TASさんは会議に出席するようですが……?
「どうぞ、お召し上がりください」
「わぁ……今日も美味しそう。いただきます!」
皇帝陛下と共に食事をした数日後。
私達はなんと、お城にある豪華な一室に通されて過ごしていました。
お布団もとっても暖かく、用意されているお洋服はとっても可愛いです。
しかも、二人のメイドさんまで付けてくださいました。
皇帝陛下にならお嫁に貰われてもバッチ来いです!
毎日美味しい物を食べられて、とっても楽しいです。
アガーテの街に住んでた頃は、お腹いっぱい食べられる時なんて滅多にありませんでした。
だから、ここ最近は楽しくて仕方が無いです。
お姉ちゃんもそう思ってる……か、どうかは分からないけど。
お姉ちゃんはここ最近、妙な行動ばっかりしてます。
反復横跳びしたり、懸垂したり、腕立て伏せしたり、一定距離を走ったり……
それも、物凄い速さで。
多分だけど、お姉ちゃんは身体を鍛えてるんだと思います。
何の為になのか……もしかしたら、戦争に備えてでしょうか?
他にも、妙ちくりんな事を沢山やっています。
道端でギターを弾いていたり。
ムーンウォークで歩いたり。
絵日記を書いてたり(毎日同じで単調な内容)。
街中で流れる音楽に合わせて足踏みしながら謎のダンスを踊ったり。
どれもこれも奇行にしか見えません。
きっと理由はあるんだと思う。
……た、多分。
訳を聞いてみたいけど、あまり機会が取れなかった。
同じ部屋で寝てるけど、いつも私の方が先に寝ちゃってるし。
朝起きるのも早いし。
どうにも、皇帝陛下やスマイリーさん達と話をしているようです。
私は抜きで。
……何だか、仲間外れみたいで悲しいです。
でも、今日はちょっと違います。
隣にお姉ちゃんが座って、一緒に朝食を食べてるんです。
今日も一人かぁ、と思っていたらやって来ました。
最近だと、朝食を一緒に摂るのは珍しくなっちゃったので嬉しいです。
だけど、お姉ちゃんは何だかボーっとしているみたいで……
「お姉ちゃん」
「何?」
「えっと……調子はどう?」
「憂鬱だね」
「そっかー……え?」
ゆ、憂鬱なの!?
私が知らない間に何かあったのかな……
「この後、開戦を提案する会議を行うの」
「そうなの? 初耳なんだけど……」
「うん。長時間座ったままで動けないんだ」
ああ……そう言う……
うーん……昔は寧ろじっとしている事の方が多かった気がします。
【異能】を獲得してから性格がちょっぴり変化したとは感じてたけど……
段々とそれが顕著になって来たような。
……根っこの所は変わってないしと思うから、あまり気にしない方がいいかもしれない。
私にとっては、以前と同じで優しいお姉ちゃんなんです。
私は食器を置いて手を合わせる。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様」
……横を見たら、お姉ちゃんも食べ終えていたようです。
おかしいな、量は私の方が多いけど食べ始めるのは遅かった筈なのに。
メイドさんが食器を下げてくれます……が、何処か慌ただしい気がする。
何か急がなくちゃいけない事でもあるのかな?
……会議かぁ。
戦争を始める為に行われる会議。
きっと真面目な雰囲気なんだろうなぁ。
私にはきっと難しいと思う。
「それで、会議ってお姉ちゃんも参加するんだよね?」
「うん。それと、アルタも参加しなくちゃいけないの」
「え、私も?」
私が居ても、会議の役には立たないと思うんだけど……
どうしてだろう?
「私って、会議に参加しなくちゃ駄目なの?」
「うん。それも本来の身分で、ね」
「本来の身分?」
ええと……お姉ちゃんが言うには、私達はシェール王国の王族だった筈。
正直、今でもあまり自覚が持ててないです。
今の生活がお貴族様と同じくらい贅沢なんだとは、分かっているつもりですけど……
やっぱり、私の知らない事が多過ぎます。
それに、私達の両親についてもまだ聞けていません。
結局、今何処にいるのか知りたいです。
……たとえ、それが土の下でも。
私だって少しは考えるんです。
お姉ちゃんが中々詳細を話してくれないのは、そう言う事なのかなって。
薄らとですが、私はもう両親が生きていない事を察してしまいました。
……私がその事についてや、他にも色々な話を耳に入れないようにしてくれているんです。
お姉ちゃんは、意外と甘いからね。
でも、私だって当事者の一人なんだから……いつか、ちゃんと話をして欲しいな。
私がそんな事を考えていると、メイドさんが戻って来ました。
いつもなら片方だけが側に控えてくれるんですが、今日は二人ともですね。
その理由は、すぐに分かりました。
「「タス様、アルタ様。お着替えの用意は出来ています」」
「ええ」
お姉ちゃんは当たり前のようにそれを受け入れている。
着替えって……会議に出席する為の衣服があるって事かな?
あ、誰かに着替えて貰うのはもう慣れました。
元々、昔はお姉ちゃんが服を着せてくれたりしてたので抵抗感は無いです。
寧ろ、お姉ちゃんが若干嫌そうにしている気がします。
「……」
「どうかなさいましたか?」
「いや……何でもない」
イライラしていると言うか、ピリついているような……
とにかく、なんだか今日のお姉ちゃんは怒りっぽい気がします。
そ、そんなにじっとしているのが嫌なの?
「着替えが完了しました。会議室までご案内します」
「わぁ……素敵」
先程まで着ていた服も、生地が厚くて良質な物だと一目で分かる物でした。
でも、今着ているドレスは本物のお姫様みたいでとっても可愛いです。
頭には、大きな宝石の付いたティアラを被せられました。
鏡を見てみると、本当に自分がお姫様になったような気分になります。
……事実、本当にお姫様だったらしいけどね。
「行くよ、アルタ」
お姉ちゃんのドレスも私とは異なるデザインだけど、とても似合っています。
私のは可愛い系でしたが、お姉ちゃんは凛々しい感じがしますね。
何だか普段よりも七割り増しで格好良いです。
「うん、お姉ちゃん」
私はお姉ちゃんの差し出した手を取りました。
何だかエスコートされている気分です。
◆ ◆ ◆
「到着しました。どうぞ、中へ」
メイドさんは、扉を開いて私達に中へ入るように促しました。
ここが会議室なのでしょう。
「ご苦労。アルタ」
「なに、お姉ちゃん?」
お姉ちゃんは私の耳元に口を近付けて小さな声で喋り出しました。
「基本、アルタは会議中何も喋らなくて良いよ。私が合図をしたら指示に従ってね」
「うん、分かった」
何をするのかは分からないけど、お姉ちゃんに任せれば何とかなる筈です。
……もう少し詳しく説明してくれたら嬉しいんだけど。
お姉ちゃんと私は、部屋の中へと足を踏み入れました。
まず目に付くのは、部屋の中央にある大きな円卓でしょうか。
十二脚の椅子が等間隔に置かれていて、その内の十脚は既に座っている人がいます。
その殆どは偉そうな雰囲気のある男の人達です。
多分、位の高いお貴族様だよね?
中には皇帝陛下とスマイリーさんもいますが、この中で一番若いのは皇帝陛下かもしれません。
空いている席は、皇帝陛下の左隣の二席。
多分そこが私達の座る場所、かな。
「皆様、お待たせ致しました」
お姉ちゃんは普段の口調が嘘のようにお淑やかな挨拶をしました。
軽く膝を曲げて、優雅な動作でドレスの端を摘み、笑顔を浮かべる。
誰がどう見てもお姫様にしか見えないでしょう。
しかし、私には分かります。
お姉ちゃんの浮かべている、愛らしい笑顔。
あれは愛想笑いです。
嫌々ながらも仕方なく人前で話をする時に作る顔です。
何年もお姉ちゃんと一緒にいる、お姉ちゃんソムリエの私は理解しました。
お姉ちゃんは今、機嫌が悪い……!
「……」
「お、お待たせ致しました皆様……ホホ」
お姉ちゃんが表情を保ったまま視線を私に向けて来たので、私も挨拶をしました。
なるべくお姉ちゃんの真似をして、手足の指先までも意識を集中させて。
ただ見られただけなのに、怒られたような気分になっちゃいますね……
椅子に座る時もゆっくりと、背筋をピンと伸ばしたままでいます。
だってお姉ちゃんの表情が、笑顔から動いてないのだから。
「……さて、全員揃ったな。この二人について、改めて紹介しよう。彼女はカタストロフィ・バレル・シェールと、コールターネ・バレル・シェールだ」
皇帝陛下が私達を部屋にいる皆に向けて、そう紹介しました。
私、そんな本名だったんですね……初耳です。
「ほう、この二人が……」
「まさか、生きてこの場にいらっしゃるとは……」
「奇跡的ですな」
お姉ちゃんに合わせて、軽く頭を下げます。
チラッと視線を上げると、私達を注視する人達の姿が見えました。
大半が好奇の目線で私達を見つめていますが、その中には悪意の混じっている人もいました。
……なんだか、ちょっと怖いな。
私は机の下から他人には見えないように、お姉ちゃんの手をぎゅっと握りました。
お姉ちゃんはさらに笑顔を深めて、私の手を握り返してくれました。
私はそっと手を離しました。
あ、あわわ……!
よく分からないけど、お姉ちゃんがさらに怒っている気がします……
こう言う時は静かにやり過ごすしかありません。
お姉ちゃんは怒ると怖いし面倒臭いんです。
「……では、議題に移ろうか。本日は集まってくれて感謝する」
それから、長い会議が始まりました。
次回、TASさんのイライラタイム。




