TASさんが皇帝と交渉するようです
「私達は、貴方に謁見を申し出に来た」
「スマイリー、お前はこんな幼い姉妹をわざわざ俺の目の前に連れて来たのか?」
「そうですとも」
「……何かしら理由がある、か。単にこの子達が私に会いたいってだけでその通りにする程、お前はお人好しでもないしな」
皇帝陛下は理解が早いです。
強いて言うなら、ちょっと遊び好きっぽい印象がありますが。
この人、女の子が憧れる理想の男性像な気がします。
「んじゃ、一応自己紹介と行くか。俺はこの国の皇帝、ヴォルクラッヘ・フェル・ディバーグだ。と言っても、即位したのはほんの数年前なんだがな。んで、嬢ちゃんの名前は?」
「実は、既に察しが付いているのでしょう?」
「……さて、何の事やら」
皇帝陛下はさっぱりだと言わんばかりに、手を左右に広げて首を横に振りました。
戯けたような雰囲気ですが、皇帝陛下の容貌だと様になっています。
イケメンは何をしても似合うって昔お姉ちゃんが言ってましたが……本当だね。
「私はタス」
「タスね。そっちの妹さんは?」
「わ、私はアルタと言います」
可能な限り礼儀を意識して挨拶をしました。
敬語とか立ち振る舞いなんかは、昔からお姉ちゃんがうるさかったので多少詳しいです。
普段は役に立たないけど、活用できると何だか嬉しいな。
「ほんほん、そうかそうか。一先ず話をする前に何処に寄ろうじゃないか。道端で話すのもアレだし」
「それもそうですね。本音を言うなら、城で話したいのですが……」
スマイリーさんがジト目で皇帝陛下を睨みます。
礼儀に厳しそうな人だし、皇帝陛下がうろうろしている事に思うところがあるんだろう。
「近くに行きつけの美味い店があるんだ。三人共奢るぜ?」
視線をすぐ横の人の目線を華麗にスルーする皇帝陛下。
それにしても美味しいお店ですか。
そう言えば、お腹空いたなぁ……ジュルリ。
「お、そっちの嬢ちゃんはやっぱり腹が減ってるみたいだな?」
「えへへ……ん?」
今、皇帝陛下は「やっぱり」って言いました。
私がお腹が空くのを見通していたように。
つまり、これは……
「皇帝陛下は、人の考えている事が分かるんですね!」
「突然どうした? ははっ、面白い嬢ちゃんだなぁ。さ、早く行こうぜ。俺も腹が減って仕方がないぜ」
「行きましょう! ほら、お姉ちゃんとスマイリーさんも」
皇帝陛下と二人でお姉ちゃんとスマイリーさんの前へと歩きます。
私は二人も早く来て、と手を振りました。
スマイリーさんはやれやれ……とでも言いたげでしたが、私達の後を追って歩き出します。
お姉ちゃんもそれに追従しましたが、無表情ですね。
もしかして、お腹空いてないのかな?
「お姉ちゃん、今ご飯食べたくないの?」
「ご飯なんて芋と油で充分なのに」
「……ストレスで死にそうだから辞めてね」
そう言えば、お姉ちゃんは食に全く関心の無い人でした……
そこは私と似てない所だね。
◆ ◆ ◆
皇帝陛下が案内してくれた行きつけのお店は、想像よりも地味な所でした。
もっとこう、王族だし高級そうなお店に通ってると思ってました。
皇帝陛下もちょっと変わった人なのかもしれません。
お店の結構奥の席に店員さんは通してくれました。
店員さんが皇帝陛下の顔を見て驚かずに、何かを察した顔をしていました。
何度も訪れているのは本当らしいです。
お姉ちゃんと一緒に皇帝陛下とスマイリーさんに向かい合う形で着席しました。
「好きな物を注文してくれ。支払いは全部俺がする」
「私は自分で払いますので……」
「駄目だ、大人しく奢られろ」
「……分かりました。有難くご相伴に与らせて頂きます」
「相変わらず堅いなぁ、お前は」
二人は仲良さそうに談笑しました。
勝手知ったる仲、と言う言葉がとても合っていると思います。
私はメニュー表を手に取ります。
帝国も王国も、同じ言語なので私にも意味が分かります。
と言うか、この大陸では使われている言語は全部共通語らしいです。
何故かは分からないけど。
メニューを全て確認して、私は注文する物を決めました。
「お姉ちゃんはどうする?」
「じゃあ、この馬鈴薯の揚げ物を」
「本当に頼むんだ……」
まさか本気とは思いませんでした。
油っぽい物ばかり食べると寿命が縮むって、クルトン王国から来た商人さんが言ってました。
うーん……不安です。
「アルタは何を頼むんだ?」
私がそんな事を考えていると、皇帝陛下に呼ばれました。
見れば、二人は注文を済ませているようです。
いつの間にか来ていた店員さんが既に注文を聞く態勢に入っていました。
水まで用意してくれています。
いけないいけない、早く頼まないと。
私はメニュー表を店員さんに見えるようにして指差します。
「これ……」
「はい、ソーセージたっぷりのポトフですね」
「から、ここまで全部ください」
「はい……はい?」
私は、5品目分指を下に滑らせました。
「おいおい、大丈夫か?」
「平気ですよ。これくらいなら、ペロリと行けちゃいます!」
「……そうか」
皇帝陛下は複雑そうな表情になりました。
何故でしょうか?
これくらい、いつもと比べたらちょっと多いくらいなのに。
「か、かしこまりました……しばらくお待ちください」
店員さんは驚いたような顔をしていましたが、すぐに業務に戻ります。
早く届かないかなぁ……美味しいらしいし、楽しみです。
「……おほん。それで、俺に何の用なんだ?」
店員さんが私達から離れた所で、皇帝陛下は話を切り出します。
面白がるように私達……と言うか、主にお姉ちゃんを見ながら皇帝陛下はそうおっしゃいます。
「妹が学園に通いたいと願っている。私はそれを叶えてあげたい」
「それはそれは、妹思いで結構な事だな」
「だけど、今そうすると面倒事が起きてしまう」
お姉ちゃんのその言葉に、皇帝陛下は目付きが険しくなります。
「……学園は危険だと言う事か?」
「違う。学園自体に問題は然程ない」
「では、何故?」
「一年後、王国と帝国間に戦争が起きる。いいや、起こすつもりなのだろう?」
「え?」
思わず私は反応してしまいました。
王国と帝国が、戦争をする……?
それは、本当の事なの?
今まで口を挟まずに黙っていたスマイリーさんが驚愕の声を上げます。
「まさかお前、一年後の未来も見えていると言うのか!?」
「それどころか、私が寿命を迎えて死ぬ迄見えている」
「え、そんなに長い間!?」
初耳なんだけど!
そんな長く見えているって、凄過ぎない?
つ、辛くないのかな?
「スマイリーさん。その、皇帝陛下が戦争を起こす予定と言うのは本当なんですか?」
「……ああ、陛下に極秘裏に知らされている私以外、知る者はいないがな」
しかも、本当の事らしい。
一見は優しそうな人な皇帝陛下が、そんな……?
「スマイリーの反応から察するに、お前は未来予知の【異能】を手に入れたのか?」
「正確には違うが、未来が見えているのは本当」
「……それを駆使して帝国までやって来た、と」
「ああ」
皇帝陛下は俯いて何かを考えている様子です。
どんな事を考えているのかは、全く分かりません。
しかし、先程までの余裕のあった表情がすっかり霧散しました。
雰囲気もピリついた感じに変わりました。
「私と妹が今学院に入学しても、戦火に巻き込まれるだろうな」
「それは、帝国が負けると?」
「今の王国には、それだけの力がある」
「そうか……そうなのか」
皇帝陛下は完全に無表情になりました。
私には、皇帝陛下がどんな人なのかを殆ど知りません。
だけど……少しだけ、分かった気がします。
この人は、きっと笑顔の仮面で本当の自分を隠してるんです。
押さえ込んでいる、の方が正しいかもしれません。
私の知り得ない何かを背負っているだと思います。
他人には見せられない、重い何かを。
「だけど、今から私の言う通りにすれば……これだけあれば王国を滅ぼせるよ?」
「なん……だと?」
皇帝陛下は眼をカッと開かせ、お姉ちゃんの立てた三本の指を凝視します。
王国を、滅ぼす……
ちっともそんな素振りを見せないので、もしかしたら私の聞き間違いではないか。
そんな考えが浮かんでは沈んでを私の中で繰り返してました。
だけど、どうやらそんな事はなかったみたいです。
お姉ちゃんは、王国を滅ぼすつもりらしいです。
現実感が無さすぎて、どうやるのかは全く分からないけど。
……私はどうすれば良いのかな。
「三ヶ月で決着するなら、とんでもなく良い話だな」
「三週間だ」
「……」
皇帝陛下は嘘だろ、とでも言いたそうな顔をします。
戦争って、三週間で終わるものなの?
「……お前は何故王国を滅ぼそうとする? いや……その様子だと、愚問か」
「妹の為だ」
「王国を滅ぼせると言うその言葉。信用して良いんだな?」
「無論」
「……良いだろう。一年後とは言わず、今やってやろうじゃないか」
「陛下」
複雑そうな表情をしたスマイリーさんが、皇帝陛下を呼びます。
つまりは、一年後に始まる戦争を前倒しにするって事なんだろう。
私がお願いした事が、回り回って妙な事になってしまいました……
「それで、何から始めるんだ?」
「まずは……」
「お待たせ致しました」
お姉ちゃんの話の途中で、お皿に沢山料理を乗せた店員さんがやって来ました。
わぁ……どれも美味しそうです!
私が注文した分以外もちょっと貰えないかな?
「ねぇ、お姉ちゃん。皇帝陛下も、まずは食べませんか?」
私は、話に集中していた二人にそう提案しました。
難しい話ばかりで嫌になったのもありますけど……
何だか二人とも、苦しそうにも見えてのです。
少しでも、和やかにならないかな、と。
「……そうだな。そうしよう」
皇帝陛下は椅子に背を預けて、一度大きな伸びをしました。
よぉし、一杯食べるぞ!
「いただきまーす!」
ガツガツ……
むしゃむしゃ……
ガツガツ……
美味しい!
「あ、お姉ちゃんちょっとくれない?」
「相変わらずよく食べるわね……喉に詰まらせないようにね」
「あ、俺の分もちょっと食べるか?」
「え、いいんですか!?」
「陛下、この子がお腹壊したらどうするんですか」
「なぁに……大丈夫さ。きっとな」
やっぱり、食事は楽しいです。
この後どうなるのかは分からないけど。
それでも……今この時を思い出せば、どんな困難にも耐えられる。
そんな気がしました。
和やかな食事……




