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邂逅


 馬車の揺れが段々と無くなっている。

 道は整備され、風景は人の手が入った物に変わり行く。

 王都が段々と近付いているのを感じさせます。


 王都までは、あと五日程で到着出来るそうです。

 残る経由街は一つ……この旅路も終着点になるんだ。

 いや、落ち着いて考えると帰るまでが旅ですよね、普通。

 私やお姉ちゃんはまだ良いとしても、皇帝陛下は自分の国があるし。


 そう言えば、最近は教会の刺客を見ないような……

 良い事ではあるんだけど、こう静かだと逆に不気味に感じます。

 いっそ、襲撃があった方が気が楽かもしれませんね。

 平和なのは本当にありがたいんだけど……何だろうか、この気持ちは。

 

「……おっ、次の街が見えて来たぞ」

「本当ですね。意外と早かったです」


 まだニリナさんと別れた翌日のお昼頃なのに、意外と早く到着出来たみたい。

 いえ、まだ分かりません。

 もしかしたら私達が来るのを見越して地面に火薬が仕込まれてたりするかもしれません。

 考え過ぎかもだけど……何が来ても動揺しないよう、心の準備はしておくに越した事はないよね。


「この街にも温泉は無いだろうか……」

「皇帝陛下、そんなに温泉が気に入ったんですか?」

「ああ。入浴なんぞサッと済ませてとっとと他の事した方が得だと思っていたが、考えが変わったよ」


 キラキラと目を輝かせた皇帝陛下は、ちょっと子供っぽくて面白いかも。

 私も温泉が気に入ったのは同じだから、人の事を言えないけどね。


「帝国に帰ったら城に大浴場でも作らせるか」

「わ、皇帝の権力の有効活用です!」

「ふふん、そうだろうそうだろう」


 得意げにしている皇帝陛下は楽しげに見えます。

 しかし、私は知っています。

 皇帝陛下が、私の目が無い所では鋭い目をしている事を。

 夜や短い休憩時間に、ずっと王国のある方向を睨んでいるのです。


 ……敵国を目前にして気が立ってるのを、私の前では誤魔化しているのかもしれません。

 気にしないでって、素直に言えたら良かったんだけど。

 私達は押し黙ったまま、街の中へと入って行くのでした。






「さて、ここが最後の街か。王都に近いだけあって活気があるな」

「人通りも多いですわね。それだけ陛下もこの街を重視しているのでしょう」


 二人の言う通り、今までの街に比べると凄く差があると思います。

 勿論、王都と比べると一段劣っちゃうけども。

 これは、今まで色んな所を旅して回ったから抱いた感想かもね。

 初めて来た時なんて、ただはしゃいでただけだったから。


 それにしても、通行人達の表情が妙に明るい気がします。

 街の至る所に飾り付けがあるし、お祭りでもあるのかな?

 馬車を降りて、ちょっと聞いてみるのもいいかも。

 ……お姉ちゃんなら知ってるだろうけど。


「明後日には王都か……いよいよだな」

「そうだな」


 いつの間にか御者席に座っていたお姉ちゃんが、皇帝陛下の独り言に返答をしました。

 ……まさか、今回はずっとそこに居たとかないよね?


「もう驚かんぞ。残る脅威は……」

「フライシュッツの最後の刺客。それさえ乗り越えれば後はウイニングラン」

「そうか。そんで、その刺客はこの街に居るのか?」

「居る」


 ……居るんだ。

 それで、到着してからその事を話すんだ。

 何かおかしいと思うけど、気にしてたら話が進まなさそうです。


「ウイニングランって、王城に侵入するのも含んでるのか?」

「楽勝過ぎて私が付き添うまでもない」

「そうか。なら、本当にもう一踏ん張りなんだな」


 ……何だか、あまり実感が沸かないね。


「よし、その刺客も薙ぎ倒してとっとと王都に進もうぜ」

「残念だけど、そう簡単にはいかない」

「……お前が簡単じゃないと明言するだと?」


 お姉ちゃんが今まで口にした事のない言葉です。

 ……何故でしょうか、物凄く嫌な予感がして来ました。

 今までとは比べ物にならない程の苦難が襲い来るかもしれません。


「特にお前にとっては」

「ん、俺か?」

「ああ」


 皇帝陛下を名指しで……?

 一体、どう言う事なんだろう。


「スマイリー」

「呼んだか?」

「状況を開始する。手筈通りに動け」

「承知した」


 何処からともなく現れたスマイリーさんが、お姉ちゃんの指示を受けて何処かに消えて行きました。

 ……一瞬過ぎてよく分からなかったんだけど。

 これから何が始まるの?


「二人共、降りて」


 馬車から降りたお姉ちゃんが、私と皇帝陛下を手招きします。

 ……着いて来いって事かな。


「それは別にいいけどよ、何処行くんだ? あとスマイリーは何処行ったんだ?」

「すぐに分かるよ」

「……はぁ、わーったよ」


 若干面倒臭そうに皇帝陛下は馬車を降りるのを見て、私もそれに倣います。

 ……それにしても、お姉ちゃんは本当に何処に向かうつもりなのかな?

 それくらい説明してくれてもいいのにね。


「ところで街が騒がしい雰囲気だが、何か催し物でもあるのか?」

「聞けば分かるだろう」

「いや、だったらお前が答えればいいだろ……」

「やだ」

「……嫌なら仕方ないな」


 ……仕方ないかなぁ?


 皇帝陛下は道行く人……女性に声をかけます。


「そこの麗しいお嬢さん」

「わ、私ですか……?」

「ええ。私はこの街に来たばかりの旅の者でして。良ければ、色々と教えて下さるとありがたいのですが」

「……私で良ければ、是非」


 わっ、自然に口説いてるみたい!

 普段の様子とはまるで違うけど、これはこれで……

 いや、なんかチャラチャラしてそうだし私はいつもの皇帝陛下の方が良いかな。

 本人には言えないけど……正直ちょっと近寄り難い。

 

「ほうほう、そうなのですか」

「はい……お役に立てたでしょうか?」

「勿論だよ。ありがとな!」

「っ……は、はいぃ!」


 いつの間にか話は終わったらしく、顔を赤くした女性がやや名残惜しそうに去って行きます。

 皇帝陛下……ウィンクはキザ過ぎないかな?

 様にはなってるけど。


「どうだったんですか?」

「それより、なんかむすっとしてないか? さてはやきもち……いでっ!?」


 頭が判断を下す前に、身体が勝手に皇帝陛下の足を踏み抜いていました。

 ……偉い人の筈なのにどうして私ったらこんな事を。


「アルタ……お前ちょっとスマイリーに似て来たぞ」

「褒められてるのか呆れられているのか良く分からないんですけど」

「両方だよ。一応俺皇帝だぞ?」

「なら、それらしく威厳を出したら如何でしょう?」

「物言いまで似てきてるな……まぁ、変に敬われるよりかはいいが」


 ……私も変わって来てるのかもね。

 慣れ、とも言えるかもしれません。

 お姉ちゃん程じゃないだろうけど、着実に少しずつ。


「その点、皇帝陛下は変わらなくて安心しますね」

「褒め言葉として受け取っておくよ。それで、この街について何だが……」


 皇帝陛下がさっきの女性から聞いた話は、私達にとってはあまり良い報告ではありませんでした。

 簡潔に話を纏めると、街の中央広場で教会の偉い人が演説をするんだそうです。

 ……つまり、私達は関わらない方が良さそうって事だよね。


 いやでも、ちょっと待って。

 お姉ちゃんなら先んじて仕留めるとか言い出さないかな?

 私はそう思ってお姉ちゃんの横顔を覗きます。


「……」


 何も分かりませんでした。

 ううん……まさか何も考えてない訳じゃあるまいし。

 お姉ちゃんちょっとポーカーフェイス過ぎない?

 未来予知なんかしなくても絶対負け無しだと思うんだけど……


「俺達は行かない方が良いだろうな」


 私と同じ事を考えたのか、皇帝陛下の視線もお姉ちゃんに向かいます。


「いや、これから戦う相手を見ておくのも悪くないだろう。その辺は任せる」

「……戦う相手なのかよ。つまりそいつがフライシュッツの最後の刺客か」


 ……まさか、同一人物とは思ってもみませんでした。

 でも……戦わずに無視して進めるそうした方が良い気がするんだけどなぁ。

 避けれるなら避けた方が楽かつ時間も取らないし。

 きっと何かしらの理由があるんだろうけど……全然検討も付きません。


「ところで、戦うのはいつ何処でなんだ?」

「翌日、街の外で」


 街中で戦わないんだ。

 うんうん、未関係の人達を巻き込むのは申し訳ないもんね。

 その点は安心だよ。


「翌日か……まあいい、見に行ってみるか」

「そうですね」


 私と皇帝陛下は街の広場へと向かいます。

 何故かお姉ちゃんも一緒です。

 ……もしかしてやる事なくて暇なのかな?


「ん、あそこですね」


 人が集まっている場所が見えます。

 台に立った人がよく通る声で周囲の人達に呼び掛けているようです。

 その割には何と言うか……声にあまり感情が乗っていない気がしますが。


「みたいだな。さて、あいつが……」


 その人はフードを被っていて、あまり目立つ格好ではありません。

 でも、かなり若そうな人ですね……多分だけど十七歳くらい?

 特徴的なのは、足や腕に巻かれた包帯でしょうか。

 よく見ると首元や顔にも包帯が巻かれているみたい。

 ……怪我をしてるにしては元気そうに見える。


 演説は至って普通の内容で、集金のお願いでした。

 ……教会はお金が足りないのかな?

 でも、街の人達からは信頼されているみたいです。

 それなりの人数がお金を渡していました。


「……」

「何だか拍子抜けですね……えっと、皇帝陛下?」

「……」


 皇帝陛下は黙り込んでしまいました。

 ……?


「……なるほど、そう言う事か」


 皇帝陛下は一度お姉ちゃんを睨め付けてから、踵を返してしまいました。

 どう言う訳かは、帰り道に尋ねても曖昧な答えしか返してくれなかったけど。

 

 一番心につっかえたのは……皇帝陛下が、ずっと怖い顔をしたままだった事でした。


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