わけのわからない嫌がらせを受けた魔女
へっぽこ魔女、イザベラは発狂していた。
何者かに愛用のティーカップをタンスの角で叩き割られた事実に嘆いていた。
一体誰だ、誰なんだ。
私のティーカップを割ったのは。
見つけ次第、お前の悪頭も同じようにしてやろう。
そう決意を固めるのは想像にかたくない。
イザベラは、自宅近くの沼地に容疑者を集めた。
自称最強魔女セーラ。
自傷行為大好きメッセル。
自分以外信じられないモナカ。
弟子のティーカ。
イザベラは、まずはセーラに質問をした。
「昨日の夜、貴方はどこで何をしていましたか?」
事件解決にあたり、重要なアリバイを証明してもらう。
これは全員に聞かなければならない。
「家で本を読んでた。最近流行りの転生物」
と、まるで転生者本人のように、セーラはぽかんと答えた。
彼女の言葉に嘘はなさそう。
次はメッセルを問い詰める。
「貴方は何をしていましたか?」
「ふぇ? ボクは腕にイフリート男爵の絵を描いてたよー」
「はい結構です。帰っていいですよ」
「わーい」
メッセルの知能指数に脳が腐りかけたイザベラ。
次はモナカである。
「何をしていましたか?」
「わ…わたしは……わわわわわわわっ」
緊張に耐えきれず、モナカが故障してしまう。
よって強制的にご退場。
「はあ…」
残るは一人。
イザベラを困らせる一人。
弟子のティーカ。
かの有名な、プクラッシャー家ご令嬢のティーカ。
「ドンマイです、師匠」
それは天使の美声であった。
満面の笑みで、ティーカが言った。
ドンマイだってさ、イザベラ。
セーラが思ったことである。
「一応聞いておきますが、やった?」
「やってません」
「とか言っちゃって、本当はやったんでしょ?」
「やってません」
「どうして嘘つくのかな? かな?」
「嘘なんてついてません、せん」
「今吐けば許してあげる」
「ほんとですか!?」
「やった?」
「やってません」
話し合いは平行線であった。
イザベラが頭を抱え出した。
「おい大丈夫か?」
優しいセーラが、イザベラの頭を鷲掴みにして振った。
凄まじい腕力の持ち主である。
「わー! ボクにもやってよー!」
すかさずメッセルが乱入し、一時騒然とする。
それでもイザベラは怒らない。
怒れる相手一人だけ。
ティーカップを割った犯人だけ。
「自分、もう帰っていいですか? 時間の無駄なんで」
そう言って、ティーカが足を滑らせた。
転んで泣いて、気が緩んだ。
指先の絆創膏が剥がれた。
「あら貴方、手どうしたの?」
「これですか? ティーカップ叩き割った時に切りました」
なんと可哀想な弟子であろうか。
そう思い、イザベラはティーカを底なし沼に放り投げた。
「バイビー!」
メッセルの声に、ティーカは親指を立てて応えた。
多分、脱出出来ると思われる。
そんな勘で生き延びてきた、魔女のはなし。