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15 祭と共に①

 凪にとっては天国のようなテスト期間だったが、大半の生徒にとっては地獄だったようだ。


 最終日ともなると疲労困憊で机に突っ伏している者もちらほら、「もういいや」と諦めて開き直っている姿も散見された。


 なにはともあれテスト期間は終わり、凪にとってはこれから地獄が始まる。


 一体なにが悲しくて土日をリア充のために消費しなくてはならないのか――。


 お互いの恋人を自慢したり、見せ合ったりしないと死んでしまう病気なのだろうか。青春を謳歌する者達の思考回路は理解に苦しむ。


 だが、文句ばかり言っている訳にもいかない。引き受けたからには最低限の責務はあるし、なるべく愛葉に恥をかかせないように振る舞うべきだろう。


「今すぐ地球割れないかなぁ」

「私を巻き込まないでください。――はい、終わりです」


 現在、リビングで鏡の前に座り音葉に髪のセットをお願いしており、その様子を見ていた玲那は心底驚いて目を見開いていた。


「わぁ! 凪くんとってもかっこいいよ〜!」

「俺は知ってたけどな。凪って目の下のクマは酷いけど、顔立ちは整ってるし」

「そっかぁ。それでそれで? 今日は音葉ちゃんと遊びに行くの〜?」


 なにも知らない玲那の言葉に場は一瞬凍りついてしまう。


「いえ、別件です」

「え〜? 他の女の子?」

「友人と出かけるだけですよ。できるなら碧と代わってもらいたいぐらいには嫌です」

「それはだめ〜、あおくんは私とで〜とだし」

「は? 聞いてねーし」


 碧と玲那はいつも通りとして、少し気になるのは音葉の反応だったが――。どうやら杞憂だったようだ。いつも通りで特に変わった様子はない。


 愛葉とは駅前で待ち合わせで、現地はやはり少し離れた場所らしい。

 どこに行くかは聞いていないが、できればカラオケなどスキルを要求されるものは勘弁して欲しいものだ。


(牧場とかいいよね。無限に眠れそう)


「そんなところには行かないと思いますよ?」

「心の中読むのやめて」

「美術館、図書館、いえ……牧場などでしょうか」

「ひっ」

「寝てはいけませんよ?」

「え? なに? 水瀬さんってそっち系の力ある人?」


 怠惰な性格はある程度把握されているようで、その反応を見た音葉は咎めるような視線を向けてきた。


 玲那は不思議そうに首を傾げ、碧はずっとニヤニヤしている。


 一通り準備を終えると、忘れ物がないか確認してから玄関に向かった。足取りはやはり重い。


「じゃあ、いってきます」


 三人に見送られながらアザミ荘を出た。


「うーし、じゃあ行くぞレナ」

「は〜い」

「お二人はどちらへ?」

「え? 水瀬は行ねーの? 凪関連でこんな楽しいイベントはレアだぞ?」

「も、もしかして後をつけるおつもりで?」

「当然。絶対面白いだろ」


 凪に関わると色々なことが起こるので、碧は度々こうして後をつけて楽しんでいる。あわよくば暴力沙汰まで発展することもあるので、それを加味すれば一石二鳥だ。

 極力バレないようにしているが、本当に困っている時は迷わず助けるつもりでいる。


 うきうきの二人を止めることもできず、自身もどうしたらいいのか分からなくなった音葉は、結局碧に同行することになってしまった。

 前を行く二人を小走りで追いかける。


 そして凪の姿を見つけると、三人は見失わない程度に距離を保って静かに後をつける。


(……なんかなぁ)


 凪は軽く横を見ると、ぎりぎり視界の端で三人の姿を捉えた。


「バレてないと思ってるんだろうなぁ。なぜか水瀬さんまでいるし」


「ついてくるな」と言ってもどうせ聞き入れないのだろう。ならばもう諦めるしかない。


 肩を落としながら駅へと向かった。





 ◇ ◇ ◇





「おはよっ、月島きゅん! ……わお! すっごいイケメンさんだねぇ! びっくりっ!」

「おはよ、あまり大きい声出さないで。脳に響いて痛い。ところで……帰っていい?」

「でも、中身は変わらずゲスっぽくて安心ですよっ」


 愛葉は学校での印象とは真逆のような格好をしていて驚いた。


 普段、音葉という化物を見ているので感覚が麻痺しているが、こうして見ると愛葉もやはりかなり可愛いと思う。


 白いTシャツに黒のパンツ姿で、Tシャツはビッグシルエットのものでなんかぶかぶかしている。メガネは外してコンタクトにしておりキャップを被っていた。


 肩からかけたボディバッグで胸が強調されていて、なかなかに目のやり場に困る。 


「偶然にも二人とも格好が白黒だねっ。カップルっぽくて良きっ」

「「良き」ってなに? 日本語下手なの?」

「月島きゅんも使っていいぞっ」

「え? 普通に嫌だけど」


 ばんばん背中を叩かれるのだが、このテンションの高さはなんなのだろう。他の男子にも同じように接したらきっと今頃はクラスの人気者だ。


「普段からそんな風に他の男子とも話したらいいのに」

「私にできる訳ないじゃん!」


 悲しいことを自信満々で話す姿は見ていて色々と感じるものがあった。この話題にはあまり触れないようにしようと思う。


「では、打ち合わせ通り、今日はよろしくね()くんっ」

「俺は()でいいんだよね?」

「ばっちり!」

「今日どこ行くの?」

「生き物を鑑賞したり触れたりするところ!」


 少し考えるとすぐにピンときた。


「公園でアリの観察か、悪くない。……知ってるか? 一般に働きアリと呼ばれるものの中には、二割ほどまったく働かないアリがいる。これはなにか危機があった時のための“予備軍“と考えられているが、きっとそいつらは上手くサボっているだけだと思う」

「それでそれで?」

「俺はそんなアリになりたい」

「う〜ん! 発想が斜め上っ!」


 話を聞くと今日は動物園に行くらしい。メンバーは愛葉、凪、そして女友達が二人の計四人。つまり凪はスーパーアウェイだ。


 さりげなく逃げようとしたが、あっさり捕まって今は電車の中にいる。


「ちょっとぉ、次は私が見る番だよ〜あおくん! 押さないでよぉ」

「なんだあの二人、こうして見る分にはかなりいい感じだし、お似合いだな!」

「うんうん。いい感じだよねぇ」

「……」


 ドアの窓から隣車両を覗き見している碧と玲那は、ある程度満足すると席に戻った。


 音葉はというと、ずっとイヤホンをしたまま小説を読んでいる。


「ねぇねぇあおくん?」

「どうした?」

「おとちゃんがなんか怖い」

「それあまり大きい声で言うなよ? 面倒なことが起きるから」


 音葉はイヤホンを耳から外すと、小説も一緒に鞄の中へとしまった。


「別に怒ってなどいませんよ。月島さんの交友関係に口を出すつもりもありませんし、そもそも私にはまったく関係の無いことです。愛葉さんとは波長も合うようなのでこのまま本当に交際されたらよろしいのでは? それで“面倒なこと“とはどんなことですか?」

「ほら、こうなった。おまえのせいだぞ」

「ひ〜ん」


 その後、必死にフォローを試みる玲那だったが、残念ながら音葉の機嫌が回復することはなかった。



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