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19 修羅場の作り方

誤字多くて申し訳ありません!


とりあえず急いで投稿しておりまして、後ほど確認するようにいたします。

 

「おー! やっぱ刹那じゃねーか! 今日は泣かねーのか?」

「碧くん相変わらずいじわる!」


 休み時間は見せ物のように囲まれていた刹那は、昼休みになってようやく解放されたようで、今はこうして凪を独占しようとべったりだ。


 お互いの身体が触れてしまいそうな距離に椅子を置いて、楽しそうに弁当箱を広げ始める。


 凪は、基本的には図太いつもりだが、さすがにこの状況はキツすぎる。とりあえず針の筵のような状況をなんとかしなくてはいけない。


 碧はたまたま寄っただけなので、すぐに自分の教室に帰るつもりらしい。なので、なおさらこの状況から脱出する必要がある。


「俺、昼休みは用事あるから」

「え? なんの用事? 久しぶりに会えたんだから、お話しようよ」

「それはまた今度な。担任に呼ばれてるから」

「そっかぁ。分かった! 我慢するね」


 逃げるように教室を出ると、後ろを付いてきた碧が笑っていた。


「聞いたぞ凪。公開告白みたいなことされたんだって?」

「いや「好きな人いる」って言ってただけだし」

「ふーん。刹那かなり可愛くなってたじゃん。少しはドキッとしたろ?」

「昔からかなり可愛かったし、あまり驚きは無かったかな」

「はは! 凪らしいな」


 碧は上機嫌で戻っていったのだが、なにがそんなに楽しいのだろうか。こちらは冷や汗をかきながら対処しているというのに――。


 考えるべきことは色々あるが、とりあえず昼休みの一時間はゆっくりできるので、急いで聖域へと向かった。


(よし! ようやく落ち着け――ない! ……なんでいるかな)


 すでに食事を始めていた音葉は、一旦持っていた箸を置くと隣のスペースをぽんぽんと叩いている。


「座れ」ということらしい。


 とりあえず要求された通り隣に座った。


「なんでいるの?」

「だめですか?」

「だめってことはないけど」

「話したいことがあったので、こうして逃げられない場所を選びました」

「はぁ、そうですか」


 とりあえず急いで食べていると、隣からお茶が入ったカップを差し出してきた。


「どうぞ」

「ありがと」


 断る理由も無いので受け取る。


 二人とも食事が終わると、音葉は小さく咳払いをしてから正面に向き合う。


「まずは昨日のことです。酷いことを言ってしまい申し訳ありませんでした」

「……だから――」

「私が謝りたいからこうしています。私を「嫌い」というのも理解しました」

「そっか」


 音葉らしいというかなんというか――。


 ひとつひとつをきっちりとしないと落ち着かない性分なのだろう。


 それでも、あやふやにしているよりは幾分かマシなのだろうか。凪はどちらかというと曖昧にする性格なので、こうして真正面から来られるとなんと言っていいか分からなくなってしまう。


(どちらかといえば俺個人の問題だから、水瀬さんは本当に悪くないって思ってるんだけどな)


 それでも、この場では謝罪を受けとらないといけないのだろう。多分そうしないと音葉は納得しない。


「うん、分かった」

「それは“仲直りをした“という意味でよろしいですか?」

「別に喧嘩してる訳じゃないけどね。でも、そうとってもらって大丈夫」

「……よかった。ありがとうございます」


 どうして自分相手にそんなに嬉しそうに微笑むのか。心から安堵したようなその表情は何を意味するのか。


 ――分からない。


「嫌い」と突き放してしまえば、それ以降寄ってくる者はいなかった。


 当たり前の話だ。


 わざわざ自分を嫌っている人に近付く意味が無いのだから――。


(なんでそんなに必死なの? 俺になにを期待しているの?)


「どうして俺なの? 適当に合わせながら生活したらいいじゃない。なぜ自分から関わってくるの?」

「私がそうしたいからです」


 音葉はずっと胸元に手を当てていて、よく見るとその手の下には凪が贈ったペンダントが光っていた。


「それ、着けてるんだね」

「はい。宝物ですから」

「――ッ!」


 駆け引きもなにもない。

 打算の無いその表情は、あまりに純粋すぎて直視できなかった。


 その目が苦手だ。


 自分のすべてを見透かされそうで、どうしようもなく不安になってしまう。

 自分がどれだけ小さくて汚い人間なのかを痛感してしまう。


「私のせいでついた傷、もうほとんど目立たなくなりましたね」


 音葉は手を伸ばすと凪の頬に優しく触れた。

 しなやかな手は相変わらず冷んやりしていて、火照った顔の熱を奪っていく。


「私はあなたを傷付けてばかりです」

「そんな感じで触られると少し恥ずかしいんだけど」

「ふふっ、月島さんもそんな風に照れるのですね」

「……あまり見ないでよ」


 差し伸べた手で頬をさすりながら、凪の反応を楽しむかのように悪戯っぽく笑っている。


「いくらでも嫌ってくれて構いません。ですが私は頑張らせてもらいます」

「頑張る? なにを?」

「それは教えられません」

「よく分からないけど、あまり俺に期待しないでね?」

「善処します」


 どれだけ突き放してみても音葉にはそれほど効果が無いのかもしれない。


 ーーあんたが嫌いだ。だから俺の心の内に入ってこないで。


 そんなことを伝えたらどんな反応をするのだろうか。いや……本当は分かっている、音葉はそれでも自分から離れはしないのだろう。


 少しだけーー。ほんの少しだけ自惚れてみれば彼女の心の内は見えてくるはずだ。だが、今の凪にそんな余裕は無かった。


「……ペンダント。学校で着けていると没収されるよ?」

「大丈夫ですよ。こうして中にしまっていますから。でも……万が一見つかったら困りますね。あまり学校には着けてこないようにします」

「気に入ってくれて良かったよ」

「はい。ですから宝物です。……突然後ろを向いてどうしたのですか?」


 凪は「なんでもないよ」と一言だけ置いてその場を後にする。


 もうこれ以上、今の自身の顔を見られたくなかった。





 ◇ ◇ ◇





 昼休みが終わり教室に戻ると、刹那はたくさんの人に囲まれて楽しそうに会話していた。


 昔から誰にも嫌われないような人柄で、彼女の周りには自然と人が集まってしまう。そしていつでもニコニコと楽しそうにしていて、幼かった凪は「天使みたいだな」なんて思ったりもした。


 こうして見るとまさしくその通りだと思う。


「あ、凪くんおかえり。見て! 祭ちゃんにツインテールにしてもらったの! どうかな?」

「よく似合ってるよ」

「……凪くんに褒められちゃった。……やったね」

「もーーーー!! こんな可愛い子と知り合いなら、もっと早く教えてほしかったよっ」

「わふっ!」


 愛葉は刹那を思い切り抱き締めていたが、その胸の中では窒息してしまうと思う。どうやら自分が持っている凶器に気が付いていないらしい。


「愛葉さん。天ヶ瀬が苦しそう」

「あ、ごめんね」


 はぁはぁ言いながら凪の方へ寄ってきた刹那は、なぜか胸を叩いてきた。なにかを抗議するような上目遣いでじっと睨んでくる。


「どうしたの天ヶ瀬?」

「刹那だよ?」

「いや、それはさすがに――」

「ずっと刹那って呼んでた!」


 昔はたしかに下の名で呼び捨てにしていたが、今は二人ともそれぞれ立場が違う。

 刹那は上級国民、凪は一般市民なのだ。呼び捨てなど恐れ多いことはできるはずもない。


「俺みたいなモブには無理だよ。お互い昔とは違うし、分かるでしょ?」

「刹那!」

「いや無理だって」

「刹那!」

「……はぁ、分かったよ刹那。これでいい?」


 嬉しくてたまらない悪戯っ子のように笑う刹那は、その勢いのまま凪の懐に飛び込んでしまった。

 そのままどさくさに紛れて背中に両手を回し、力の限り抱き締めてくる。


「はぁ……凪くんの匂いだ」

「刹那! 離れて! これは本当にまずいから!」

「やーだよー」


「月島さんは困っているようです。離れてはいかがでしょう?」


(水瀬!? え? なんで?)


 これまで、校内ではなるべくお互いが関わらないようにしてきた。それが音葉のためであり、凪のためでもあったはずだ。


 それなのに――。なぜか音葉から話し掛けてきた。


「わっ、綺麗な人! ……凪くんとどんな関係なんですか?」

「水瀬音葉と申します。月島さんは……一緒の家で暮らしています」


 凪は、何が起こったか理解が追い付かず唖然としている。


 そして、衝撃発言を耳にしたクラスメイト達も氷のように固まっていた。

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