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16 祭と共に②

いつも読んでいただきありがとうございます。


息抜きもかねながら色々試しながら執筆しております。


突然作品名が変わるかもしれませんがご容赦ください。

 

「うっわ、えっぐ! イケメンじゃん!」

「祭ちゃんがリア充に……」

「ははは……」


 合流した愛葉の友人二人は凪の姿を見て、自己紹介より前に驚きの声を漏らす。


「聞いているかもしれないけど、祭の彼氏の月島凪です。よろしくお願いします」

佐倉香さくらかおりです。よろしくね! 月島さん!」

阿久津優奈あくつゆうなです。月島さんですね。よろしくお願いします」


 佐倉は右耳にいくつかピアスが光っていて、全体的な容姿を見ても碧の女版といった感じか。全身から生命力が漲っているような元気な印象を受けた。


 対して阿久津は真逆のタイプで、黒髪ロング、眼鏡、清楚と優等生を絵に描いたような容姿だ。立ち振る舞いも見た目通りに端麗で、ザ・日本美人といったところだろうか。


 二人とも初対面にも関わらず友好的で、打ち解けるまでにそれほど時間はかからなかった。


「それでそれで? どっちから告ったん!?」

「私から! 凪くんすっごく優しいしかっこいいんだよっ!」

「月島さんは祭ちゃんと普通に会話できてますしね。あーあ、やっぱり本物の彼氏なのかー、いいなぁ」

「えへへ〜、いいでしょ〜」


(あまり調子に乗ってると後で天罰食らうぞ?)


 とりあえず二人が疑っている様子はないので最悪の事態だけは免れたようだ。後は適当に会話を合わせていけばなんとかなるだろう。それにしても背筋を伸ばして歩くのはとても疲れる。


 駅からはバスに乗っていくのだが、そういえば碧達はどうするのだろう。バスの本数自体が少なめなので、尾行するのであれば同じバスに乗る必要が出てくるのだがーー。


「やべーぞ! どうする!?」

「ん〜、タクシー?」

「おそらくあのバスだと動物園方面です。それほど離れていませんしタクシーでよろしいかと。三人で割ればむしろバスより安くなるかもしれません」

「さすがおとちゃん! 頼りになるなぁ」


 どうやらタクシーで付いてくるようだ。それにしてももう少し隠れる努力をしてほしいものだ。音葉がついていながらなんたる惨状だろう。


(ん? メール?)


 スマホが鳴ったので通知を確認すると音葉からだった。


『気付かないふりをお願いします。八神さんと朝宮さんは自信満々のようですが、月島さんは気付いていますよね? 返信は不要です』


(なるほど。すべてお見通しだったから、きちんと隠れる必要がなかったってことね。″返信不要″って凄い自信だな)


 どうやらあちらは音葉に任せて良さそうだ。目的地が動物園なので、いざ着いたら玲那は碧とのデートに意識がシフトするだろう。そうなってしまえば尾行は終了だ。


 結果的に音葉を一人にしてしまうのが少し心配だが、まさか愛葉を放り出していく訳にもいかない。


「祭、ちょっとトイレ行ってきていい?」

「うんっ! 気を付けてね。バス来るまでもう少し時間あるし、私達はここにいるよっ」

「了解」


 愛葉達から見えない位置まで来るとスマホを取り出し電話をかける。


『はい』

「やっぱり全部気付いてた?」

『月島さんが気付いていることに気付いていました』

「こわっ」


 予想は的中していたらしく、音葉もそれを隠すつもりはないようだ。


 それはいいとして、一番の疑問は“なぜ音葉が付いてきたか”だ。凪の知っている限り、水瀬音葉という人間は誰かに流されてこのような場には来ない。


 せっかくの休日なら部屋の掃除や料理、勉強など、自分のために時間を使えばいいのに、なぜかこのような無益な行動をしている。


「そういえば、なんで付いてきたの?」

『……その、たまには動物園もいいかな、と』

「そういうことね」

『はい』


 どうもしっくりこない説明だが、本人が言うならそうなのだろう。時間が無いので手短に用件を伝えた。


「もう知ってそうだけど行き先は動物園なんだよね」

『はい。知っています』

「で、多分着いたら碧は玲那さんに振り回されるから、水瀬さんが一人になっちゃうと思う」

『はい。そうかもしれませんね』

「なにかあったら電話して。水瀬さんみたいな人が一人だと言い寄る男も多いだろうし」

『……』


 電話の向こうでなにか考えているのか、二人とも数秒無言になる。

 音葉がなにか言いたそうだったので、あちらから話すのをじっと待っていた。


『……心配……ですか?』

「だって水瀬さんアホみたいに目立つし」

『……分かりました。では、なにかあったら月島さんを頼らせてもらいます』

「うん。とりあえずそれだけ! じゃあ俺戻るから」

『あの!』

「ん? なに?」

『…………いえ、なんでもありません。失礼します』


 なにか含みのある言い方だったが聞く前に一方的に切られてしまう。


 どうも様子がおかしい気がした。声色も若干元気がなかったし疲れているのかもしれない。


 無性に気になってもう一度電話をかけたが、呼び出しはするものの応答は無かった。


(……後で聞くか)


 とりあえず祭達のところへ戻った。





 ◇ ◇ ◇





 四人を乗せたバスは十五分ほどかけて動物園に到着した。


 さっそく入場券を購入して中に入ったのだが、佐倉と阿久津は凪を見てニヤニヤしている。


「私達のことは気にせず手ぐらい繋いだら?」

「え? そ、それはねっ! ――っ!」


 こういうことは躊躇せずに済ませた方がいい。充分予想できた展開だったので、事前練習を済ませている凪の行動は早かった。


 指摘されてすぐに愛葉の手を握ると、見せびらかすように繋がった手を上げる。


 阿久津は「はぁ」と大きな溜息をついていた。


「いいなぁ祭」

「もういい! 勘弁して! 分かった、分かったから! 邪魔したくないから二人で楽しんできて!

 私達も女二人で楽しむから!」


 そんな凪と愛葉の姿を目の当たりにして、当てつけのように女二人で手を繋ぐとそのままどこかへ行ってしまう。どうやら予想より早くミッションが達成できてしまったようだ。


 とりあえず繋いでいた手を離すと、愛葉はニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべている。


「私じゃなかったら惚れているねっ!」

「いやー、それはないよね」

「ん? 誰かと繋いだことあるの?」

「うん。天界に住んでる人」

「ははっ、なにそれっ!」


 恋人というよりは妹と表現した方がイメージには近い。「愛葉は本当に自分に惚れるかも」なんて自惚れた考えはないし、そんな凪だからこうしてパートナーに指名されたのだろう。


 ーー物凄く慌ただしいやつだが、たまには巻き込まれてみるのも悪くない。


 そんな風に考える程度には自分自身、好意を抱いているとは思う。


 さて、こうしてめでたく解放された訳だがこの後はどうするつもりなのか。


「で、どうするの?」

「う〜ん、どうしよっ」

「それなら俺にいい考えがあるけど?」

「聞きましょう!」

「帰ろう」

「う〜ん! ブレないっ!」


 しがみつくように腕を組んできた愛葉は、「さ! 行こっ」とかなり乗り気のようだ。最近はこうして流される展開も慣れたもので、無駄に順応している自分に少しだけ呆れた。


 結局は流れに任せて園内を回っているが、今日は日差しが強いせいでぐったりと眠ったままの動物も多い。猿とかあのへんは無駄に元気があったが、大型の動物は休憩中らしい。


「いいなぁ。俺も飼われたい」

「動物園でそんなこと言う人初めて見たよっ」

「だって見てよ。あんな風に好きなだけ寝て、起きたら食糧があるんだよ? これは楽園」

「そんなこと言ってたらモテないよ?」

「それで困ることある?」

「う〜む」


 そんなに難しい顔をされても困る。


 そもそもこのような陽キャの密集地にいることが間違いで、ここはあくまで敵地なのだ。「きゃはは、うふふ」なんてやり取りを目の当たりにしたら胃もたれする。


 だが、動物を眺める時間は悪くない。単純に生態が気になるし、予想外の行動をされると新鮮で嬉しくなってしまう。ライオンなんかは特に良い、あのだらけ具合など最高だ。


「凄く気持ち悪い笑顔だけど、楽しそうで良かった!」

「俺は産まれる動物間違えたと思う」

「いや〜、多分凪くんだと自然界では生きていけないと思うけどなっ。そうやって熱視線を向けてるライオンだってやるときはやると思う」

「そうか、じゃあナマケモノだね。いいよね漢字にすると特に。怠け者」

「もう好きにしたらいいよっ」


 一通り園内を見終えると、遅めの昼食を取りながらスマホを確認した。誰からも連絡は来ていなかったのでとりあえずは一安心だろう。


 隣に座った愛葉はもりもりとハンバーガーを貪っているが、口周りにソースがついてせっかくの美人が台無しだった。

 ポケットティッシュを取り出すと口周りを拭いてやる。


「かたじけない!」

「俺以外の男だったらドン引きしてると思うよ」

「凪くんだから大丈夫!」

「せめて口の中を空にしてから話してね」


 仕方なしに介護をしていると斜め前の席から生暖かい視線を感じ、そちらに目を向けると佐倉と阿久津がなんとも言えない表情でこちらを見ている。


 嫉妬しているのか、それとも喜んでいるのかーー。


 二人とも口元は緩んでいるが目がまったく笑っていなくて、むしろ睨まれていると言ってもいい。


「いいなぁ、なんで祭だけ……」

「あんな女らしくない姿見ても許せるって凄くない!? 祭、愛されすぎでしょ!」


 その声量だとバッチリこちらまで聞こえてきた訳だが、それにしても″愛″の定義とはどういうものなのだろう。少なくとも今こうして愛葉の世話をしているのは、同じ読みでも″哀″の方だが。


「っ!! んぐ!!」

「ほれ。そんな急いで食うからだよ」


 愛葉の飲み物はすでに空だったので、仕方なく自分のものを差し出した。


「ーーぷはっ! ありがとねっ!」

「これは世間一般で間接キスと呼ばれるものだよ? 気にしないの?」

「う〜ん、凪くんだし」

「なるほどね。男として見ていないどころかカーストの最底辺、ミジンコ人間程度ではまったく動じないと?」

「凪くんの自己評価は色々おかしいと思うよ?」

「冗談も通じない」

「冗談に聞こえないんだよね」


 苦笑いしていた愛葉は、不意に鳴ったスマホを見て立ち上がった。


 どうやら佐倉と阿久津は先に帰るらしく、今日は本当にこれで終わりのようだ。まだ午後二時半ぐらいだが、園内も見終わったので凪達も帰ることにした。


 予定より早く終わるのは朗報で、特に寄る場所もないので後はアザミ荘に帰るだけだろう。


「あ〜楽しかったっ! また来ようねっ!」

「えぇ……嫌です」

「そこは嘘でも「うん」って言わないと」


「はいはい」と適当に相槌しながらふと別の方向に目を向けた。


(……はぁ。どうするのが正解なんだろ。このまま帰りたいけど。うーん)


「ごめん。俺帰りに寄るところあって、悪いんだけど一人で帰ってもらってもいい?」

「あ、そうなの? 全然おっけ〜!」


 愛葉が面倒な性格じゃなくて助かった。


 大手を振って帰っていったので後腐れもなさそうで安心だ。あの様子だと「凪に惚れた」なんて馬鹿な話も無いだろう。


「……はぁ」


 大きな溜息をひとつ、そして頭をガシガシ掻きながらその女性に歩み寄る。


「お嬢さん、お一人ですか?」

「凄く気持ち悪いです。近寄らないでいただけますか?」

「恐縮です」


 無表情で毒を吐く音葉は、人形のような無機質で冷たい瞳をこちらに向けた。

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