっと見守っていたいんだ。

 自分の心に背いているお姉ちゃんの姿が……私はとても悲しい。


 もしかしたら、言葉では止められないのかもしれない。

 お姉ちゃんの歩みを止める方法なんて存在しない。

 進むと言う意志があれば、それだけでお姉ちゃんは何処までも行けるのだから……




 だったら、答えは一つだ。

 お姉ちゃんへの殺し文句は。




「お姉ちゃん。もう一回やってみない?」

「何をだ?」

「私の幸せ。それに加えて……お姉ちゃんの幸せ。それを両方叶える為の方法を、もう一度考えてみよう」

「……」


 心が折れているのかもしれません。

 もう生きたくないのかもしれません。

 お互いに譲れないのなら……

 これがきっと……唯一の方法だと思うんです。


 もう一度、始めてみよう。

 今度は、私の幸福だけじゃなくて……お姉ちゃん本人の幸福も含めて。


「私は、もう……」

「私の知ってるお姉ちゃんはね、どんなに無理難題でも否定だけはしなかったよ」

「……」


 お姉ちゃん記憶の中に出て来た昔の私が言っていた事。

 あの空の星を掴んでみたい……私自身も忘れていた、寝惚けて口にした夢。

 そんな夢すらも、内心はともあれ否定はしなかったお姉ちゃんなら。


「お姉ちゃん。自分だけのやり直しは既に無いんだ。これからは……頼りになるか分からないけど、私も居るから」

「……っ!」

「どんなに怖くたって、挫けそうで、逃げ出したくなっても……私はお姉ちゃんと一緒なら構わないよ」


 私には想像も出来ないような苦痛の毎日が訪れるかもしれません。

 地獄に落ちてしまったようだと後悔するかもしれません。

 それでも、お姉ちゃんと一緒なら。


「やり直さずに。今、これから変えて行こうよ。私達なら何処までだって行けるでしょ?」

「……」


 お姉ちゃんは黙ったまま目を見開いています。

 何を考えているのかは、分からないけど。

 ……多分、悩んでるんじゃないかな。


 私と一緒に居たいと言う気持ちは、痛い程伝わったから。

 もう一人で頑張らなくてもいいんだって。

 それだけは教えたかったんだ。


「私の幸せは、常にお姉ちゃんと共にあるから……無理難題だってのは分かってるよ。でもね、ここまで来れたんだから……やってみない?」

「でも、もう私は……」


 やり直しの中、擦り切れてしまったお姉ちゃん。

 私は……楽にしてあげたいとは、どうしても言えません。

 血は繋がらなくても、私とお姉ちゃんは家族だから。

 ずっとずっと、死ぬ時まで隣に居たいから。


 わがままかもしれません。

 だけど……

 

「大丈夫、ここまで来れたお姉ちゃんなら平気だって。それに、私が一緒だから実質二倍の速さだよ!」

「……そんな訳ないでしょ」

「検証は大事じゃない?」

「む、むぅ」


 試しもせず早々に結論を出すのは良くないよね。

 少なくとも、記憶の中ではお姉ちゃんは様々な事を検証していました。

 それなのに私が頼りないって決め付けるのはもちろん納得出来ません。

 頼った事なんて、今まで……記憶の中でも一回も無かった。


 だから、今この瞬間から。

 本当の意味でお姉ちゃんと共に。


「一人よりも二人の方が、ずっと暖かいんだよ」

「理屈じゃないけど……何でかな、身体に力が湧いて来る」


 お姉ちゃんだけが知っている世界だったとしても。

 独りで戦う必要はないんだ。

 それに気付いてさえくれたなら……もう大丈夫だろう。


「それじゃ改めて……お願い、お姉ちゃん。私と一緒に、誰もが幸せになれる道を見つけよう!」


 私はお茶目にウィンクして見せます。

 お姉ちゃんはやや呆れたように笑いました。


「……敵わないな、私の天使には」

「私は天使じゃないよ。小悪魔くらいが私に似合ってる」


 こうしてお姉ちゃんを口先で頑張って誑かしてたんだし。

 旅が始まる前よりも、とっても悪い子になってしまいました。

 でも、それは世界をより深く知る為に必要な対価だったから。


「いや、それは無いけど……まあ、いいか」


 お姉ちゃんは持っていたネックレスを気絶しているザミエルさんに投げ付けました。


「……っ!?」


 ネックレスはザミエルさんの額に突き刺さるように命中しました。

 苦悶の声をあげながらザミエルさんが目を覚まします。

 ……そんな酷い事しなくても。


「お前は……妹まで来たのか」

「それは返す」

「……何が目的なのだ、お前は」

「姉の目的なんて、いつだって一つだろうに」


 ふふん、と得意げに笑いながらお姉ちゃんはスタスタと部屋から出て行きました。

 私も行こうかと思ったのですが、ちょっとザミエルさんの事が気に掛かります。


「口止めとかしなくていいの?」

「また来たとしても返り討ちに出来るからね」

「あ、そう言う……?」

「好き勝手言ってくれる……まあ、いい」


 ザミエルさんはふらつきながらも立ち上がります。

 敵意は無いみたい。


「本来なら、知り過ぎたらしいお前を放置したくはないのだがな」

「心配しなくとも、言いふらす気は微塵もない」

「メフィーと敵対した奴を放置したくはないが……致し方ない」


 えっと……よく分からないけど、諦めてくれるみたい。

 襲われた後にそう言えるのは、何と言うか……優しい?

 メフィーさんについては大変申し訳ないんだけど……

 本人ではなかったらしいからいい……のかなぁ。


「ただし、お前が以前の人類と同じ轍を踏むようなら……覚悟しろ」

「分かってる。例え魔王に成り果てようとも、それだけは約束しよう」

「……私も、やり方を少し変える必要があるだろうか」


 遠い景色を眺めるようにしながら、何かを考え込むザミエルさん。

 ……この人も何か、少し雰囲気が普通の人と違う気がします。

 初めて会った時は落ち着いた人だなぁって感想でしたけど。

 今は……浮世離れしていると言うか。

 ある意味、お姉ちゃんに似ているかもしれません。


 それと、以前の人類って何?

 ああもう、まだ聞きたい事が出来ちゃったよ。


「色々と後始末をしなくてはならないか……」

「それはこちらで済ませておく。それから、今皇帝が王と話をしている所だろう」

「……本当か?」

「ああ」


 信じられないと言った顔でお姉ちゃんを見つめるザミエルさん。

 まあ、うん。

 そりゃ敵国のトップが来てるとか言われても信用ならないよね。


「報告が妙に滞っていたりと、何かある気はしたが……」

「色々とこの国も変わるかもしれない」

「具体的には?」

「実際に見た方が早いだろう……きっと、すぐ見られるだろうから」


 心なしか浮ついた様子でお姉ちゃんはそう話します。

 ザミエルさんは難しい顔で再び考え込み出します。


「……あの、何か納得出来ない事でも?」

「私の部下達は皆どうなったのか、と」

「リーダー格は一応全員生きてはいるよ。一人を除いて」


 ……皇帝陛下の息子以外は、ですね。


「いや、あいつは元々死んでたが【異能】が発現して動いていた稀有な例だが」

「え、そうだったんですか!?」


 初耳なんですけど!?


「しかも、フライクーゲルの服用ではなく後天的に【異能】を獲得したようだからな。配下に加えるついでに色々と監視をしていたのだが……」

「監視?」

「……君は知らないのだな。なら、そのままでいい」

「気になるんですけど……」


 何の理由で監視をしていたのか理由が知りたいです。

 ……でも、きっとこれも知らない方が幸せだとお姉ちゃんは言いそうです。


「それを知るのは我々だけだ……そう思っていたのだが、とんでもないバグが発生したものだよ」

「バグ?」

「……気にするな」

「口にしたんだから説明してくださいよ気になるじゃないですかぁ!」


 何で誰も彼も匂わせるだけ匂わせて詳しく説明しないの……?


 色々と気になる点は残ってますけれど……

 ようやく、一段落ついたって感じです。



次回、エピローグです。


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