表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/61

束の間の平穏


 教会の手先による襲撃を凌いだ翌日の夕方頃。

 私達御一行は王都に向かう旅路では初めての街へと入りました。



 この街はお酒やチーズが名産品で、眠らない街とも言われています。

 他の街に比べると、やや治安が悪いらしいです。

 ちょっと帝国の雰囲気に似てるかも。


 最初に訪れた時はお昼で、補給だけしたらすぐに発ってしまったのであまり見て回れませんでした。

 正直、あまり印象に残らない街でした。

 改めて時間帯が違うと、この感想も変わってきますね。


 建物の大半は明かりが付いていて、もう日が沈み欠けているのに結構な明るさがあります。

 人通りも多いですが、何だか厳つい顔付きの人が多い気がします。

 人を顔だけで判断するのは良くないけど、ちょっとその筋の人っぽいと言うか……


 うーん、初めて来た時の記憶が曖昧だからでしょうか?

 あんまり二度目って感じがしません。


「街には特に何事もなく入れたな」

「私がいるのですもの。当然ですわ」


 デシンクちゃんが、無い胸を張って鼻高々にふんぞり返っていますね。

 自分自身の能力じゃなくて、自分の地位のお陰なのに。


「……今、貴女失礼な事考えなかったかしら?」

「気でもやられたのですかデシンクお嬢様。そんな事考える訳がないでしょうに」

「ならいいわ……って、失礼な事言ってますわよ!?」

「そうですね」

「そうですね、じゃなくってよ!」


 うーん……私に代わってお姉ちゃんに近い立ち位置に付いたデシンクちゃん。

 勿論ちょっぴり妬んだりはするけど、恨みはないかな。

 この子も結構面白い子だし。


「ははっ、思ってたよりも二人の仲は良いみたいだな」

「こんなチンチクリンと私の何処が仲良しですのよ!?」

「チンチクリンって、今日日聞かないなぁ……」

「そんな事よりも」

「そんな事!?」


 気になっている事があります。

 街の中をゆっくりと進んでいる馬車ですが、何処で止まるんでしょうか。

 私にとっては休息のような時間なので、長い間走っていても気にはならないんだけども。


 普通なら宿屋に併設されている馬車小屋に止まると思います。

 しかし、宿屋なら既に通り過ぎているのですが……

 

「宿屋に止まらないんですか?」

「あら、そう言えば通り過ぎてますわね。お姉様の言いつけ通りの場所まではまだまだ距離がありますわ」

「いや、さっきの宿屋は……」


 皇帝陛下が気不味そうに明後日の方向を見つめます。

 そんなに言い難い事なんでしょうか……?


「たしか、ハートマークが付いていた桃色の看板が立っていましたわ」

「入って行くお客さん達もチラッと見えたけど、男女の組が多かったね」

「……俺は説明しないからな」


 皇帝陛下は耳を塞いで俯いてしまいました。

 むむむ……そこまでされると、余計気になりますね。


 今まで、私が気になる事は口を濁されてばかりでした。

 でも……このままでは、きっといけないんです。

 秘密を秘密のままにするのは私が

 今日こそ! 私は! 聞き出せるようになりましょう!


「お願いします。ヴォルクラッヘ皇帝陛下、どうか蒙昧な私めにお教えください!」

「畏まった口調でキリッとしておねだりするな。揺らぎそうだろ!?」


 むむ、この様子だともう一押しで聞き出せそうな気がします。

 このまま何とか聞き出して……


「それくらいにしておけ、アルタ」

「へっ? ……ぎゃー!?」


 お姉ちゃんの声が聞こえた窓の方を向くと、そこにはお姉ちゃんが上から逆さまに顔を出していました。

 姿が見当たらないからどの馬車に乗ってるのか気になってたけど、その場所は予想外だよ!


「なんでそんな所にいるの、お姉ちゃん!」

「そんな事より、先に言っておく事がある」

「いやいや、そんな事って……え?」


 あのお姉ちゃんが、先に言う事がある……?


「ど、どうしたのお姉ちゃん!? お腹痛いの!?」

「お姉さまに失礼でしてよ」

「落ち着けってアルタ。気持ちは分からんでもないが」


 これが落ち着いていられますか!

 あのお姉ちゃんがやっと歩み寄ってくれたんですよ?

 慌てちゃって当然でしょ!


「それで、話ってなぁに?」

「アルタと陛下には、この先の広場で一旦馬車を降りてもらう」

「それはいいが、何故そんな事を?」


 お姉ちゃんは一息入れてから、再び話し始めます。


「まず、アルタには誘拐されて貰う」

「うんうん、誘拐…‥誘拐?」

「えっ」


 それは、その……お姉ちゃんに誘拐されるの?

 それとも別の誰かが誘拐しようとしているって事なの?


「誘拐って、誰にだ?」

「教会の者に。回避出来なくはないけど、面倒。敢えて隙を晒した方が手間が少なくて済む」

「……それ、危険はないのか?」

「陛下は一発ぶん殴られて撃たれるけどまあ、耐えて」

「撃たれるって、まさか銃か!?」

「使ってくるのは拳銃だから当たり所が悪くなければ死なない」


 それって当たり所が悪かったら死んじゃうって事だよね……?

 もしかしなくても崩御の危機じゃん!?

 あと、私も絶対危ないよね!?


「……銃弾、滅茶苦茶痛いって話だから受けたくないんだが」


 皇帝陛下は嫌そうにしている。

 そりゃあ、誰だって怪我したくないです。

 私だって嫌ですよ。

 お姉ちゃんは……なんか、目的の為なら毎週怪我を負うくらいしそうですけど。


「……えっと、ちゃんと助けに来てくれるよね?」

「それは勿論。そう言う事だからよろしく」

「どう言う事なの!?」

「なるほど……そう言う事ですわね」

「何がそう言う事なんだ?」

「分かりませんわ!」


 分かってないの!?


「二人はここで降りて」

「……おう」

「……うん」


 私と皇帝陛下はテンションだだ下がりの状態で馬車を降ります。

 そんな私達とは対照的に、デシンクちゃんは活き活きとしているのが憎たらしいです。


「それでお姉様、私は何をしたら良いのでしょうか!」


 ……段々と犬に見えて来たな、あの子。

 あるわけ無い筈の尻尾を振っているような錯覚がするよ。

 お姉ちゃんはデシンクちゃんのその問いに冷たくこう返しました。


「特に何もしなくて良いよ」

「……そう、ですの」


 今度は尻尾がだらーんって元気なくぶら下がっている錯覚が……


 やがて、馬車は遠ざかって行きました。

 ああ、束の間の平穏な時間でした。

 不安しかありません、ほんと。

 この後誘拐されると聞いてる割には落ち着いていられている気はするけど。


 これでも、お姉ちゃんを信頼はしているって事なのかな。

 今のお姉ちゃんはあまり好きにはなれないけど。

 それでも、お姉ちゃんである事に変わりはないから。


 ……えっと、どうしよう?

 特にやる事が思い付かないよ。


「TASさんから何も指示が無かったって事は、自由にしていいんじゃないか?」

「それもそう、ですね。じゃあ適当にその辺を歩きましょうか」

「ああ、そうしよう。手持ちは十分あるし、なんなら買い食いしても良いかもな」

「わ、良いんですか?」


 皇帝陛下のポケットマネー……きっと一般人のそれと比べても大分豊かなんだろうなぁ。


 しかし、そろそろ夕暮れだと言うのに人通りが結構多いね。

 ぱっと見ただけでもかなり活気のある街なのが分かります。

 ……時折裏路地の方から聞こえてくる罵声には関わらないようにしよう。

 治安が悪いとは言っていたけど、流石にこれはちょっと。


 あと、気になる事と言えば……


「なんか、露出の激しい服を着た女の人が多くないですか?」

「……俺からはノーコメントで」

「あ、はい」


 さっき私が陛下に質問しようとした事と同じで、説明し難いんでしょうか?

 ……まあ、いっか。

 それより買い食いしたい露天が無いか見て周ろっと。


「なぁ、アルタ」

「はい、なんでしょうか?」

「……昨日の、襲撃前にしてた話、覚えてるか?」


 襲撃が起こった直前までしていた話……あっ!


「あの話をまたするんですか!? 皇帝陛下は王子様って年齢じゃないですよね!?」

「ストレートど真ん中に失礼な発言はスルーして、だな。何も結婚するのが家族になる方法じゃないだろう」

「え?」


 それは、どう言う事なの?


「俺の養子にならないか? と、俺は聞きたかったんだ」

「……」

「当然、お前の姉も一緒にだ。嫌じゃなかったら、だが」


 少し照れ臭そうにそう言う皇帝陛下。

 何か、口にしてない本音がありそうな気がします。

 お姉ちゃんのお陰で、隠し事には敏感になってしまった気がしますね。


「本音を聞きたいですね。それだけが理由じゃないんでしょう?」

「……あまりこの話はしたくなかったんだけどな」


 はぁ、と。

 深い溜息を吐いてから、皇帝陛下は静かに話し出しました。


「……前、俺に息子がいるって話はしてたよな」

「はい」

「元々、俺は皇位継承権の低い王族だったんだ。上に兄弟が三人いてな。全員優秀な人だった」

「だった……って事は、もう居ないんですか?」

「察しがいいな。そうだよ、俺が殺した」


 皇帝陛下が……家族を、兄弟を殺した?


「正確に言うと直接手を下したのはスマイリーだけどな。命令を出したのは俺だ。まあ、よくある血生臭い権威争いだ」

「……なんで、そんな事を?」

「俺には皇帝になって、やらなければならない事があった。だから、殺した」


 お姉ちゃんみたいに淡々とそう語る皇帝陛下。

 その口調は、後悔が一筋馴染んでいるように聞こえました。


「今から思えば、他に方法はあったんだと思うな。まだ俺も若かったから、突っ走った結果がこれだ。俺の事、嫌いになったか?」

「自分の兄弟を殺した人なんて、怖くて近付きたくないと、普段ならそう思いますけど」

「けど?」

「……貴方の事は、どうにも嫌いになれません。なんででしょうね?」

「そうか」


 私には、皇帝陛下ぎ少しだけ安堵したように見えました。


「そんで、まあ見ての通り俺はその争いに勝利した。だが、そんな血も涙もない父親に愛想を尽かした息子に出て行かれて、な」

「息子……ですか」

「振り返って見てみれば、屍の山が積み重なっている幻覚が見えたよ。敵対する派閥の者達を容赦なく切り捨てた。そんな俺を妻は支えてくれたが……俺は自信がなくなったよ。本当にこれで正しかったのかってな」


 皇帝陛下……


「……子供を失い、親友も失って。俺はどうしようもなく怖かったんだ。俺のやった事は、無意味だったんじゃないかと。無駄に死人を出しただけじゃないかと。それで、俺は気付いたさ。人との繋がりが、どれだけ俺に温かみをくれていたのか」


 人との繋がり……


「俺は、家族が……他人の温もりが欲しかったんだって。きっと、本音はそこだと思う。昔の俺は、そんな事切り捨てろって言い聞かせてた」


 家族、かぁ。

 お姉ちゃんが私の心の側から離れて行っている今、私の心の拠り所は何もないと言えましょう。

 だから、私には分かってしまう。

 今の皇帝陛下は、きっと私と同じような気持ちなんじゃないかって。

 自惚れかもしれませんけど、私はこの人をどうにか救ってあげたくなりました。


「……後悔している、とは言えなかった。そんな泣き言をほざく奴が、最初から何か大きな事をしてはいけないからな。ましては国の頂点がそんな事、言ってしまえばメンツに関わる」


 こんなにも哀しみに満ち満ちている人を……私は放置したままには出来ませんでした。


「ヴォルクラッヘ・フェル・ディバーグ皇帝陛下」

「ん、改まってどうした?」

「私は陛下が目指した物も分かりませんし、正しさを決められる程この世界を知りません。ですが、一言だけ申したいのです」

「……なんだ?」

「私は、貴方が——」


 私が言いかけた、その時でした。

 街中とは思えないスピードで、馬車が私達のすぐ側にまで迫っていたのです。

 周囲の喧騒に紛れていた所為で発覚が遅れてしまいました。


「っ、危ねぇ!」

「わわっ!」


 皇帝陛下は私を庇って思いきり横へと転がるように飛び出しました。

 幸いにも馬車は私達に当たらずに止まります。

 そして、馬車の中から怪しげな男達がぞろぞろと出て来ました。


 これが、多分お姉ちゃんが言っていた……!


「おい、娘だけ持って行くぞ!」

「? なんかこの男、見た事あるような……」

「んな事どうでも良い、早く済ませるぞ!」


 口々にそう叫びながら男達は私に迫ります!

 ここで私が誘拐されるのはきっと規定事項でしょう。

 でも、皇帝陛下は……


「……っ、アルタ! 俺はお前を守りたい!」

「へい……ヴォルクラッヘさん!?」

「今、俺の身分を知っている奴はこの場にいない。だからこそ、声高々に言えるんだ。たとえ、運命が決まっていたとしても! 俺はもう後悔だけはしたくないんだよ!」


補足:物語に登場する大陸で使われている通貨は全て統一されてるよ


次回はちょっと遅くなるかも

最近、暑過ぎてヤバい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ