TASさんVS教会の手先①
お休みが長くなってしまい、大変申し訳ございません。
ぼちぼち投稿を再開して行きます。
アリアス様と再会した翌朝。
アリアス様が来るまで私達は待機しているのですが……
約束していた時間になっても、アリアス様は現れません。
する事がないので空を見上げると、鳥が飛んでいるのが見えました。
鳥はいいなぁ……空を飛べて、自由で、気楽で。
私も生まれ変わったら、あんな風に飛んでみたいな。
ワイバーンの背に乗って飛ぶのもいいけど、自分の意思で動けた方がきっと楽しいよね。
……でも、なんだか妙に私達の真上を旋回しているような。
まるで探し物でもしているみたい。
鳥はすぐに去って行ったけど、何だったんだろう?
横を見ると、お姉ちゃんも私と同じく空を見上げていました。
お姉ちゃんにしては珍しい気がします。
「これも予定通りなの、お姉ちゃん?」
「無論。後もう少しだけ待ってて」
「……うん」
お姉ちゃんがこう言うって事は、何か考えがあるんだと思う。
これもきっと、予定通りなんだろう。
……全てがお姉ちゃんの手のひらの上みたい。
ところで、朝からスマイリーさんの姿が見えないような……
なんでだろう?
「ねぇ、お姉ちゃん。スマ」
「仕事を頼んだ」
「イリーさんはどうしてるの?」
……せめて全部言い終わるまで待ってよ。
ちょっと傷付いたよ。
「へいへいTASさんよぉ。お前さんの隠し事する癖はどうにか直らないのか?」
おお、いいよ皇帝陛下。
お姉ちゃんにもっともっと言ってやって!
「何故?」
「いや……普通、味方には策を詳しく話すものだろ?」
「最低限は話した」
「だから最低限が過ぎるんだよ。重大な部分は言わずに隠してるし」
「自分だって隠し事をしている癖に」
お姉ちゃんのその一言に、皇帝陛下は急に黙り込んでしまいました。
図星だと言わんばかりです。
「昨日、貴方とアルタが話していた時も……」
「げっ、聞いてたのか?」
「そんなに自分の息子が大事か? いや……愚問だったな」
お姉ちゃんもそう言うと黙り込みます。
皇帝陛下の息子……?
言われてみれば、たしかに皇帝陛下は子供がいてもおかしくない年齢に見えます。
昨日もアリアス様が息子がどうとか言っていた気がします。
「すまんな。誰からも触れられたくない話題ってのが、俺にもあるんだ」
皇帝陛下は申し訳なさそうにそう言いながら私の頭をそっと撫でました。
ううん、子供がどうなったんだろう?
分からない事が多過ぎるよ……
この事は、後でスマイリーさんか軍人さん達にでも聞いてみよう。
軍人さん達、今寝ているのかテントの中にいるみたいだけど。
「そう言えば、デシンクちゃんはまだ寝てるんですか?」
「ああ。昨日、ちょっとアリアスと二人きりで話していたからな」
そうそう、お姉ちゃんが手紙を渡した後に何か話してたんだっけ。
一体何を話してたんだろ……?
「そろそろ来るよ」
おっと、その事について考えるのは後にしよう。
お姉ちゃんのその言葉に耳を澄ませると、蹄鉄が地面を叩く音が聞こえて来ました。
馬車で来たのかな?
私のその考えはどうやら当たっていたようです。
見覚えのある馬車が私達の側で止まります。
王都に行く際に乗った事のある馬車だね。
馬車の中からアリアス様が降りて来ます。
昨日見た時よりかは目の下の隈はマシに見えます。
いえ、マシと言うよりも……完全に無くなっていますね。
よく眠れたのかな?
「やぁ、来たよ。早速話を——」
アリアス様が口を開いたその瞬間、お姉ちゃんは例の魔銃を抜き放って引き金を引きました。
それと同時に魔法陣が空中に出現します。
そこから高速で黒い何かがアリアス様目掛けて飛んで行きました。
バァン、と。
鼓膜を破りそうなくらい大きな音が辺りに響きます。
それから焦げ臭い臭いが辺りに充満します。
「がはっ!?」
アリアス様の肩から血が激しく飛び散りました。
「あの…‥お姉ちゃん?」
「……」
お姉ちゃんは魔銃をクルクルと回していました。
その動きに何か意味が……?
いや、ね。
この際いきなりショッキングな光景が目に入ったのはもう気にしないよ。
目の前首チョンパのお陰で慣れちゃったよ……
だからと言って気分はよくないけども!
それはもう諦めるよ、うん!
でもさぁ、でもさぁ!
「撃つなら撃つって先に言ってよ!? びっくりしたじゃん!」
「分かった。じゃあ撃つよ」
「へっ?」
バァン。
またもや出現した魔法陣と黒い弾丸らしき物。
も、もう少しくらい心の準備をさせてくれてもいいじゃん!
アリアス様はもんどり打ちながら放たれた弾丸を躱そうとしますが……
「ぐわっ!?」
まるで吸い込まれて行くかのように弾丸はアリアス様の足に命中しました。
そこまで見届けてから私はようやく違和感に気が付きました。
アリアス様の顔が、溶けているのです。
顔の皮がドロっとした粘液になって垂れていたのです。
そして、その下から別人の顔が露わになります。
この顔はたしか……昨日会った衛兵さん!?
「さて、俺はこの状況について何一つ理解出来ていないんだが?」
「あいつは教会直属の組織、【フライシュッツ】の一員。コードネームは【シェイプシフター】」
「……なるほど、あいつがねぇ?」
「因みに本名はジョン」
「この大陸で一番多い名前だな」
皇帝陛下は興味深そうにアリアス様に化けていた人を見ています。
「あれは【異能】か。察するに、他人にに化けられるとかそんなとこか」
「殺した相手限定だが、どんな奴にも化けられる能力だな」
「こ、殺した相手?」
それって、つまり……!?
「ふっ、アリアスは昨日の夜の内に殺したさ。王国を裏切ろうとしてたから当然と言えば当然だろう?」
「そんな……」
昔から私達姉妹に良くしてくれた人なのに、こんな形でお別れだなんて……
「う、うぅ……」
「はん。ところで何故バレたんだ? 変装は完璧だった筈なんだが」
「偽者だと知っていたから」
「どうやって偽者だと知ったんだよ?」
「偽者だと知っていたと言う事は、偽者だと知っていたと言う事だ」
「いや意味分からねーよ!?」
「人が悲しんでる横でコントしないでよ!」
悲しむ時間くらい与えてくれてもいいよね!?
お姉ちゃんも相手の顔面が気持ち悪い人も、もう少し空気を読んで欲しい。
「……あいつ、死んでも悼んで貰える奴がちゃんと居たんだな」
「どう言う意味ですか?」
「別に。なんでもないさ」
今気付いたけれど、いつの間にかさっきお姉ちゃんの付けた筈の傷が治っていました。
治癒した、と言うには妙に違和感がありました。
傷のあった場所が溶けて、ドロドロが集まって正常な状態に戻った……みたいな?
ドロドロが完全に見えなくなった頃には、怪我は一切見当たらなくなっていました。
顔は完全に昨日の衛兵さんのそれに。
これが本当の姿なんだろうか。
「おいおい……傷が消えちまったぞ」
「心配しなくてもダメージ自体は蓄積している」
「……普通の奴ならこれを見せたら諦めるんだがな。まあいい。我等が王国と教会に害を為す者は塵一つ残さず消す。全てはザミエル様の為に」
明確な敵意を持った眼で、彼は私達を睨み付けます。
それと同時に身体が再びドロドロに溶け始めます。
今までとは違って、ドロドロは体積が物凄い速度で増加しています。
あっという間に民家と同じくらいの大きさまでになりました。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! なんか危険そうな感じがするよ!?」
「慌てないの。ほら」
お姉ちゃんはゆっくりと魔銃の引き金を引きました。
それと同時に、私の手が思い切り引っ張られます。
「な、何を……」
バァン。
私のすぐ背後から弾丸の放たれた音が聞こえました。
弾丸は私が立っていた場所を通って、ドロドロの中心に命中します。
心なしか、後頭部に熱を感じました。
「っ!」
その瞬間、ドロドロの動きが止まりました。
ドロドロが崩れ落ちて、中からジョンさんが出て来ました。
「……もしかしてお姉ちゃん、私に向けて撃ったの?」
「当たらないようにしてあげたでしょ?」
お姉ちゃんは再び魔銃をクルクルと回していました。
私はお姉ちゃんからすぐさま離れます。
ここに居ると多分また似た様な事をされちゃう。
お姉ちゃんの事だから当たらないようにはしてくれるだろうけど……
「いくら当たらないからって、銃弾の飛び交う場所になんていられないよ!」
「同意する。こっちだアルタ!」
いつの間にか皇帝陛下は既に離れた位置にある木の後ろまで逃げていました。
私も早く逃げれば良かった!
流石は王族、判断が早い。
「貴様、何をしたぁ……!」
「怯むタイミングで当たる乱数を引いているだけだ」
「くっ……こんな小娘、変身さえしてしまえば!」
再びドロドロがジョンさんの身体から溢れ出しますが……
「ぐわっ!?」
再びお姉ちゃんが発砲して、動きが止まります。
「馬鹿な……貴様は何故こうも容易く私の心臓を撃ち抜ける!?」
「ウンガイイナー」
「その魔弾を放つ銃型の道具……ザミエル様の作られたそれは、使用者を含む周囲全員へ無差別に攻撃してしまう欠陥品の筈だが……」
「50%の確実を引いているだけだ」
「確実……?」
いつもと変わらない、淡々とした様子でそう静かに語るお姉ちゃん。
握っている凶器は、自分の命すら奪いかねない危険な物なのに……
当然のようにそれを使っているお姉ちゃんはやっぱり普通じゃないです。
こんな事、言いたくもないけど……私には血も涙もない人にしか見えませんでした。
この後、何度もジョンさんは変身を試みました。
しかし、お姉ちゃんが何度もそれを止めて行き……
大体十分くらい経った後。
「ぜぇ……ぜぇ……」
息も絶え絶えになり、膝を突いて肩で息をしているジョンさん。
もう変身も出来ないようですが……
まだ何かあるのか、不敵な笑みを浮かべました。
「くそっ……まさか、俺がしくじるとはな。だが」
「王都に向かった伝令役なら……ほら、そこにいる」
「は?」
お姉ちゃんが指差す方を向こうとすると、何故か皇帝陛下に視界を塞がれました。
微かに見えたのは、何かを持っているスマイリーさんだけ。
「あの、何か……?」
「お前は、見ない方がいい」
「は、はい」
皇帝陛下の口調が真剣だったので、言う通りにしよう。
……鼻に付く血の臭いで、少しだけ察してしまったけれど。
「……貴様らっ」
「スマイリー。姿が見えないと思ったらそんな頼まれ事をこなしてたのか」
「少し、昔に戻ったような気分ですな」
「取り敢えず、その三つのヤツを隠してくれ。アルタには刺激が強い」
「……それもそうですな」
私の視界を覆っていた手がどかされました。
「このっ、悪魔め……」
ジョンさんはお姉ちゃんに向かってそう言い放ちます。
その表情は……憎しみに満ちていました。
「否定はしない」
「機械みたいに淡々としやがって……本当に人間か、お前は?」
「さて、どうだろうね」
「かはっ……」
お姉ちゃんの繰り出した蹴りを喰らったジョンさんは気絶しました。
……取り敢えず、危機は去ったのかな?




