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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第六章、助っ人

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91、従兄弟

 泣き言を言ってられないので私は本当にほんと〜に!!死ぬ気で練習を繰り返した。授業中も移動教室の時も部屋に戻ってからも、何度も何度も頭の中でイメージしたりぶつぶつセリフを声に出したりすることでだいぶ覚えてきた。リリアン先輩がセリフを減らしてくれて良かったよ。じゃなかったら到底間に合っていないからね。


 私の動きとセリフがマシになってきた頃には今度は本格的な舞台セットを用意しての練習に取り掛かることに。本日は第二校舎の側にある体育館を借りてそのステージで大道具の組み立てを行うようだ。


 それにしても大道具の作成なんて誰がしてたんだろう?空き教室での練習では役者メンバー以外はいなかったし、ソフィアはエリック先輩の手伝いで彼の仕立て部屋にこもりっきりだったし…。そもそも演劇サークルに大道具係がいたのなんて知らなかったが、よくよく考えれば当たり前のことで衣装だけで舞台は作り上げられない。

 先輩の後をついていきその場所へと到着すると、体育館の隅の方にまとめられて置いてある大道具と思われる塊が新たなサークルメンバーの存在を証明していた。


「リリアン先輩、これらの大道具を作った方はどなたなんですか?」


「え?ああ、そういえば。アイリス様には紹介がまだでしたわね。もうすぐで到着すると思いますので少々お待ちを」


 先輩のその言葉を合図にしたかのように体育館の扉が開いて二人の男子生徒が登場した。一人は私もよく知る人物でもう一人は…。


「お待たせー!もうみんな揃ってるかな?」


「ヘンリー先輩!ということは演劇サークルの大道具係ってまさか…!」


「え?いや違う違う!ボクは力仕事がある時だけ呼ばれるヘルプ要員だから!大道具係ならこっち!」


 ヘンリー先輩が慌てたように否定して彼の隣に並んでいるこれまた大柄な男子生徒をずいっと私の前に押しだしてくる。あまりの大きさにびっくりして少し後ずさるとその男子生徒が私に聞き取れるギリギリの声量で言葉を発した。


「…驚かせてすみません」


「いえこちらは大丈夫です…!」


「ほらジェイドったら、ちゃんと挨拶しないと駄目でしょ?」


「…分かった」


 ヘンリー先輩に軽く嗜められた彼はこちらに向き直ると先程よりもはっきりとした声で礼儀正しい挨拶をしてくれた。


「初めまして。俺は二年のジェイド・ローレンスです。演劇サークルで使う大道具や小物の作成を担当しています」


「そして!ボクの従兄弟でもあるんだよねー」


 にこやかな笑みを浮かべる先輩が真横に立つと、雰囲気こそはまるで似ていないが、よくみると顔の造形は確かに似ている。ジェイド先輩は寡黙という表現がぴったりくるような人でその体格もあって第一印象は少し強面のお兄さんといった感じだ。短めの髪の毛にキリッとした目元がより逞しさを強調させている。これで目の前に立たれるとかなりの迫力があるので小さい子だったら多分泣いてると思う。


「言われてみれば似てますね」


「先輩に従兄弟がいるなんて初めて知りました」


 私とソフィアが口々に反応すると、ヘンリー先輩は満足げにうんうんと頷きを返した。


「そうでしょそうでしょー!意外とボクたちの関係を知らない人が多くてねー。まあボクたちも自ら進んで話すことはあまりないから当たり前なんだけど」


「はいっ!そこまでですわよ。そろそろセットを作りませんと練習する時間がなくなってしまいますわ」


 私たちの会話が長引きそうなことを察したのか、リリアン先輩が会話に割り込んで流れを止めた。そこで私たちは一時会話を中止して、ジェイド先輩の指示の元でテキパキと組み立て作業を開始することに。こうして舞台の上で最初のシーンの大道具のセットを完了させた。

 リリアン先輩の話によると、シーン毎に大道具を回収して新しいものをステージに出したりする作業があるので今のうちに大道具を運ぶ作業に慣れておくように、とのことだった。そりゃあそうか、演劇サークルってそこまで大人数のサークルじゃないし、何から何まで自分たちでやらないといけないってわけね。改めて一つの舞台を作り上げる大変さを理解して今までこれをずっとやって来たであろうメンバーたちに尊敬の念を抱いた。


「皆さんご苦労様でしたわ。水分補給などしましたら5分後に稽古を再開します!」


 あっという間に休憩時間は終わり、早速ステージの上での練習が始まった。当たり前だが空き教室でやるのとはサイズ感が全然違うのでこれまた移動が難しい。ステージ横から出るタイミングもだが、身振り手振りも気持ち大きめにやらないとリリアン先輩のダメ出しが間髪入れずに飛んでくるのだ。


「ほらそこっ!遅いですわ!」


「もう少し体をこちらに向けてもう一回!!」


「表情の変化を大袈裟に!!」


 こんな調子である。練習の時は私ばかりが注意されていたが今日からはサークルのメンバーも先輩のダメ出しを貰っている。リリアン先輩の真剣な様子に今まで以上にこちらも気合いが入るというもので、私もそれに応えるべく全力を尽くして練習に励んだ。


「はいっ!お疲れ様でしたわ!時間ですので今日はここまで。次回は今日言われたことをきちんと直してくるようにお願いしますわ。それではまた明日!」


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