第9話 ちくしょう
崖から落とされて、2日が経っただろうか?
もう時間の感覚なんてほとんどない。
喉は乾きすぎて痛みを感じるようになり、食欲は全開なのだが、食べられるものがない。
あたりは相変わらず真っ暗。
モンスターから身を隠している間、俺はロック達を恨み続けた。
どうして俺は殺されなければならないのだ?
一体俺がなんの罪を犯したって言うんだ?
なんでこんな目に会わないといけないんだ?
まぁ、今更なに言っても、この状況は変わらないのだけれど。
気付けば俺の前には、1匹の猫のような魔獣が座っていた。
体は猫の10数倍はあり、凶悪そうな目が特徴的な、とても強そうな魔獣だった。
じーっと、洞穴の中にいる俺を見つめている。
ちくしょう。
俺は心の中で叫ぶ。
恐らくこの猫は、俺を餌として見ているのだ。
俺が穴の中から出てくるのを待って、出てきた時に食べようと、じーっと俺を観察しているのだ。
俺は弱い。
だからこそわかることがある。
目の前の猫型魔獣は、捕食者の目をしている。
「っくそ。お前にとって俺はただの食いもんかよ...」
俺は猫に小石を投げつけた。
特に意味は無い。
もう俺はがむしゃらになっているのかもな。
グォォォオオオ!!!!!
当たり前だが、モンスターはライオンのような鳴き声で威嚇してきた。
「もう、終わりかな?」
俺は呟く。
特にこれといっていいことのなかった人生。
父親からはいないものとして扱われ、周りからはゴミのように扱われ...
唯一感謝できるのは母親だけで...
突然崖から落とされて、突然魔物たちに囲まれて...
ろくな人生じゃない。
ちくしょう...
俺の目からは涙が流れ出した。
こないだ、ロックたちの前で流した物とは違う涙だ。
ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう。
「もし、俺にスキルがあったら、また違う人生を歩めたのかな? もし、俺に剣術の才能があったら別の人生を歩めたのかな?もし俺が魔法とか使えたら、また違う人生を歩めたのかな?」
俺は魔物に手をかざして惨めな顔で妄想する。
「こうやって魔物に向かってブラックサンダーとか叫んでさ。ビリビリって、魔物達を全滅させてさぁ...」
俺は限界まで歯を食いしばった。
もう痛みも感じない。
圧倒的な絶望の前には、体の痛みなど、とてもちっぽけなものだった。
ちくしょう
俺はそっと前を見た。
絶望を見た。
だが、次の瞬間、俺の前には目を疑うような光景が広がった。
ブラックサンダー?お菓子じゃないですよ?




