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疑問


 片手に包丁を持った女の子が、身体が動かない私にゆっくりと迫ります。

 私にはそれを止める事が出来ません。

 その女の子は私のすぐ側で立ち止まると、包丁を両手で握り締め突き刺さんとします。

 狙いは……私のお腹。


「(……っ、お願い、動いて!!)」


 私はどうにか逃げようと必死にもがいてみますが、意思に対して身体は全く動きません。

 しびれ薬でも盛られたのかもしれません。

 私には……その凶刃を防ぐ手段がありませんでした。


「(死にたくない……やだやだ、死にたくないっ!)」


 世界がゆっくりと動いて見えました。

 どうにか生き残る手段を探ろうと頭が必死に思考を巡らせているのでしょう。

 包丁は吸い込まれるように私のお腹に近付いて行きます。

 突き刺されば最期、血の赤い花が見事に咲いて死ぬんだろうなぁ……


 その瞬間、私は過去の記憶が蘇りました。

 ああ、昔街の傭兵さんが言っていた走馬灯って本当にあったんだ。



 お姉ちゃんと楽しく遊んだ記憶。

 はしゃぎ過ぎて、二人で大人に怒られて。

 それ以来、お姉ちゃんは几帳面を心掛けるようになって。

 でも偶に素が見え隠れして、それがたまらなく愛おしくて。


 ……もし、声が出るのなら。

 私はあらん限りの力を込めて叫んでいたと思います。


「(助けて、お姉ちゃん!)」


 実際に声が出ていた訳ではありません。

 だけど……結果としては、叫んだ場合と同等だったかもしれません。


「やめろ」


 短く一言、お姉ちゃんは何処からか現れて包丁を持つ手を蹴り飛ばしました。

 続け様に繰り出したキックが女の子の首元に命中。

 私の命を狙わんとした女の子は気絶したのか倒れ伏しました。


「……」


 お姉ちゃんは気絶した女の子をズルズルと引き摺って部屋の外へ。

 この間、僅か数秒です。

 

 ……どうやら助かったみたい。

 しかし、お姉ちゃんはどうやって現れたんでしょうか?

 見た感じだと、下からニュッと現れてみたいだけど。

 まさかとは思うけど、ベッドの下に隠れてたとか?


 お姉ちゃんは女の子を廊下で寝かせると、私の元へ戻って来ました。

 

「……っ」


 ありがとうって言いたかったけど、私の口は未だに上手く動いてくれません。

 色々と言いたい事があるんですが……どうにもなりませんでした。

 私が困っていると、お姉ちゃんが懐から小瓶を取り出しました。

 お姉ちゃんはその小瓶の中の液体を口に含むと、私の顔に近付きました。

 えっ、何するつもり……?











 ちゅっ。



「……ん」

「!!!!???」



 あ、あわわわわわわわわわ!!!??


 私の唇とお姉ちゃんの唇がくっ付いて……ここここれ、キスだよね!!?

 そんな、私達は姉妹なのにこんな事……っ!

 抵抗したくても身体が動かないし、そもそも私は抵抗するべきなのかな!!?


 私が驚愕している間に、お姉ちゃんの口内から液体が流れ込んで来ます。

 甘い味に混じってとても苦い味が私の味覚を刺激します。

 私はそれをそのまま喉へと通すしかありませんでした。


「っ〜〜〜!!!!???」


 な、何が何やら……私は一体どうすれば!?


 しばらくして、お姉ちゃんの唇は離れます。

 糸が引いていたのが何だかえっちでした。

 そして、お姉ちゃんは何事もなかったかのように部屋から出て行きました。


 あっという間野出来事で、混乱したまま……私の意識は沈みました。

 何故か、強烈な眠気が襲って来たからです。

 まともに目の前で起こった現実を飲み込めないまま、私は眠りにつき……







「……ハッ!?」


 翌朝。

 私は目の覚めた瞬間、思わず起き上がりました。

 眠気に負ける前に見たのは、夢だったのか。


「……」


 扉を開けて部屋の外をおそるおそる見てみると……床にあの女の子がいびきをかいて寝ていました。

 じゃあ、あの時私はお姉ちゃんと間違いなく……!?


「あ……」


 私の思考は、自然と唇へと向かいました。

 指が勝手に唇へと動きます。

 そこにまだ、昨日の熱が残っているような気がして……


「……って、何考えてるの私は!!」


 まだ頭が火照ったまま、寧ろ段々と熱くなっている気がします!

 ……うん、ここはもう一眠りして熱を冷ましましょう。

 でも、その前に。


「う〜……寒いよぉ……」


 ……床で寝かされたこの子をなんとかしてあげよう。

 流石に、布団無しは可哀想だよ。

 風邪を引いてないといいんだけど……




⬛︎ ⬛︎ ⬛︎




「そりゃあ口移しじゃねぇか?」

「くちうつし?」

「薬が飲めない容態の病人に薬を飲ませる手段だな。と言うか、んな薬昨日の夕食に混じってたのか?」

「さ、さぁ……?」


 皇帝陛下と朝食の席で話していると、こんな会話になりました。

 そう、なんだ。

 恋人同士にする感じのキスじゃなかったんだ。


 ううん……良かったような、それとも悪かったのか。

 って、悪かったってどう言う事なの!?


 私は首をブンブン振って思考を振り払います。


「いきなりどうした?」

「別に、何でもないです!」

「ならいいんだが……」


 私は早めに昼食を終わらせて、宿を引き払う準備をします。

 後、通過する街は二つ。

 王都まで残り半分くらいだから、気を引き締めなきゃ。


「あ、そうだ」


 宿を出る前に、女将さんの娘さんに話を聞いてみよう。

 ……昨日のアレについて気になる事が沢山あるもんね。

 私の予想だと、その記憶は無いと思うけど。


 宿の中をうろうろして見ます。

 すると、若干顔色が悪い娘さんがのそのそと掃除をしていました。

 ……風邪、引いちゃったみたいだね。


「あのぉ、ちょっと良いですか?」

「あ、あんたは……」


 私の顔を見た途端、何故か気不味そうに距離を取られてしまいました。


「……その、名前を聞いても?」

「モルナ、です」

「モルナちゃん、昨日私の寝室に入って来たよね?」

「ち、違うのよ! あれはその、身体が勝手に動いて……」

「え?」


 意外にもこの子には記憶があるみたい。

 うーん……どう言う事なんだろう?


「ごめんなさいごめんなさい! お母さんには言わないで……何でもするから」

「別に告げ口するつもりはないから、安心して」

「あ、ありがとう」


 ううん、謎が増えちゃったなぁ。

 それにしても……身体が勝手に動いた、ね。

 何処かで似た様な話を聞いた気がするんだけど、何処で聞いたんだっけ?

 頑張って思い出そうとしてみますが、全然思い出せません。


「女の子が何でもするなんて言うモンじゃないぞ」

「ひゃわっ……」


 私がウンウン唸っていると、いつから居たのか皇帝陛下がモルナちゃんの頭を撫でていました。

 モルナちゃんは顔を赤くしてされるがままです。

 初対面の子にそんな馴れ馴れしいのは、ある意味この人らしいと言うか……

 そう言えば、私にも友人の子供だからって頭を撫でてくれた事があったっけ。


 むむむ?

 皇帝陛下、友人……


「お、どうした? アルタも撫でて欲しいのか?」

「ちょっと黙っててください」

「え、あ、おう……」


 ……あっ!


「思い出した!」

「何をだ?」

「こうて……おほん、ちょっとこっちに来てください」

「ど、どうした急に?」


 私は皇帝陛下を引っ張ってモルナちゃんから離れた廊下の隅まで連れて行きます。

 こそこそ話の時間です。


「で、思い出したってどう言う事だ?」

「実はですね……」


 私は先程モルナちゃんから聞いた話を皇帝陛下に伝えます。


「……身体が勝手に動いた、か」

「皇帝陛下にとっては、気になる話ですよね?」

「無論、そうだな」


 皇帝陛下はすぐに真面目な表情になると、重々しく頷きました。


 皇帝陛下の親友が語った事。

 身体が勝手に動いて、王の命を奪った。

 その時と共通点がある昨夜の事件。


 つまり……


「犯人は、同一人物だと?」

「私はあり得ると思います」

「そうだよ」

「……神出鬼没だな本当に」


 お姉ちゃんは二階からひょっこりと顔を出して話に入って来ました。

 もうびっくりしない程度には慣れちゃった。

 お姉ちゃんはそれだけ言うと顔を引っ込めて何処かに行ってしまいました。

 ……何だったんだろう。


「その、なんだ。確信は得られたな」

「ですね。それから、今気になったんですけど」

「ん、なんだ?」

「シェール王国でクーデターが起こった原因が、よく分からなくて」


 王様の臣下が裏切ったってだけでクーデターとは言えないのかもって。

 改めて考えると違和感があります。

 ……最初に聞いた時に疑問を持てなかった私は馬鹿ですね。

 考える事を半分くらい放棄しちゃってた。


「あ、もしかしなくても知らないのか。すまん、知ってると思ってた」


 皇帝陛下は申し訳なさそうにしていますが、私としては凄く困った事なのです。

 ……わざとじゃなくて、勘違いから言ってなかったみたいだから許せるけど。

 もし意図的に黙ってたんだったら皇帝陛下の髪の毛を思い切り引っ張ってたよ。


「教えてください」

「元はと言えば……お前の姉、カタストロフィ・バレルシェール王女が大きな要因の一つなんだ」

「え?」


 それって、お姉ちゃんの存在が……クーデターを引き起こしたって事?



誤字報告してくれた方、感謝です。

それと同時に、自分の誤字の多さに目眩がしました……

なるべく誤字がなくなるよう、これから努力します。


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