合格通知
俺、天田世結は蒼穹の家で蒼穹とその姉である黒郷流菜ととあるものを待っていた。
ちなみに流菜は蒼穹と同じ銀髪に縦ロールがかった髪型をしていて、青白磁色の瞳を持っている。そして蒼穹の双子の姉である。
して、その待っているものとはずばり! 学園の合格通知書である。俺と蒼穹は絶対合格の自信があるが、じつはこの流菜、対抗試験でBグループでありB vs Dで負けたそうだが、その原因は、
「ほんっとうにおかしいよね?! 人数がさ! Bのうちらが4人ってなによ! 美瑠ちゃんのおかげでちょっとは善戦だったけどさすがに27人相手はきついわよほんとに」
Bグループは欠席14人だったそうだ。彼らは下痢だったり腹痛だったり大変だったそうだ。そして残った4人のうち2人は使い物にならなくて、ひとりはなんと五大戦力の白銀家の長女である白銀美瑠だったそうだ。あいつは剣がふつうにうまいってイメージしかない。でももちろんBPは人並み外れていた記憶がある。俺ほどじゃなかったけど。
「美瑠ちゃん? だれだそれ、そんな友達、家に呼んだことあるか?」
「いや? 会場で仲良くなったからねー。今度うち遊びに来るって! あんたには手出させないから大丈夫だよ? あ、でもいざとなったら紅眼で拒絶すればいいんだ」
「あんま無闇に紅眼は使いたくないな。だが安心しろ我姉よ、オレは今のとこねーちゃんいがいの女の子あんま視界に入ってないから」
普通に聞いたら気持ちが悪い姉弟の会話だが、もう慣れてしまった。そこで玄関のチャイムが鳴る。
「あ、オレでとくからさ、世結は自分ちの取りに行ってきな、500mぐらいだろ? 受け答え込みで20秒以内に帰ってきて遅かったら先見とくからな」
「わかったわかった」
俺はそう言って自分の家へ走る。学園の合格通知書は各家同時に配達らしいからもう家でチャイムを鳴らしている頃だろう。
ちなみに距離は534mだ。道のりだと800mぐらいになるけど...。俺はすぐ家に到着して体内時計で20秒計りながら受け答えを行う。
「天田世結さんでいらっしゃいますか?」
「はい。そうです」
「でしたら、こちらが結果の通知書となります」
そう言われて受け取る。会話だけで6秒。ここからドアを閉めて急いで蒼穹の家に戻る。余裕だな。俺はドアを閉めて近くの窓から外にでて蒼穹の家へ跳んでいく。
「ただいまー。何秒だ?」
と蒼穹に訊ねたが、
「あー、ごめんね? 蒼穹なんか会話下手で全然受け取れてないんだよ」
笑いながら流菜が言う。
「笑ってないで、手助けにいかないのか」
と、訊ねると
「なんかかわいいじゃん? このまま放置してたくなった」
あ、そうだ。こいつブラコンだった。姉はブラコンで弟はシスコンってなんだよまじで。
「やべー、なんか流菜の受け取るの時間かかったわー」
といいながら蒼穹が帰ってきた。本人じゃないから当然だろう。
「じゃあ結果みてこうぜ!」
と言ってみんな封筒を開封していく。
「「「せーのッ!!」」」
一斉に中に入っていた紙を広げる。そこにはーーー
「え? なんで合格なの?」
流菜は首をかしげてそう言っていた。
「お前普通に剣技もできるし魔法も使えるんだからそりゃ受かるだろ」
俺はそういうが、彼女はあまり納得していない。彼女の対抗試験成績は
黒郷 流菜 25 kills 2 deaths 28 assists LOSE
である。くそほどいい成績に見える。killとassistの数を見るに全員一回気絶状態になっているし、あの人数差でひとり残しなんてこの上ない成績である。なぜ受からないと思っていたのか不思議である。
「だって負けたのに?! 負けた相手は絶対うちより上のクラスじゃんいやだー!」
合格通知の裏にはクラス分けがあるそうだ。超級クラスは15人。俺はゆっくり裏にめくってクラスを確かめる。
「よっしゃー、学年順位1位で超級クラス入れたぞ」
「あれ? うちもじゃん。14位で超級クラス配属だって」
流菜は不合格だと思っていたらしく、そのくせ超級クラスでもはや驚きもないようだ。
「蒼穹はどうだった?」
蒼穹は首をかしげて「んー?」という顔をしている。
「俺Sクラスらしいわ。学年順位は16位だって」
「え? もともと7位に収めるっていってなかったか? もしお前がミスしてないなら、お前の鑑定の眼をすり抜けたやつが9人もいるってことになるぞ」
そんなやついるのか? と考えていると、
「そうだね。でもこれは"僕"の問題だ」
蒼穹はなにかが分かったようにニヤニヤしている。
「どう墜としてやろうかな」
そう言いながら立ち上がりちょっと待っててと言って外へ出て行った。
オレは9人もがオレの鑑定の眼をすり抜けたとは思っていない。ならなぜこんな順位なのか、それはオレの鑑定ミスや調整ミス以外にもこの順位になりえる可能性が存在するからだ。たとえばその9人を超級クラスへあげろと試験管に指示するいうものがある。だがしかし、これは9人分の金を払わなければならず、たとえどんな富豪でも不可能に近いだろう。そして流菜がその9人の中にいる時点でその可能性を外せる。だからもう一つの可能性、『オレをSへ落とせ』というだけならば可能である。たった一人、しかもクラスを落とすだけ。多少金を持っている家でも手が出せるほどではないだろうかと思う。それでオレの順位が決まったと仮定してみよう。そんなことが可能なのはみんなより先に結果を知らされるであろう政治家の息子や華族のみである。そしてよりによってオレを落としたということは五大戦力の家系の子供は今年はみんな好成績だったらしいので、五大戦力の家系はさすがに落とすわけにいかない、ということを理解できる者。そして、オレを恨んでいる者だと思われる。そして対抗試験の対戦相手であるFグループのやつである可能性がある。Fグループかつ政治家の息子か華族でオレのせいで負けたと思っていたやつなら可能性がある。そしてそいつはもともとSクラス1位、つまり学年16位であったのだろう。
と、いろいろ考えていたうちに学園についた。
「すみません、入学試験の担当の者はいますか?」
オレは校舎の入り口でタバコを吸っていたおっさんに声をかける。見覚えがあったが、まあいいだろう。
「ああ、いると思うからついてきな」
「ありがとうございます」
オレは素直に後を追う。用とか聞かないんだな。結構こうやってくる人多いのか?
到着したのはとある職員室的な場所だが、職員室には見えない。
「ここはどこなんですか?」
「ここは教務室だね。この学校は特殊でね。今では合格者と不合格者、クラス分けを行っている場所だよ」
教務室でクラス分けとかするもんなのか...。ここの教務の先生は大変だな。
「ちなみに探してほしい人がいるんですが」
「おっけー、ちょっとまってて」
オレをドア付近で待たせながらなんか一番忙しそうな女性に声をかけにいった。
「あなたが私に用があるって子?」
「あ、はいそうです」
「要件を聞くわ」
なんか態度がすげー上からなんだけど? まあ立場はそうなんだけどなんか腹立つな。
「えっと、Fグループで、政治家の息子か華族の人っていますか?」
「!」
彼女は急にハッとした表情に変わった。
「あなた、どうやって気づいたわけ?」
おそらくカマだ。そう聞いてきたってことはオレの推論は正しかったとみるべきだが、ここで馬鹿正直に答えると、オレが超級に届いた自信があるやつと思われるだろう。それなら問題ない。ただ、Sだったことに疑問を抱いてここを訪れたのだと思われた場合、手を抜いていたことを視野に入れられる可能性がでてくる。それはまずい。
「なんのことかは分かりませんが、対抗試験で戦った人を試験帰り際見たときなんか睨んできてて、Fグループに振り分けられた友達に彼のことを聞いたんです。成績は聞く限りだと実技はオレより下、そしてオレに負けている。その友達によるとその人は結果が早く届く対象の人だよとだけ伝えられましたので、彼はオレより下の順位じゃないとなと思ったので気になっただけです」
友達なんて嘘だけどどうなるかな?
「ん-...。まあいいでしょう。少し話をしましょう」
なんか話が始まった。
「実は私たちの入学試験の担当の者たち一同にはあなたが言った条件、Fグループで、政治家の息子の人にある話を持ち掛けられました。その人の順位は16位、だから一人落として超級にあげたかったのだと思います。話の内容は、『Aグループで五大戦力の人じゃない成績優秀者をSクラスへ下げろ』という内容でした。見返りはシンプルにお金。ただ、実行しなかった場合職を失う可能性がとても高い」
職を失う? つまりだ。その人の親はやろうと思えば『〇〇という先生を退職にしろ』と命じることができるということだ。
「つまり、かなり立場が上の政治家さんってことか」
「そうですね、しかし気が付かれた以上あなたをもとの順位へもどします」
「気づかれたらしなくてもいいと言われたのですか?」
「......お答えできかねます」
まあ戻してくれるに越したことはない。
「オレは何位ですか?」
「あなたは6位でしたよ。あ、そうだ。現在の6~15位のもとへ再度通知表を届ける必要があるのだけど、14位はあなたのお姉さんだったはずだから持って帰ってくれない? 15位に下がってショックを受けるかもだけど」
「いいですよ、ありがとうございました」
そしてオレは校舎の入り口に立っていたおっさんに連れられて外へでる。
あ、思い出した。このおっさん食堂の変なひとだ! 休日も学校くるんだ...。
そして家へと帰った。
「ただいまー」
元気そうな蒼穹の声が聞こえる。
「「おかえりー」」
俺と流菜で出迎える。
「本来の成績に戻ったよー。6位だって」
「あれ、7位じゃないの?」
流菜が不思議そうに訊ねているが、俺も不思議に思っていたのでありがたい質問だ。
「多分だれか手抜いたんじゃない? それか体調不良とかで実力を発揮できなかったとか」
蒼穹は適当に言っているが、意図的にだとわりとまずくないか?
「あ、そうそうこれ流菜に渡してって試験監督者さんらしき人が」
「え?」
そういいながらその封筒を彼女は開封する。そこに書いてあったのはーーー
「あれ、うち15位じゃん!あっぶな!」
蒼穹の順位がちゃんとしたものに上がったため、流菜の順位が一つ落ちた。
「流菜さ昨日の晩飯のときに、『うち落ちるかもー! 落ちたら蒼穹が一年留年して待ってて!』とかいってた癖にさらっと超級クラスじゃんか。まあオレは世結と対抗試験ぼろ勝ちしたから不合格はないと思ってたけどね」
蒼穹がそう自慢気に言ってるが俺は流菜が落ちるとか思っていない。おそらく蒼穹もそうだ。だが今は、
「じゃあみんな受かった記念的なのでパーティーしよ!」
俺がそう提案する。
「「いいね!」」
「世結くんの家でしようか」
「お! いいねー、世結んとこのお手伝いさんの料理めちゃうまいから食いたい!」
「は? おいおい、勝手に話すすめるな?! まあいいかどうか聞いとくよ」
この時、蒼穹に感じた違和感。流菜の態度の変化。蒼穹が6位だった理由。
ーーーこれらすべてのことを放置したこと。それが間違いだったんだ。
最後の蒼穹の違和感や流菜の態度の違いを文字であらわすのが難しかったので、こういう形にしました。