90、俺の日常
※テオドール視点 番外編です
あの事件から数日が過ぎた。すっかりいつも通りの生活に戻った俺だったのだが最近妙に視線を感じることが多い。もともと俺は女の子からモテる方だから周りの視線を気にしたことはあまり無かったけれど、四六時中誰かに見られているような気がしてならないのだ。
「やっほーテオ!今日も生徒会?」
「うん、そーなんだよねー!そっちは?」
「こっちも今からサークルだよ〜、お互い頑張ろーね」
「そうだね〜!じゃあ俺はこれで」
クラスメイトと他愛ない会話をして生徒会室へ向かおうと準備を始めた時だ。俺の引き出しから何やら可愛らしい装飾のされた便箋が飛び出てきた。察しのいい俺は中身を読まずとも要件は分かってしまう。だが一応確認のためにも俺は目を通すことにした。
ーテオドール・オーネット様へー
突然のお手紙で申し訳ありません。テオドール様にどうしてもお伝えしたいことがございます。つきましては本日の放課後、第二校舎の裏でお待ちしております。
差出人の名前は書いていなかったが、その筆跡を見ると可愛らしい丸っぽい文字で、女性が書いたのであろうことは想像に容易い。加えて呼び出しと来たら告白しかないだろう。
また、か。女の子から好意を向けられるのは正直嬉しいけど、告白を断る瞬間が堪らなく気まずすぎて嫌なんだよなぁ…。かと言って呼び出しに応えないとあることないこと変な噂をばら撒かれるかもだし(実際にそれをされた経験あり)、優しくして勘違いさせても面倒だし。本当に女の子って難しい…。
告白を断った後のことを考えて気分が重くなりながらも渋々指定された場所に向かうことにした。
到着してから少しして俺の目の前に女の子が姿を表した。小柄で眼鏡をかけており大人しそうな女の子。リボンの色から見て俺と同じ三年生であることが分かるが、やはり俺の知らない子だった。
「すみません!お待たせしてしまいましたか?」
「いいえー全然。所で伝えたいことってなにかな?」
早くこのイベントを終わらせたくて続きをつい急かしてしまう。なぜなら俺の答えは既に決まっているからだ。女の子はそんな俺の様子に少し戸惑っているみたいだったけど、気を取り直したように目線を上げて口を開いた。
「あのっ!えっと…!先日は助けて頂いてありがとうございました!あの後先生から色々お聞きしまして、貴方がいなかったら私…」
まるで話が見えてこない。俺、なんかしたっけ?どうらやら他の誰かと勘違いしてるみたいだ。
「話の途中でごめんね?俺と君ってこうして喋ったのは初めてじゃないかな?」
「いいえ!そんなはずは…!覚えておりませんの?先週の金曜日のことです。私が薬を無くして探していた所を貴方が見つけて下さったではないですか!」
先週の、金曜日…?まさかアイリスちゃんと入れ替わり生活を楽しんでいた日のことか!どうりで俺の記憶に無いわけだ。女の子との会話なら全て覚えてるこの俺が覚えてないなんて有り得ないし。つまりこの子を助けたのはアイリスちゃんってことになる。うーん、人違いなんだけど人違いじゃないって訳ね。
「あー、そうだったかも?でも大したことないから気にしないで!ね!」
「いいえ!貴方のおかげで助かりました。それで、あの…」
女の子は少し顔を赤らめながら下を向いて言葉を詰まらせた。やばいやばい、やっぱりこれって告白だよな?しかも俺のことを好きなんじゃなくて、中身がアイリスちゃんの俺のことが好きだなんて。なんというか、無念…。
俺が頭の中でぐるぐると考えている間に覚悟を決めたのか、女の子はついに勢いよく頭を下げながら手を差し出して来た。
「私貴方のことが好きになってしまいましたわ!よろしければ私とお付き合いを、」
「ごめんね〜?俺、今は誰とも付き合う気ないんだ〜!」
俺は彼女の告白を最後まで聞かずに遮ってしまった。しかも今どき頭を下げながら告白って…。古風な告白に内心苦笑しながらもやっぱりか、と思った。というか経った一日入れ替わっただけなのに女の子に告白されるとか、有り得なくない?つまり中身がアイリスちゃんの時の俺の方がモテるってことだよね…。なんか悔しいな…。
「そう、ですの…」
「うん、ホントごめんね〜!それじゃあバイバーイ!」
女の子の傷つく顔を見るのは何回見ても慣れないけどこればっかりは仕方ない。それにこの子が好きなのはアイリスちゃんなんだよなぁ…。うーん、どうしたものか…。この場を立ち去ろうと一歩踏み出したが俺は一瞬立ち止まると、振り返って彼女に声をかけた。
「君にはもっといい人がいると思うなー?たとえば…あの子とか、ね?」
「へ?」
ちょうど俺の視線の先には生徒会室へ向かうだろうアイリスちゃんとソフィアちゃんの二人組が談笑しながら廊下を歩いている。女の子は何が何だかさっぱり分からないというような顔をしながらただそこに突っ立っていたが、俺はそれを無視してアイリスちゃんの方へ駆け寄って行った。
「おーいアイリスちゃーん、ソフィアちゃーん!!」
俺の大声に気づいた二人はそれぞれ怪訝な顔と驚いた顔をしたが立ち止まって俺の合流を待ってくれていた。そんな二人に足早に駆け寄ってから振り返ると、俺の気のせい、か…?こんな離れた位置から彼女の表情は確認出来なかったけど、なぜだか俺は彼女の口元が笑っているように見えたのだった。




