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TASさんが皇帝に謁見するようです


 お姉ちゃんと一緒に串焼きを食べた翌日。

 仕事が終わる時間……日のすっかり暮れた時間の事です。

 あ、串焼きは凄く美味しかったです。


 お姉ちゃんは列を捌き切ると、部屋の椅子に座り込みました。


「アルタ、そろそろ来るから準備して」

「来るって、昨日言ってた上司さん?」

「そうよ」


 アゾームさんの上司……

 当然だけど、私は会った事がないのでその人について何も知らない。


「アゾームさん、上司ってどんな人なんですか?」

「一言で言えばそうだな……他人に仕事を押し付ける天才とでも言おうか」


 それだけ言うとアゾームさんは押し黙りました。

 ただでさえ濃い目のくまが、更に濃くなった気がします。

 もしかしあら、あまり仲良くないのかもしれません。


「とにかく、アレは厄介な手合いなんだ。でも、嬢ちゃん達の身分を知れば或いは……」

「大丈夫。彼は子供には優しい」

「えっ……そうなのか?」


 アゾームさんはピンと来ていない様子です。

 でもお姉ちゃんが言っているって事は、きっとそうなんだと思う。


「……そろそろ来るよ」


 お姉ちゃんの声が響いた、その直後。


「入るぞ」


 こんこん、と。

 ドアをノックする音と、男の人の声がしました。

 そして、返事をする間もなくドアが開かれます。


 入ってきたのは、モノクルを着けた気難しそうな男性でした。

 片手に時計、もう片手で杖を付いているまさしく紳士みたいな服装。

 眉間が寄っていて、何だか今にも怒られそうだって思ってしまいます。


 普段から堅い表情しかしない人なのかな……

 よく見ると、首元に傷跡もあります。

 端的に言うと、ちょっと怖そうな人です。


「お疲れ様です、スマイリー様」

「ああ……」

 

 アゾームさんは綺麗に頭を下げて挨拶しました。

 どうやらこの人はスマイリーと言う名前らしい。

 見た目の割には、意外と普通な名前……


 おっと、お姉ちゃんも頭を下げていたので慌てて私もそれに倣います。

 

「そっちの二人が、話に聞いた『手伝い』か」

「はい」

「……子供を働かせるとは、中々面白い事をするな」

「…………私から頼んでいませんよ。そうだろう?」


 アゾームさんは笑顔を浮かべているものの、冷や汗が物凄い事になっていました。

 必死そうに顔を向けられたお姉ちゃんは、特に何の感慨も無さそうに会話に入ります。


「はい、そうですね」

「……大体、聞いていた話も信じられんがな。業務効率の上昇率があり得ない」

「私達は王国のアガーテから来ました。洗礼にて【異能】を手に入れ、それを業務に利用しました」

「【異能】か。そう言えばそんな事も言っていたな。ならば、あの荒唐無稽な業務成績もあり得なくはないか……」


 スマイリーさんは少しだけ考え込む素振りを見せていましたが、そう結論付けてくれました。


「……一応加減したし」


 お姉ちゃんが何やら小声で呟いた気がしますが、上手く聞き取れませんでした。


「それで、君の名前は?」

「カタストロフィ・バレル・シェール」

「…………それは、本当か?」

「勿論」


 スマイリーさんの眉が、微かに動きました。

 私にとっても初耳の名前です。


「嘘を吐いてる感じもないな。王国から来たと言う話も納得できるが……」


 無表情でも威圧感を感じるスマイリーさんの視線が、さらに鋭くなってお姉ちゃんを射抜きます。

 蛇に睨まれた蛙、と言う慣用句がふと頭に過りました。

 睨まれているのは私じゃないのに、少し背筋が寒くなってしまいます。


「何故、お前がそれを知っている? あの腹黒のアリアスが徹底的な情報統制を行なっている筈だが」


 アリアス様?

 何故そこでアリアス様の名前が出てくるんだろう?

 それに腹黒って?


「【異能】の影響で知った」

「ふぅん……お前の【異能】は、未来予知ではないのか?」

「正確には異なる。具体的な説明は私にも難しい」

「……仮にそうだとして、だ。王国をどうやって抜け出した? 王国はお前のような強力な【異能】持ちを外に出さないように裏工作をしている筈だが」

「【異能】の全容を話す前に逃げ出した」

「……信じ難い部分もあるが、概ね嘘は無いか」

「もし、私の話を信じてくれるのなら。どうか私達を皇帝の前まで連れて行って欲しい」


 お姉ちゃんがそう言うと、スマイリーさんは顎に手を当てて考え込んでしまいました。


「……理由は?」

「妹を学園に入学させる為よ。アルタの願い事を、私はできるだけ叶えてあげたい」

「お姉ちゃん……」


 でも、王国を滅ぼすとか物騒な一文が抜けてるような……

 お姉ちゃんは無言で目配せして来たので、私からは何も言いませんが。


「そうか……」


 スマイリーさんは、何処か遠い所を眺めるような顔になります。

 過去を懐かしんでいると言うか、ここではない別の何かを見ているような。

 感情の起伏が少ない人みたいなので、何を考えているのかは分かりません。


「……分かった、良いだろう。皇帝陛下への謁見、叶えよう。陛下も友人の娘に会いたいだろう」

「感謝する。行き方はワイバーン便で頼む」

「了解した。料金は此方で持とう」

「今日中に出発したい。この後すぐに乗り場に向かいたい」

「ふむ……だが、この時間帯に空いているか?」

「問題ない。私達が着く頃には一騎空いている」

「ふ……便利な物だな。分かった、そうしよう」


 ……あれよあれよで話が進んじゃいました。

 最近は色々とお姉ちゃんのする事なす事に驚きっぱなしです。


「アルタ、串焼き買ってから行く?」

「え、いいの? だったら食べたい!」


 あれは本当に美味しかった。

 お姉ちゃんは優しいです。


「……明日から、君無しか」


 遠い目で私達を見つめるアゾームさん。

 哀愁を感じさせる姿で私としてはちょっぴり後ろ髪を引かれる思いです。

 しかし、お姉ちゃんはスタスタと歩いて行くので、時折振り返りながら私も着いて行きました。


「ハアァァァァァァァァ……」


 背後で、深く重く長いため息が聞こえて来ました。




◆ ◆ ◆




 ワイバーン便は何処の国でも大体似通った感じらしいです。

 色々と見覚えのあるやり取りでした。

 強いて違う所を挙げるなら、空旅の途中でお姉ちゃんが退屈のあまり白目を剥いていた事くらい。

 あの時はお姉ちゃんが気絶したのかと思って凄く心配しました……


 流石のスマイリーさんも驚いていました。

 うん、誰だって驚くよね……

 無駄に心配させてしまい、申し訳ない気分になりました。


 全く、退屈だからって何でそうなるんでしょうか。

 確かにする事がなくて暇なのは分かるけど……

 ともかく、一日を経て私達は皇帝陛下のいらっしゃる帝都へと辿り着きました。


 なんだか王都と違って全体的に建物が高い気がします。

 それと、流石にこれは一目で分かりますが道がとても広いです。

 馬車が四台は余裕で並べるくらいです。

 勿論狭い道もあります。

 横を見ると結構な頻度で見かけるので、まるで蜘蛛の巣みたいです。

 王都よりも街並みが全体的に小綺麗でお洒落だし、私はこっちの方が好きかもしれません。


 そして、街の中央らしき場所には大きなお城があります。

 あそこに皇帝陛下が……


「よし、城へ向かうぞ。歩いて向かうか」

「いや、今皇帝は城にいない」

「……例の未来予知か?」

「ああ」


 あ、いないんだ……

 お城まで結構な距離があるみたいなので、あそこまで歩かずに済んで少しだけホッとしました。


「しかし、城に居ないとなると何処におられるのか……」

「問題ない。何処にいるかは把握している」


 そう言うと、お姉ちゃんは唐突に通りすがりの人の手を掴みました。

 目深に帽子を被った背の高い男の人です。

 一見しただけだと普通の人に見えます。

 服装も豪華ではなく見窄らしくもない平凡な物ですし。


 い、いやいや……そんなまさか?


「どうも、皇帝陛下」

「……折角スマイリーにはバレずに済みそうだと思ってたのに、まさか嬢ちゃんにバレるとはな」

「陛下……何故こんな所に?」


 どうやら、本当にそのまさかだったらしいです。

 どんな偶然ですか……流石にスマイリーさんも驚いた様子ですよ。

 これも、お姉ちゃんが未来を見て調整しているのかな。

 口にしてないだけで、私が知らない部分でも何かしらをしている気がする。


「普通に昼食食いに来ただけだよ。城の飯は食い飽きて来たからな」

「だからと言って、共も付けずに一人で出歩かれるなど」

「あーあー、やめろやめろ。お前の説教は長いから嫌いなんだ」


 皇帝陛下(多分)は嫌そうにスマイリーさんを見ます。

 何と言うか、想像よりも大分フランクな人ですね……

 この二人は知り合いみたいです。

 しかも、結構仲良しな感じがしますね。

 スマイリーさんは普段からあの街に居る訳では無いのかな?


「お姉ちゃん、この人が皇帝陛下だよね?」

「そうよ」

「わぁ……私達、今凄く偉い人と一緒に居るんだね」

「それを言ったらスマイリーも陛下の懐刀だからかなり偉い人よ」

「あ、そうなんだ……」


 やっぱり、ただ者じゃ無かったみたいです。

 これは後で聞いたんですが、国境付近のあの街はスマイリーさんの実家の領地なんだとか。

 だからよく滞在するしたまに実家の仕事を手伝ったりもしてるんだそうです。


「そんで、そっちの嬢ちゃん達はどちら様だ?」


 そう言いつつ、皇帝陛下は帽子を脱ぎました。

 顔付きは……わっ、結構イケメンだ。

 短い金髪で碧眼、何処か色気を感じさせる雰囲気が漂っています。

 正直に言うと、皇帝とか関係なく街中を歩けばちょっと騒ぎになりそうなくらい顔が良いです。

 強いて言うなら目付きがやや鋭いですが、殆ど気にならない程度です。

 顔だけ見たら、昔夢見た理想の結婚相手かもしれません……


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