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1話 怪異の前の静けさ
今日も東虹橋市に夜の帳が下りる。
派手なネオンの色彩が贅沢に乱反射をして液晶画面をジャックする。人々の喧騒が混じる大通りはすっかり夜景に魅入られていた。
擦れ違う自動車の走行音。薄暗い街灯に照らされる街路樹。
気怠そうになる小夜の香り。
普段の世界を反転させたような裏側の光景に誘われて、慣れてしまった大人達が羽目を外す場所。快楽と欺瞞が交錯する、混沌が蔓延る場所だ。
足を踏み入れてはいけない。
群衆の歪んだ叫喚が現世に放たれたとき。
肩掛けの竹刀袋を背負い、白いイヤホンを着けたメガネの男子高校生、宮代蓮は二人の警官に絶賛補導されていた。