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TASさんが単独潜入するようです


 ガスパールの蚤市で一悶着あった翌日。

 私達は育ち故郷であるアガーテ……の、隣にあるメモリ森林に辿り着きました。

 ワイバーン便はやはり速いですね。

 お姉ちゃんは相変わらず乗っている間は上の空でした。

 どれだけじっとしているのが嫌なんでしょうか……

 私もスマイリーさんも、呆れた顔で空の旅を過ごしてたよ。


 アガーテの街門はお姉ちゃんによると、既に封鎖されているらしいです。

 戦争に備えて、帝国側から来た者達は一切入れないようにしているんだとか。

 私が直接この目で確かめた訳じゃないんだけどね。


 お姉ちゃんの事だから嘘では無いと思うんだけど、一抹の不安が頭をよぎってしまいます。

 信用しているつもりなのに、信用していたいのに、どうしても疑ってしまう自分が嫌になりそうです。

 以前ならそんな事を心配するなんて、考えた事も無かったのに……


 それもこれも、お姉ちゃんが原因なんです。

 躊躇なく人を殺したり、壁を爆破させたり……

 正直に言うと、お姉ちゃんが怖いと感じてしまいました。

 ちょっと変なところはあるけど、自慢のお姉ちゃんだったのに……


 今のお姉ちゃんなら、目的を達成する為なら何でも出来てしまう。

 障害になるのならどんな相手でも薙ぎ払う。

 ただただ合理的に、冷徹に。

 そんな雰囲気があるのです。


 ……私の故郷が、戦場になっちゃうのかな。

 だとしたら、それだけは何としてでも止めないといけない。

 私はずっとこの街で育って来たから。

 流石にこれは譲れないよ!


 と、私は一人心の中で決意しました。




◆ ◆ ◆




「え、これだけ!?」


 森林の中を歩く事大体2時間くらい。

 テントを張っている帝国軍と合流しました。

 ……50人くらいの、です。


 え、たったこれだけの人数で王国との戦争で勝利を……?

 そもそも、戦いにすらならないんじゃ……?


「おぉ、来たのか」


 私が困惑していると、動きやすそうな格好に着替えた皇帝陛下がいらっしゃいました。

 嘘!? まさか最前線に皇帝自らがやって来るだなんて……

 と言うか、来るならそう言って欲しかったよ。

 びっくりしたじゃんか!


「何で皇帝陛下自らがこのような場所に……」

「皇帝陛下じゃなくて、ヴォルクラッヘでいいぞ? 堅苦しい呼び方は俺も肩が凝るからな」

「え?」


 いやいや、国の一番偉い人をそんな気安く呼べる訳ないじゃないですか。

 私達姉妹は、この人にとっては親友の子供だからそう呼んで欲しいのだろうけど……


「えっと……ヴォルクラッヘ様」

「様も無し、だ」

「で、ではヴォルクラッヘさんで……」

「まあ、良いだろう」


 皇帝陛下……ヴォルクラッヘさんは満足気に頷きました。


 あうあう、やっぱりこの呼び方は恐れ多くて呼びにくいよ。

 心の中ではまだ皇帝陛下って呼ぼうかな。


 元王族だか何だか知らないけど、私は普通の街娘だからね!

 皇帝陛下をさん付けで呼ぶだけでも緊張しちゃうよ!


「スマイリーもお疲れさん。どうだ、道中問題は無かったか?」

「はい、滞りなく」

「そうかそうか」


 私としては問題のありまくりな旅だったんですが……

 ここは空気を読んで何も言わないでおきます。

 そして、スマイリーさんは軍人さん達の列へと歩いて行きました。

 親しげに見えるので、直属の部下達だったりするのかもしれません。


「さて、ここからの行動は何だったかな?」


 皇帝陛下がお姉ちゃんにそう尋ねました。

 私も気になっています……果たして、これからどう動くのか。

 

「まず、私が単独で街に潜入する」

「え、お姉ちゃんだけで?」


 それじゃあ、この軍人さん達は一体何の為にここに集まったの……?


「それで、アリアスの息女を誘拐する」

「ふんふん、誘拐……誘拐!?」


 窃盗や殺人に加えて、今度は誘拐ですとっ!?

 ……殺さないだけ優しいとか考えちゃった自分がいます。

 慣れとは恐ろしいですね……本当に。


「そうだな。んで、それを交渉材料にアリアスがこちら側へ寝返るように説得すると」

「ああ」


 やる事が完全に悪者のするソレじゃないですか。

 それでいいんですか皆は……?


「しかし、本当にそんな事であの腹黒を説得出来るのか? 俺にはどうもそこが納得行かなくてだな」


 皇帝陛下がそんな事をおっしゃいました。

 うーん、どうなんだろう。

 私のアリアス様の印象は『優しい人』なんだけど……

 自分の娘を人質に取られたらどんな反応になるのかは想像が出来ませんね。


「問題ない。説得できる文句は用意してある」


 お姉ちゃんは淡々とそう答えました。

 自信満々、と言う風には見えません。

 まるで決定事項を告げるかのような口調でした。


「確信的な言い方だな?」

「します、させます、させません。が信条なもので」


 何その信条。

 初耳だけど。


「ふむ……貴族の娘を拉致するなら、スマイリーの方が適任なんじゃないか?」

「なるべく嫌われないよう穏便に拐かさないといけないから、私の方が向いている」

「ほうほう、なるほど」


 本当?

 本当に穏便に誘拐するつもりなの?

 後ろからこっそり近付いて鈍器で殴って連れてくるつもりなんじゃ……

 うう、何だか物凄く怪しい気がするよ。


「あ、それともう一つ。アリアスの娘を拉致するのにどれくらいかかるんだ?」

「一時間三十八分二十四秒だな」


 何で秒単位までそんな正確に……?


「細かいねぇ……」

「ちなみに半分以上は単なる移動時間だ」

「そ、そうか……分かった。我々は彼女が帰還するまで此処で待機だ。いいな!」


「「「はっ!!」」」


 50人程の軍人さん達が、皇帝陛下の言葉に敬礼を返しました。

 おお、何だか格好良いですね。

 しかし、これだけの人数で戦争に勝てる……いや、それ以前に戦いになるんでしょうか?


「では、行ってくる」


 それだけ言うと、お姉ちゃんは街の方へと走り去って行きました。

 もう少しゆっくりしていってもいいでしょうに、せっかちなんだから。


 ……お願いだから、いけない事だけは控えて欲しいな。

 お姉ちゃんが離れて行く事に安堵を覚えてしまう私。

 そんな私がまた少しだけ嫌になってしまいました。


「さて、待っている間アルタは暇か?」

「え? ううんと……特に、やる事はありませんね」

「なら、少しの間話相手になってくれ。俺も暇だからな」


 私の気の所為かもしれませんけど、何だか威圧感を感じます……

 有無を言わさない雰囲気があって、断ったら怒られそう。

 ……まあ、断る理由も無いんだけどね。

 ちょっと怖いところはあるけれど、皇帝陛下は優しい人だと思うから。


「は、はい。分かりました」

「んじゃ、こっちのテントに来い」


 え……お、男の人と二人きり!?

 どどどうしよう、ちょっと緊張してきたかもっ……!

 でもでも、今更断れる訳ないし……


「どうした? ほら、早く行くぞ」

「は、はい!」


 皇帝陛下は一番大きなテントへと歩いて行きます。

 うう……絶対今私、緊張で動きがぎこちなくなっているよ。


 そんな私を一瞥した皇帝陛下は、一瞬立ち止まりまって振り返りました。

 そして、自然な動作で私の手を優しく取ります。


「ほら」

「え?」


 あわわ、なんだかエスコートみたい!?

 うう、周囲の軍人さんからの視線が恥ずかしいです……

 こそこそ話をしているようで、私にも何とか聞こえる会話を拾ってみます。


「陛下、もしかして二人目を娶るつもりなんじゃ……」

「いやいや、ここはもう敵地なんだから流石にないだろ」

「でも、皇后様も見た目年齢はあのくらいだしもしかしたらそうかもしれないじゃん?」

「馬鹿言うな。そもそも、あの娘は陛下の朋友だったシェール王の娘なんだぞ?」

「ううん……だけど、友人の娘とするのって背徳的じゃないか?」

「スマイリー様、コイツです」

「戯言を言う奴は特別訓練だ」

「そんなー」


 ……何を話してるのか、聞いていた私にもあまり理解できませんでした。

 スマイリーさんが一人の軍人さんを林の陰に引き摺って行くのを尻目に、私は皇帝陛下と共にテントの中へと入ります。


 中は意外と快適そうな空間でした。

 簡易的ですがベッドもありますし、広さもあって高貴さを感じ取れますね。

 まだお昼ですけどテントの中は結構暗いです。

 蝋燭の灯りのお陰で足元が見えない、なんて事はないですけど。


「ほら、そこ座りな」

「は、はい……」


 私は言われるがままにベッドの上に座りました。


「生憎、椅子を持ち込んでないから座れる場所がここしかなくてな。許せ」

「め、滅相もございません!」


 普通、皇帝陛下に文句なんて付けられませんよ!

 お姉ちゃんなら容赦なく難癖の五つや六つくらい付けてそうだけど……

 

 しかし、この展開はこっそり読んだアザミさんが持っていた本の内容に似ている気がします。

 この後男女二人がベッドの上に寝転んで……その後は、お姉ちゃんに本を取り上げられたので知りません。


「さて、と」


 皇帝陛下は私の横にドカっと座ります。

 何度か背伸びしたり肩をポキポキと鳴らすと、唐突に話し出しました。


「単刀直入に聞くが、姉と何かあったか?」

「えっ?」


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