TASさんVS教会の手先②
アガーテから旅立った翌日。
私達はお昼休憩を取ろうかとしていた時に、廃村を見つけました。
中心にある大きな井戸に風化した家屋、柵が所々壊された牧場……
周囲は森林で囲まれていて、魔物も見当たりません。
休憩を取るには丁度良さそうです。
「ここで休憩を取りますの、お姉様?」
「ああ」
「ほんと、良いタイミングで寄れましたわ。皆、ここでしばらく休憩をお取りしますわ!」
……お姉ちゃんの隣がデシンクちゃんに変わっている。
何だか不思議な気分です。
でも、それは一旦置いておこう。
お姉ちゃんの隣を取られたのは悔しいけれど……
今、どんな顔でお姉ちゃんに対面すればいいか分からないし。
折角のお昼時だし、身も心も休んでリフレッシュしないと。
「ふぅ」
「ははっ、草の上で寝転ぶのも偶には良いもんだ」
自然な動作で私の横に皇帝陛下が座り込みました。
……何故かな、あんまり良くない慣れを覚えた気がするよ。
私が不可解に思っていると、話し声が聞こえて来ました。
軍人さん達がこそこそと何やら話しているようです。
何処か既視感のある光景です。
「陛下と姫様、仲良さそうだよな」
「やっぱり陛下は側室にあの子を……?」
「こうして見てみると有り得そうだ」
何で私にも聞こえるくらいの声量で話してるんですかあの人達は。
流石に噂とかされると私も恥ずかしいです。
私に聞こえるって事は、皇帝陛下にもきっと聞こえてる筈……
「スヤァ……」
もう寝てるっ!?
ちょっと気不味くなっちゃった私の純情を返してよ!
「ふむ、どうやらお前達はまだ元気のようだな。しばらく特訓に付き合って貰おうか」
「「「へあっ!?」」」
あ、スマイリーさんがまた連行してる。
そして、然りげ無くお姉ちゃんがついて行ってる。
これが今の私の日常になるのかぁ……
普通に何かこう、嫌だ。
「それで、俺と家族になる気はあるのか?」
「わっひゃー!? お、起きてたんですか!」
むくりと起き上がった皇帝陛下に突然話しかけられて、私は思わず大きな声が出てしまいました。
心臓に悪いですよ、まったく!
「初対面の時は、そう言う事には割と興味があるように見えたが」
「ま、まあ……王子様と結婚とか、昔はよく妄想したりしてましたけど」
憧れ……と言うには、少し熱量が違ったと思います。
実現したら嬉しいけど、それ以外にも夢はありました。
学園で楽しく過ごしたい、とか。
「ふんふん。つまり今は違うのか?」
「子供っぽい夢だから捨てたとか、そんなんじゃないですよ? ただ……」
「ただ?」
「夢を叶える為、理想を実現する為の努力。また、それらの行動には責任が纏わり付くんですよね」
私が学園に通いたいなんて言い出したから、お姉ちゃんはそれを叶えようと動き始めました。
私は……正直、そんな事口にしなければ良かったと後悔しています。
思えば、あの時から始まったんです。
私とお姉ちゃんの、二人だけの旅路は。
「責任ねぇ。俺は……気にせずに目指すべきだと思うけどな」
「その途中で犠牲が出てもですか?」
「過程よりも結果が欲しいなら、そうだろうな」
「たしかにそうかもしれませんけど……」
「ま、そこは人それぞれだろう。俺の考えをお前に押し付ける気はない」
そう言う皇帝陛下の表情には、何か迷いがあるように見えました。
昔……自分の子供や友人を失った時に何かあったのかもしれません。
「で、話を戻すんだが……むっ!」
皇帝陛下が唐突に振り返りました。
私もその方向を見てみると、遠い場所に妙な集団が見えました。
人数は十人程度だけど、全員が立派な赤い鎧を身に付けていて威圧的に感じます。
かなり大きな鎧に見えるけど、重くないのかな……
その集団は、明らかに私達に向かって来ていました。
「……これは敵だな。遠くからでもピリピリ殺意が伝わってくる」
「あ、あっちからも!」
気付けば、別の方角からも同じ格好の集団が迫って来ていました。
それも三方向から。
もしかして、囲われちゃったんじゃ……!?
「ど、どうしよう……」
「心配するな」
「あ、お姉ちゃん!?」
一体何処に……あ、さっき訓練しに行ったんだった。
スマイリーさんの姿も見えます。
「訓練受けてたみたいだけど大丈夫だったの?」
「星が取れたので問題ない」
だからそれどう言う事???
って、今はそんな事気にしてる場合じゃないよ!
「へい、団体様がご到着しそうなんだが?」
「知ってる」
お姉ちゃんはスマイリーさんに目配せをします。
スマイリーさんは頷くと、部下の人達に声をかけました。
「行くぞ、我らで三チーム潰す」
「「「はっ!」」」
そして、スマイリーさん達は走り去って行きます。
お姉ちゃんの目配せの何処にそんな意味が込められていたのか……
事前に打ち合わせしてたのかな?
この状況に対する打ち合わせの方が絶対必要だと思う。
「……何か、スマイリーが取られた気分なんだが」
皇帝陛下……私も似たような気分ですよ。
「行くよ、私がリーダーを潰す」
「あ、私達は離れた所から見ておくね」
「視界に入ってなければそれで良いよ」
……その言い方でちょっぴり傷付いたよ。
魔銃の誤射を避ける為には仕方ない事ではあるんだけど。
やがて、集団の一つがお姉ちゃんのすぐ側にまで接近します。
その中のリーダーっぽい人が前に進み出ました。
顔の大半が兜で覆われているので、どんな人なのかは分かりません。
多分、体格からして男の人だとは思います。
他の人はみな帯剣してますが、その人だけは武骨な棍棒を所持しています。
「かははっ、ようやっと追い付いた」
「会話は良い」
「おっと、危ねぇ危ねぇ」
会話の途中に挟まれた不意打ちみたいなお姉ちゃんの射撃は、分厚い鎧に弾かれました。
会話で時間を稼ぐとか……いや。
お姉ちゃんなら多分そんな事はせずに最短で片付くようにするよね、きっと……
しかし、お姉ちゃんの魔銃が効かないみたいだけど……どうするつもりなんだろう?
「一応名乗っておくか。儂の名はマサト」
マサト?
何だか珍しい響きの名前だね。
「……多分だが、アイツは東方の島国から流れて来た者ではないか?」
「そうなんですか?」
「ああ。鎧の意匠やアイツらの持つ剣……刀と言ったか? 似た物を本で見た事がある。だが、たしかあの国は結構前から鎖国状態だったか」
へー、そうなんだ……って、それより今は!
「この人達を何とかしないと!」
「俺達が何か出来るのか?」
「……お、応援くらいなら」
「まあ、一応俺も騎士の真似事程度しか出来ないが」
そう言えば、あまり意識してないけど帯剣してますね。
私も何か持つべきなのかも……?
「戦争に備えてここら辺に派遣されたが……不穏な動きを見せているアリアスの騎士隊に遭遇したと思ったら、まさか帝国軍の変装とはな」
ニタニタと皇帝陛下を見ながら笑っているマサトさん。
お姉ちゃんの話によると、教会の勢力だけがアリアス様の動きに気が付いているんだとか。
教会の人達がその事を王国貴族に伝えるのはもう少し時間が掛かるらしいです。
なので、出会った相手を一人も逃さずに口封じして行く必要がある……だったっけ。
殺せば見つからずに済んだのと同じ、とか言っていました。
相変わらず、お姉ちゃんの発想が物騒過ぎますね……
「ま、これだけ頭数揃えて来たんやから……イケるやろ」
……あ、そうだ!
スマイリーさん達も戦っているんだ。
しかも、お姉ちゃんの相手をする三倍の人数を!
……スマイリーさんならどうにかしてしまいそう。
そう思ってしまうのは私の勘違いでしょうか?
「者共、かかれ」
号令に従い、鎧を着た人達がお姉ちゃんに一斉に襲い掛かります。
その俊敏さは鎧を着込んだ人間とは思えない速度でした。
刀とやらを思い切り振りかぶってくる相手に対して、お姉ちゃんは……
「こ、こいつ!?」
「動き方がなんかキモいぞ!」
相手の攻撃を回避するのに前転したりするのは、まだ普通だと思います。
しかし、棒立ち(しているように見える)のままスライド移動するのはどうやってるんでしょうか。
他にも五回くらい連続して前転したり、合間に踊ったりするのは一体……?
鎧を着込んだ人達も人間らしくない動きですけど、お姉ちゃんは得体の知れない気持ち悪い動きです!
「くっ、おのれちょこまかと!」
「心配するな、あいつの持っている武器は俺達には通用しないんだ!」
たしかにお姉ちゃんの持っている魔銃は分厚い鉄板も貫く威力があります。
だけど、相手の付けている鎧は撃ち抜けないみたい。
どれだけ硬い金属なんだか……
いくらお姉ちゃんでも、疲労は溜まる筈。
このまま避け続けるのにも、きっと限界が来ます。
しかし、先に向こうの我慢の限界が来たようです。
「何をやっとるか、お前らは?」
「す、すいません!」
「ふん……儂もやる。とっとと片付けるぞ」
今まで傍観していたリーダー格のマサトさんが参戦します。
流石のお姉ちゃんも、これはキツイんじゃ?
さっきまでは避けるのがやっと……
いえ、何か踊ったりして遊んでたような。
もしかして……結構余裕がある?
「もう、死んでいい」
「ぐわっ!?」
懐からレイピアを恐るべき速度で取り出したお姉ちゃん。
突き出されたレイピアは相手の兜の隙間……目の所を貫きました。
貫かれた相手は、そのままだらんと力を抜かして倒れ伏しました。
……目の前で起こっている命の奪い合いが、生々しいよ。
何度見たってこんな事、慣れないし慣れたいとも思えない。
「貴様!」
「……シッ!」
お姉ちゃんは続け様に突きを繰り返して、あっという間に鎧の人達を殺して行きます。
その無駄の全く無い動きは、先程までの遊んでばかりだったそれとはまるで別人でした。
……私みたいな女の子でも分かります。
踊るように命を刈り取るその様は、芸術的とも言えました。
美しかった。
素直な感想を言うなら、その一言に尽きました。
「……ふっ!」
このままでは駄目だと思ったのか、マサトさんが攻撃に参加してきます。
マサトさんは鎧を着込んでるのか甚だ疑問になってくる程高く跳躍しました。
そして……そのまま重そうな棍棒を、お姉ちゃんの脳天目掛けて振り下ろします。
「疾く去ね」
「断る」
お姉ちゃんは冷静にバックステップでこれを回避。
棍棒は地面を叩き割り、とてつもない振動を発生させます。
その揺れが離れている私達にも伝わってくる程です。
「なるほど……あいつの【異能】は重量を操作させる物か!」
皇帝陛下がそう呟きます。
そっか、だからあんな重そうな鎧を着込んだまま跳躍出来たんだ。
棍棒を振り下ろした際の振動の強さも、きっと一瞬だけ棍棒を重くしてるに違いない!
お姉ちゃんは後ろに退いてテントを背にしています。
……ん、テント?
「なんでテントが張ってあるんでしょうか?」
「俺も分からん。いつの間に張ったんだ?」
これは……お姉ちゃんの仕業な気がします。
テントの張られている場所は、たしか……
お姉ちゃんは後方宙返りでテントの上に乗りました。
わざわざスタイリッシュに乗る必要性が感じられないのはいつもの事です。
だけど、そこでジッとしているのは何でだろう?
「お前……何のつもりだ?」
「私はもうここから一歩も動く必要がない」
「ほう、面白い事を言う。ならば」
マサトさんは手甲の下から何かを取り出してお姉ちゃんに目掛けて投げ付けます。
この臭いは……火薬!?
もしかして、爆弾!?
「お姉ちゃん!?」
……しかし、突然の爆発物にもお姉ちゃんはまるで動じません。
投げ付けられた物をキャッチして、即座に投げ返してしまいました。
「むっ!」
ドォォォン、と。
マサトさんのやや背後に目掛けて投げ返されたそれは、凄まじい爆風を起こします。
しかし……マサトさんは鎧に守られて無傷のようです。
「ふん、ならば直接この手で葬ってくれようぞ」
マサトさんがテント目掛けて突っ込んで行きます。
テントを踏み抜いて、お姉ちゃんに棍棒を振り下ろそうとしますが……
「ぬぅっ!?」
テントの内側には私がついさっき見た井戸がありました。
マサトさんは足を丁度井戸のど真ん中を踏み抜いてしまいました。
咄嗟に縁を掴んだようでしたが……
「じゃあな」
お姉ちゃんはマサトさんを容赦なく井戸の中へと蹴り落とします。
ドン、と。
物が落ちた音が井戸の中から響きました。




