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覚悟


「うっ……!?」


 この液体まっずい!?

 臭いはまるでしないのに吐きたくなってくる……

 渋味と苦味と酸味が不調和していて気持ち悪い。

 何だろう、ギトギトの腐った油でも直接飲んでいるような気分……


「お前……」

「ちょっと、それ下手したら死ぬんじゃ……?」

「ぶふぅ!?」


 え、死んじゃうの!?


「一口が適量だと聞いております。コールターネ王女はご存知なかったのですわね……」

「は、早く言ってよ!?」


 私もう三口くらい飲んじゃったよ!?

 飲む前に止めてよ……って、私がいきなり飲んだのも悪いか。

 わ、私の身体に何か異常は……


「……特に肉体には変化は見られないな」

「じゃあきっと精神がおかしくなったのですわ」

「ワタシ、アナタ、マルカジリ」

「ギャアァァァァァァァァァ!? 人喰いに目覚めたんですの!?」

「冗談だよ……」


 うん、特に変化は感じられない。

 これは失敗だったのかな……

 手をにぎにぎしたり軽く跳ねたりしてみたけど、普段通りでした。


「異常が見られないなら、【異能】は得られなかった可能性が高いです」

「ぜ、絶対得られていない訳じゃないんですか?」


 もし何も変化が無かったとしたら、折角覚悟したのに意味ないじゃん!


「い、一応希少ですが特定の状況にのみ適応される【異能】を得た場合はその状況に陥った際に身体の異常が出ると聞きました」

「仮に【異能】を得られたとしても、どうにもならないだろうに」

「……」

「それは覚悟とは言わない。ただの自棄だ」


 否定できない……

 付け焼き刃だってのは私でも理解しているんです。

 それすらも失敗したみたいだし、もう私がお姉ちゃんの所に向かう事は出来ないんだと思います。

 スマイリーさんが、諦めてくれない限りは。


「…覚悟って、何なんですか。小指でも切れば良いんですか!」

「それは違うだろう……」

「足りないなら片腕でも持って行けば良いじゃないですか……私は、どうしても、行きたいんです。スマイリーさんは私の事を止めたいんですか!?」

「さて、な」


 肝心なところをはぐらかして……

 これだから大人は!


「ハッキリ言ってください。何をしたら私を通してくれますか?」

「何をどうしようが通さない。私と言う存在に賭けて」

「だったら、私も私と言う存在に賭けてここを通ります。こんな所で足踏みしてる暇なんか……」

「……お前じゃ無理だ」

「何が無理なんですか!」


 何を知ってるのは分かるのに、具体的にそれがどんなものなのか分からない……

 私に教えたくない……そんな気持ちが伝わって来ます。

 そんなにも、私は……頼りないのかな。


「私が出来る事なんか何もないのは分かっているんです。それでも、お姉ちゃんの妹は私しか居ないから……私が行かなくちゃ駄目なんです」

「私だってお姉様の妹ですわ!」

「黙ってくれない?」

「あ、はい……」


 私はスマイリーさんに再び語りかけます。

 どうか、私の思いの丈が少しでも心に響くように。


「お姉ちゃんの隣に立ちたいんです。昔よりもその背中ぎちょっぴり遠くなっちゃいましたから……」

「あいつの隣には誰も付いて行けないだろう。私でさえも、あいつは置き去りにして行くのだから」

「それだと……お姉ちゃんは独りぼっちじゃないですか。そんなの、私は絶対にイヤです」

「……隣に立ちたい、か」


 少し……ほんの少しだけ、スマイリーさんは寂寥感のある表情を見せました。


「スマイリーさんは何故、私を止めるんですか。お姉ちゃんに言われている以外にも、何が理由があるんじゃないですか」

「そうだな。あいつは俺達にも利益のある提案をした。だから俺はそれを守ると約束したんだ」

「約束は大事なのは分かります。それは本当に価値のある約束なのか……よく考えて欲しいんです」

「……価値はこの際重要じゃないんだ。俺はその約束を破ってはならない」


 破ってはならない……?


「それは、報復を恐れて、とか……?」

「例え俺が一度でも破れば、あいつは俺を見捨てるだろうよ」

「それは、どう言う……」

「あいつは未来を見通せる。俺が約束を破れば、あいつはそれを察知する。つまりはそう言う事だ」


 ……お姉ちゃん相手に嘘や裏切りは不可能って事なんだ。

 どんなに巧妙に騙したって、お姉ちゃんには通用しない。

 だからと言って、諦める理由にはしたくない……


「だから私に諦めて欲しい……と?」

「そうだ」

「私がその結果、どうなろうとも?」

「……」


 スマイリーさんは目を瞑り、黙り込みました。

 何となくだけどこの人の考えが分かった気がします。

 私がどうのようになるかはさておき、自分の利益を優先しているんだと思います。

 目の前の私とその約束で得られる結果を天秤に掛けている。

 そんな風に見えました。


 スマイリーさんの天秤は、既に凝り固められて動かなくなっています。

 それがこの人なりの事情があってそうなっているのは分かりますが……

 そんなに約束が大切だなんて、一体どんな内容なんだろう?

 元から気になっていたけど、更に知りたくなりました。


「その約束は、皇帝陛下もご存知ですか?」

「いや……知らせてない」

「知らせてない、ですか」


 その言い方は……まるで。


「不都合だから伝えてないような言い方ですね」

「実際、そうだ。あいつは陛下にも口外しないように釘を刺して来た。私自身、それに納得している」


 スマイリーさんは皇帝陛下とかなり親しい間柄に見えました。

 長く付き合ってきて、今更裏切るとかそんな愚行はしない筈です。

 そこから考えるに……


「皇帝陛下に言うと、止められるから……ですか」

「……驚いたな。最初に会った時は姉と違って平凡な町娘にしか見えなかったのは、やはり私の目が曇っていたようだな」

「要らない褒め言葉ですよ」

「それもそうだな。お前もどれだけ成長するか、興味があったのだが……それも無意味か」


 僅かに気になる言い方ですが……それよりも、早く行かなくちゃ間に合わないかもしれません。

 いい加減焦燥感が抑え切れなくなって来ました。

 私に戦える力があったら、スマイリーさんをはっ倒して無理矢理押し通っているところです。


「お前が心配しなくても、お前が不幸な結末を迎える事は決してない。だから……」

「……最近、よく思うんです。私、誰かに渡された幸福って返さないと気が済まないんですよ」


 お姉ちゃんは……今でも私の為に動いているんだと思う。

 だけど、それでお姉ちゃんがそれでどうなるのかが不透明なんです。

 お姉ちゃんならどうせ無傷だったりするんだろうとは思うけど……


「今までお姉ちゃんにして貰った全ての事に対するお礼をしたいんです」

「……」

「それでも通してくれないんですか」

「……ああ」


 分かってはいたけれど、頑固な人です。

 いっそ、皇帝陛下に説得して貰いたいけど……

 残念ながらそれも分かっているのかスマイリーさんは行かさないようにしてきます。

 ……手詰まりなのかな、これで。


 私が諦め掛けた、その時でした。


「諦めが悪いのはお前の美徳だと思うが、どうにもならない事が世界には溢れて——」


 スマイリーさんが私に言い聞かせるように話している途中。





 ……世界が、止まりました。





 それどころじゃなく、目に映る全てが白黒になって……


「(何、コレ)」


 身体は全く動かず、声も出せません。

 呼吸もしていないのに、苦しいとかそんな感覚は一切なくて。

 助けを求めようともがいても……何も出来ませんでした。


 私以外にも……その場に全員居た全員が動きません。

 それどころか、あらゆる全ての物が停止したかのようです。

 外から入ってくる風の音すらも止まっていました。


 まるで、絵画の一部になってしまったみたいな……そんな感じでした。


 私が困惑していると、この全てが止まった静止の世界に動きがありました。

 意思していないにも関わらず、私の身体も……何もかもが動いているんです。

 スマイリーさんも、デシンクちゃんも、ムヴィエちゃんも……少しずつ。

 音も聞こえました……何を言っているのかは上手く聞き取れませんでしたが。


 ……やがて、私の視界に色が戻りました。

 すると、皇帝陛下と国王陛下が目の前で話をしていました。

 それも……聞き覚えのある会話を。


「ディバルグ帝国皇帝、ヴォルクラッヘ・フェル・ディバルグだ」

「……すまない、よく聞こえなかったからもう一度頼めるだろうか?」


 この、会話は……!?


 私が既視感を覚えると同時に、皇帝陛下が机の角をスパンと切り落としました。

 見覚えのある……と言うか、ついさっき見た光景だ!

 なんでこのような事が起きて……


「帝国の長だよ。次何か妙な事言い出したらこの机と同じになると思え」


 ……やっぱり間違いない。

 ほぼ直近の記憶だから覚えている。

 と言うか忘れようがない。


 原因は全く検討も付かないけど、これだけはたしかだ。




 私は、十分程前の過去に時間を遡った……!




「……そう言う事だ。スマイリーもアルタも下がれ」


 あ、ちょっと考えている間に話が進んでたみたい。

 ……あれ?

 なんか、頭がくらくらするような……


「……おい、アルタ。大丈夫か!?」

「えっ? えっと……」


 皇帝陛下の大きな声に驚いて、私は言葉を詰まらせてしまいました。

 もし、私がほんの少しだけ過去を遡ったのだとしたら……おかしいです。

 こんな事、皇帝陛下は言いませんでした。

 それも、こんな切迫した表情と声で……


「大丈夫って、何がですか?」

「おまっ、流石に気付けよそれは!」


 何の事だろうとぼんやりとしていると。

 私の足の上にポタポタと液体が垂れているのに気が付きました。


 いえ、それどころじゃありません。

 なんと床には……水溜まりと言える程の血溜まりが出来ていました。

 その血は私の顔……多分、鼻から垂れているのに気付いて。


「う……あ」


 一瞬、視界が点滅して……身体がぐらりと傾くのを感じました。


「アルタ!?」

「貴女、しっかりなさい!」


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