表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/61

血の繋がり




「この、程度で……俺の怨恨がっ……途絶える訳がない、だろうが!」


 起き上がりながら、怨嗟を撒き散らすかのように此方を睨むグリムさん。

 満身創痍かとも思われましたが、まだ戦える気力があるなんて……

 憎しみと言うのは、どれだけ人に立ち上がる力を与えるんだろう。


「お前ら、来い!」

「っ、何をする気だ……?」


 屍兵達が浮き上がりながら、グリムさんの元へと集まって行きます。

 大半の兵士はスマイリーさんの部下達の活躍で倒されていた筈ですが……

 まさか、【異能】でそんな事まで出来るなんて!

 でも、何の為にこんな事を……?


「俺の憎悪は終わらない……終わらせてはならないんだ……!」


 グリムさんの近くまで来た屍兵達は、身体が崩れ始めます。

 更に、表面が全て腐った肉のような気持ち悪い見た目に変わって行きます。

 それと同時に、今までしなかった鼻をつかんばかりの腐臭が辺りに漂いました。

 【異能】で繕っていた外面が剥がれていってるの……?


「おぇ……吐き気が、止まらない……」


 今まで嗅いだ事のない程の不快な臭いに、鼻が曲がってしまいそう……

 デシンクちゃんは耐えられなかったのか、泡を吹いて気を失っていました。

 私だってギリギリで決壊しそうなのを必死に耐えてるんです。


「共に行こう。今度こそ、永遠に……」


 ミモザさんを始めとした屍兵達の肉体が、グリムさんを中心に一つの大きな肉塊に……

 その姿は言葉にするにはとても醜悪で……もう、この存在をなんと表現したらいいのか。

 私にはもう分かりませんでした。


 それは、うねうねと蠢いた後に四足獣のような化け物の姿をとりました。

 本来頭がある部分には、四肢を除いた全身が見えるグリムさんと頭だけになったミモザさんが居ました。

 この二人は首の部分で身体が同化していて、頭が二つあるようにも見えます。

 その周囲は誰のものかも分からない手や足、内臓や骨がぎっしりと敷き詰められています。

 見た目だけなら脳に近いですが、本日は全く異なる物なのがはっきりと分かりました。


 血が流れていないのに、無意義に鼓動を続ける心臓。

 ぷしゅーと間抜けな音を立て、無意味に空気を排出する肺。

 複数人の血管が混ざり合い、太い一本の管になった尻尾。

 体毛の代わりに生えている、長さも色も不揃いな髪の毛。

 化け物の接地している四足には持ち主から剥がれ、びっしりと生え揃った爪。

 身体中に生え揃う眼や口、鼻や耳。

 所々肉や骨が露出した、継ぎ接ぎだらけの皮膚。

 


 ……全貌どころか、その一部を見るだけで頭がおかしくなりそうでした。



「なんだ、あれは……身体の全てが屍兵で出来ている、のか?」


 流石のスマイリーさんも動揺を隠せないのか、驚いた表情を見せました。

 皇帝陛下に至っては言葉もないのか、ただただ呆然としています。

 スマイリーさんの部下の人達の中には、吐き気を抑えきれなかった人もいました。


 ……この醜悪な化け物の存在を見て、私が言えるのは一つです。






 これは、絶対にこの世に存在しちゃ駄目だ……






 グリムさんの声がします。

 この化け物の全身にある、ありとあらゆる口から。

 男女の入り混じった聞き取り難い声……


「俺とクソ野郎は血縁で……だからこんなにも似ているのだと思っていた。復讐に心を焦がして、他の物を切り捨てて行くろくでなしだと……なのに……なんだよ、そのまともそうな顔は……」

「リーベバンデ……」


「断ち切りたかった……俺に流れている醜く呪われた血を。そうしたら、このクソみたいな気分を捨てられると信じて、ただ非情に徹した……それなのに……結局俺だけがクソッタレな気分のままだ……」


 この人はただ、楽になりたくて。

 感情の捌け口を探しているだけ……なのかもしれません。

 辛い気持ちから解放されたいと思うのは、決して悪い事じゃない筈です。

 だけど……


「俺がこんな奴と家族だなんて認めたくなくて……それでも現実を否定出来なくて。だけど、この野郎は俺を置いて行く……結局の所、俺は最初から一人で転がり落ちただけだ……」

「あの時は見捨ててしまったが、今もそうするとは一言も言ってないぞ!」


 皇帝陛下は悲痛な面持ちでそう語りかけます。

 しかし……グリムさんに声は届いていないようでした。


「俺の為に俺が出来た事は……苦しみが少しでも軽くなるよう、ただ……慰めの言葉を言い聞かせる事だけだった。それも……もういい。それでも、もし俺に同情してくれる奴がいるのなら……」


 泣きそうな顔をしながら、グリムさんが口にしたのは……


「俺とこの痛みを分かち合ってくれ。そうすれば、この痛みも少しは和らぐだろうから」


 化け物が慟哭のような咆哮をあげました。

 この怖気の走る感覚……ああ、何度目なのかな……


 化け物は身体に触れた木を取り込むと、その身体からその木が生えてきました。

 まさか、触れた物全てと融合する……?

 その化け物の歩いた後には草が生えていませんでした。

 よく見ると、化け物のあちこちから草が生えていました。


 …………


「す、スマイリーさん! あれは無理ですって、逃げましょう!」


 こ、怖い!

 凄く怖い!

 見た目も相まって今すぐに逃げ出したくなります!


「……ああ、我々は陛下を守りながら後退する」

「我々って……」


 ふと気付くと、化け物を私達から遮るようにお姉ちゃんが立っていました。

 何の迷いもない、真っ直ぐな立ち姿は頼りになるけど……

 何処となく、お姉ちゃんが珍しく……本当に珍しく怒っているような気がしました。

 いえ、これは怒っていると言うよりも……嫌悪感?


「血の繋がりは何処に行こうが付き纏い、それを捨てる事は決して出来ない。逆も然り、血の繋がりはどれだけ足掻こうが手に入らない。例え、私であっても」


 魔銃を化け物に向けながら、まるで言い聞かせるような口調で淡々とそう語ります。


「だからと言って、どうこうって訳じゃないけど……まぁ、うん」


 困ったように背後を見て、また前へ向き直り。


「……これ以上はタイムロスだね」




 ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ 

 ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ

 ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ

 ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ 

 ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ

 ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ

 ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ 



 ……数え切れない程の銃声が響き、数多の魔弾が化け物の全身を貫きました。

 一瞬にして蜂の巣になった化け物は身体が崩れ落ちて行きます。

 あっという間の出来事過ぎて、私はポカーンとしてしまいました。


「……後退する暇も無かったな」

「嘘だろ……はっ、リーベバンデは!?」


 呆然としていた皇帝陛下でしたが、崩れ落ちた残骸の中にグリムさんの姿を見つけると立ちあがろうとします。


「お姉ちゃん、終わったの?」

「うん」

「……その、倒した感想は?」

「的」


 ……あれを的呼ばわりするのなんてお姉ちゃんだけだよ!

 吐きそうなくらい気持ち悪かったのに……

 お姉ちゃんにしては相手に対して何かしら思う所があったような、無いような……不思議な感じ。


 それと……


「その、銃身がとんでもない事になってない?」

「熱い」


 うん、だよね。

 だって持ち手の所まで真っ赤になってるもん。

 もしかしなくても壊れたんじゃ……


「撃てるのは後一発だね」

「そう、なんだ」


 平然としてるけど……なんだかなぁ。

 武器を使い捨てにしてるのはあまり良い気分じゃない、かな。


「くそ、身体が言う事聞かねぇ……」

「肩を貸しましょうか?」

「要らん。この程度なら、まだ何とかなる」


 スマイリーさんの提案を断った皇帝陛下は、辛そうにグリムさんの倒れているところまで歩きます。

 ……意地張ってないで、素直に肩を貸して貰えば良かったのに。


「あれは男の……いや、違うか。親のプライドって奴なんだろうよ」

「と言うと?」

「これ以上情けない姿を見せたくないんだろう。私には子は居ないからあくまで推測だが」


 ……そう言うものなんでしょうか?


「……ああ、結局俺の行動は無意味だったんだな」


 皇帝陛下が辿り着く前に、グリムさんはのろのろと起き上がってその場に座り込みました。

 浮かんでいる表情はかなり暗いです。

 憎悪に塗れていた時よりかはマシかもしれませんが……


「誰も彼もが俺を置いて行く。いや、或いは俺が何処にも向かっていないだけかもしれないな。だからと言って、どうにもならないか……」

「まだ、俺が居るぞ」


 しんどそうにグリムさんの元に辿り着いた皇帝陛下が、そう話しかけます。

 グリムさんは一気に不愉快そうな顔をしました。


「……失せろ」

「ああ、どっちみちとっとと進まなければならんからな。だが、その前に一言だけでもお前に謝りたかった」

「……」

「合わせる顔も返す言葉も無いのは分かっている。自己満足かもしれない。それでも……お前の大切にしていた人を奪ってしまい、すまなかった」

「……許せる訳が無いのを知ってる癖に。今更、そんな言葉が何になるんだか」


 グリムさんは立ち上がり、その場を去ろうとします。

 それを見た皇帝陛下は……これ以上何も言わずにただその後ろ姿を見送ります。

 立ち去る前に一瞬だけ、グリムさんが立ち止まってぼそりと呟きました。


「地獄に堕ちろよ、クソ親父」

「っ! ああ……お前はまだ逝くなよ」

「ふん……」


 最後まで和解はしないまま、二人はまた異なる道を歩き始めました。

 もう交差する事はないのかもしれませんが……

 何となく、皇帝陛下は満足気にしている気がしました。


「……実子なんだから当たり前だが、若い時の俺に似てるな」

「罵倒がくっ付いていますが、親父と呼んでくれましたな」

「地味に嬉しいような、複雑な気分だな……はぁ」


 皇帝陛下はもう限界とばかりにその場で横になりました。

 堂々と地面で寝そべられると、皇帝としての威厳がないのでしゃきんとしていて欲しいんだけどなぁ……


「仲直りは出来ませんでしたね」

「当然だな。あいつが俺を許すと、過去の幸せだった時間を否定してしまう事になるだろうから」

「そう、ですか。それでも、血を分けた家族なのに争うなんて……私はもう二度とごめんです」

「……優しいな、アルタは」

「お姉ちゃんがそうですから、自然と似たんですよ」

「血の繋がりって奴か。お前達の両親も……あ、すまん」

「いえ、大丈夫ですよ」


 たしかに、私の家族はお姉ちゃんだけだけど。


「お姉ちゃんがいるなら、私は幸せだから」

「そうだな。側から見てだが、とても仲の良い姉妹だと思うぞ」

「ちょっと照れちゃいますね……えへへ」



















 ……そんな話をしてる時。

 お姉ちゃんの眉がぴくりと動いたのに、私は気付けませんでした。



TASさんに連射出来る武器渡すから……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ