3話 光あるところに魑魅魍魎の影あり
赤い照射。慌ただしくなる喧騒。
夜の東虹橋市にサイレンの音響が踊り狂うように往復していた。
「……祭りの始まり。今日も宴の夜行がやってくる」
人畜無害の一般人が身に覚えのない意味不明な補導に手間取り、その挙げ句には日常の中に潜む社会の色を垣間見れて、現場が騒然と溢れる前に警笛のコンサートを掻い潜り、解放された高校生、宮代蓮は心置きなく骨休めが出来るのだ。
今日はやけに疲れる日だった。
沸き上がる不可思議の連続に好奇なる衝動は止められない。寄り道をしたばかりに生乾きのような醜悪な結末を生じてしまう羽目に。
自分の落ち度のせいで何名が地獄の篩に掛けて突き落としたのか。
これ以上真相を知る由もないが、物騒な事件が減るのであれば、補導される意味はあったのだろう。
されど、善意は落穂拾いの社会貢献。
ボランティア未満な泥水を啜る哀れな活躍に過ぎない。
見返りのない革命。
未来永劫、誰にも知られずに怪人と戦い続ける特撮ヒーローのように。
「───東虹橋市。……この街は少しだけ、歪みが潜んでいる」
光あるところに魑魅魍魎の影がある。
曇天色に染める夜景は巡る。赴きの欠けた雑音の絶えない東虹橋市。抑圧された悪意の感情が顕著になる歪な時間帯。常識を脅かす影が紛れ込んでいる。
擦れ違う人々の微熱を奪う違和感の遭遇。愚鈍めいた疑問が恐怖に変貌を遂げる途端、照明を落とすビルの摩天楼を合図に当たり前だった景色のハズが憎悪と嫉妬を孕んだ闇夜の世界に誘われてしまう。
陰と陽は鏡合わせのように。
表舞台では決して語られぬ裏側の部分。
我々が知る景色の狭間には、認識を凌駕する超常現象が起きていることを。
雑音の絶えない夜の東虹橋市は『怪異』の温床地帯なのだ───。